「チィファの手紙」"Last Letter" 《你好,之華》劇場鑑賞

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厚木で三週もかけてくれてたのですが、レビューを見ると、だいたいみなさん日本版と両方見てる方が多いので、福山雅治の日本版見てない私としては、非常にためらうところがあり、迷いに迷ってまたしても最終日に鑑賞しましたが、見てよかった。この映画は、中国であって中国でない、中国でないどこか中国が舞台です。その時点でちょっと泣けてきてしまった。

"你真的很喜欢她" こんなせりふが言えるのは若いうちだけなので、言ったことない若い人は即言ったほうがいいです。

レビューで、監督も言葉の壁もあってか、もっと細かい演技指導が出来なくてもどかしかったのでは、などの評があったのですが、どうしてなかなか、中国人が中国語を喋るだけなのに、それはもう中国ではない。日本人の岩井監督が、日本語字幕も岩井監督なのですが、日本人にするように演技指導したわけでもないでしょうが、役者さんひとりひとりが、まるで自分が日本人になったような、日頃ギャグとしてしか認識してなかった、〈温柔体贴〉を自国語で体現する羽目になるとは、夢にも思わなかったに違いありません。京都で貸衣装のキモノを着て歩くのは外見上の日本人のコスプレで、この映画は、内面で日本人のコスプレを、中国にいながら中国人の役として中国人が演じるという、非常に高度な離れ業です。びっくりした。

だいたいこんな間取りの家がそうそう中国にあるわけはなく(と私は思う)、特にナイナイだかラオラオだかの平屋の一軒家は、同じような家が語言文化大学の中国語教材の動画に出て来るのですが、コロナ前まで通っていた月二の中国語会話の老師は、これは家というより別荘、别墅ではないかと言ったくらいです。現実離れしている。

チェンチェンくん(晨晨。この漢字は、一見日本で使われていないように見えますが、宋代以降に日本に入った禅宗なんかだと、原義どおり早朝の意味で使われています)が永迫博美、否、周迅の家(タワマンのようだが低層マンション)の部屋のスイッチ、開關をパチパチつけて回る場面で、中国もこういう住宅ならこういうスイッチなんだなあと思いました。とまれ、各人物の室内での動作、立ち居ぶるまいも、なんしか日本と中国の和漢折衷のような気もしてならなかったです。

どうも私がコロナ前まで行ってた中国語会話の先生はこの映画を観ていたのではないかと思うフシがあり、大型犬やら公園に集う老人パワーやらの当代中国よもやま話のヒントに、この映画のパーツが使われているような気がしてならないです。あと、横浜の中国人学生の溜まり場の店で、店員を呼び止める際、「ブハオイース!」と手をあげて呼び止めてた在日三世か二世の子は、永迫が、否、ジョウ・シュィンが、最後のほうで、図書館で、来訪者に「すいません、今日は休館日です」といおうとして、「すいません不好意思」で相手が初恋の相手であることに気づいて言葉をとぎらす場面を見て影響されたのではないかと思いました。同じ中国語喋るにせよ、こう喋ると内面が日本人ぽいというか、このほうが好もしいがいかんせん中国はそうではない、と考える華人の末裔の琴線に触れてもおかしくない映画だと思いました。

ベトナム人のトラン・アン・ユンに世界のハルキ・ムラカミのノルウェイの森撮らせてみたり、台湾の巨匠ホウ・シャオシエンに一青窈主演映画撮らしてみたりも聞きますが、この映画のように、日本人が中国で撮るとどうなるか、それを見てみたいです。金子修介もハルピンで撮った映画お蔵入りになってると聞いたことありますが、見てみたい。政治的理由で許可が下りなかったというから、無理筋な匂いがペンペン、否、プンプンしますが。

 あと、この張子楓という役者さんにはやられました。こんなに幸せそうに笑える子はなかなかいないし、この髪型を真似したいとすら思いました。このもっさい髪型がよかったと思う。実際のこの役者さんの髪形では、通常の美少女に見えてしまい、三割減。

張子楓 - Wikipedia

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こんな子供部屋が中国の住居にあるかどうか。時は現代21世紀、さて。

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ほかの名前は調べなかったのですが、この名前だけ調べました。監督も調べて使ったのだと思う。あと、主人公の妹さんの現在の姿は、けっこうなんだと思いました。主人公もたいがいな姿の大人になってるので、合わせたのか。セリフも口パクな気もしましたし。室内まで上海ロケとは考えにくいし。

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周迅胡歌《之华》引热议 演员转型求突破不易|你好之华|周迅|胡歌_新浪娱乐_新浪网

張超役の役者さんは、どっかで名前見たなと思ったら、最近見た鵞鳥湖の夜のヤクザ役の人でした。劇場で見た時は殴られてなかったですが、上の動画では殴られてるようにも見え、まあかつての恋敵がこんな卑劣漢と分かったのなら、殴らなければ主人公は腰抜けだと思います。主人公もどっかで見たような気がしましたが、別に見たことありませんでした。ジーナン役の子は、最近見たイップマンに出たシーサンパンナ出身のハーフかと思いましたが、違いました。永迫、否、周迅の旦那さん役の男優は、最近見た在りし日の歌に出た俳優さんでした。

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主人公の名前、尹川に、インチャンとルビが振られてるのですが、"yinchuan"インチュワンではないかと。スワロウテイルのチャラの中国語は素晴らしかったのに、なぜにしてという感じ。舞台は、出て来る車のナンバーが「辽」なので遼寧省だと看破していて(百度によると、撮影は大連のナントカ区とナントカ区とナントカ区だとか)、今天が、四声一声に聞こえるのは、東北方言には山東方言が入ってるからだろうかと思いました。ネイティヴ山東なら、チャオズがギョウザになる如く、今天を「ギンティエン」と読むはず。

尹川が、「伊」の作りの部分と、四川の「川」です、と名前をどう書くか紹介する処を余さずセリフに入れてるのは、監督が、中国人がみなこれが出来るのがオモシロイと思ってるからだと思います。「伊」って、どう説明してたかな。伊能静だったか、新疆ウイグル自治区の伊寧だったか。どちらも違う気がします。彼の郵便受けの上の段の名前が、カスれてますが、王蒙だったので、遊んでると思いました。反対に彼の唯一の出版小説がA5のハードカバーなのは、中国ならB6くらいのソフトカバーが普通なので、違和感アリアリで、日本の小道具さんがしつらえたものをそのまま持ち込んでしまったのかと思いました。関係ありませんが、映画の最初、映画会社のデモ動画がズラズラ並ぶところに、アリババがあった気がするのですが、今百度ウィキペディアを見てもそれはなかったです。気の迷いか。

你好,之華 - 维基百科,自由的百科全书

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タイトルロールの役者名の中に、以前の知人と同じ名前があり、同姓同名だろうけど、ひょっとして同じ人だったらオモロいなと思いましたが、やっぱり同姓同名で別人でした。ぜんぜん年齢も違う。ただ、その知人の恩師の、もうとうになくなられてますが、満洲国時代に日本語を学ばれた方も、こんな穏やかな人だったのかなと思いました。

そう、たぶんこの映画を観たかつての中国語会話の教師も思ったでしょうけれど、中国の老人はこんな穏やかでないので。人にも無論よるでしょうが、ジーホワが母親の前で、おいらくの恋みたいな母親の文通の手紙(英文の文章とその添削になる往復書簡)をひらひらさせてからかう場面など、母親は、あれあれこの子はおかしな子だよう、みたく、いくつになっても娘を娘として扱う日本の老人そのままのしぐさをしますが、こんなの、シルビア・チャンあたりが見たらヘソが茶碗蒸しで、"你干吗!逗我玩什么"とでもピシャリと云うと思います。このセリフがピシャリなのか、まったく自信はありませんが。

話をもどすと、日本人が思考した世界を中国人が演じることによるえもいわれぬ玄妙なこんころもちがこの映画の醍醐味だと思いますが、日本人のかなしみまで中国人が演じても、そもそも中国人そんなドツボにはまらないので、という部分があり、それがこの映画の弱点と思いました。以下ネタバレ。学食で働く兄ちゃんが学生のふりして校内イチの美女をかっさらうとか、なかろう。そして彼女がマッチングで病んだのち、二人の子を残して自裁とか、どうかなあと。ためらい傷のある中国人がいないとは、口が裂けても言えませんが、大学生のうちに腐れ男に引っ掛けられるにしても、同級生にしておくのが無難だったと思います。そうすると日本だと、政治的な男性に引っ掛けられるとか、また余計な色をつけるのだろうか。どのみちここは、インドに行けばリキシャ引きと結婚し、中国でも招待所の服務員の熱烈なプロポーズに応えてしまう、日本人女性の姿ありきで話を進めているので、ニューヨークで黒人と結婚して出産して離婚する北欧女性(内田春菊のエッセーマンガによく出ていた)ならまだしも、中国だとどうだろう、例えば日本に留学して(韓国でもフランスでもいいですが)中華料理でアルバイトしてる時に厨房の誰かにコマされてそのまま結婚、くらいじゃないでしょうか、ありそうな話としては。

だから監督は日本版をもっかい作った、とまで書くと書き過ぎでしょうか。寝取られ男の悲哀を書くにしても、シチュエーションが、ちょっと中国人を納得させられたのかどうか。

以上

【おまけ】

https://www.youtube.com/watch?v=XfWhXcZVqw4

岩井俊二 - Wikipedia

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