『月と金のシャングリラ 2 』"Shangri-la for moon & diamond" The Second Volume by Kuranishi 読了

 装丁 川谷康久(川谷デザイン)[初出]Webメディア・マットグロッソ2018年7月26日~2020年5月28日掲載分に描き下ろしを加え構成とのこと。巻末にあとがきマンガと、参考文献と、Spacial Thanks。

月と金のシャングリラ 2【電子限定特典付き】
 

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君が生きてさえいれば、僕はそれでいい…。 |チベットの僧院を |舞台に描く、 |壮大な愛の物語。 |ここに完結!!

チベットを舞台にしたBL。あとがきマンガによると、ここまで描くのに三年半かかったそうで、マンガって大変だなと思いました。ネタバレを恐れずに書くと、主人公がLGBTとして自分の気持ちに気づく過程と、それがどのように相手にばれるかが見どころだと思います。そりゃいーやスマタしてよ、とか、そういう展開にならないことは保証できます。

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――せめて一番の友だちでいるために  この気持ちを知られてはいけない…。  生きとし生けるもの全てが幸せでありますように。

生きとしいけるものは~ は、本文にも、チベット語のルビつきで登場します。

セムジュン タムジュー ラ デワ ヨ ンガ ショー 

老眼で小さい字が視にくくなってるので、いちぶ違うかもしれません。

主人公がおそらく西洋人とのダブルであること、などが語られますが、よく分からない。前作『流転のテルマ』で、生き別れの兄がどうこうと同じくらい謎。

再度ネタバレ。ふたりのその後が見開きページのト書きで簡潔に語られてしまうと、ああ、それじゃもう二人のBLはなくなるので、それでここで完結にしてるのかなとも思いました。少女漫画の歴史恋愛大河ロマンで、池田理代子オルフェウスノマド』もとい『オルフェウスの窓』をふと思い出しました。あれの第二部と第四部(完結編)は、本筋の大恋愛の脇に位置する片思い男のストーリーで、ベルばらでメガヒットを飛ばした漫画家の次作なので、本筋以外も、本筋に行けば面白くなるだろう的な忖度、否、斟酌があり、片思い男と、彼に絡むさらに脇キャラとの重いしがらみが、はよ本筋描いてよ~という読者の声をサディスティックにじらしまくって、単行本五冊くらい描かれます。このまんがも、ふたりのその後をこう言い切ってしまった以上、続きを描くとしたら、オルフェウス第二部方式しかないのではないか、ほかの誰かの腕に抱かれたりメシを作ったりしながらこの空の何処かに生きていてほしい相手を想う… と、思いました。

 時は1950年代。中国軍によるチベットを取り巻く環境は、日に日に悪くなって行き……。
ダワとドルジェ、宿命の出会いの結末は――――。
僧院の絵師として生きていくことを決め、
ドルジェや仲間たちと修行の日々を過ごしていたダワ。
しかし成長と共に、己の心のうちに「ある想い」が育っていることに気づく…。

 破壊された僧院や略奪に遭った牧民のテントなんかが出ます。「毛沢東の軍隊は針一本民衆のものは盗まないんだ!ウソばっかりだ!」と思う人は憤慨しながら読む醍醐味が味わえるので、ちょっとうらやましいです。私もそんな読み方をしてみたい。"Special Thanks"に、漢語も出来る人がいるわけなので、"毎個人都逆反我們"(頁244)はなんで〈造反〉を使わないんだろう、などときどき引っかかりながら読んだ箇所のチェックはされたのだろうかと思いました。全体的に稚拙な、機械ホンニャクを組み合わせた漢字のラレツのような… 簡体字でなく繁体字を使っているのも不思議です。人民解放軍の兵士なんだから簡体字でいいと思うんですが、この頃はまだ試行錯誤のさいちゅうで、末端というか、解放軍の最前線部隊なんかには当然広まってないという時代考証なのか。漢字で書いても分かるような常用四川方言を取り入れたせりふにしたら、ぐっとリアルさが増したと思います。すでにそうなってるかもしれませんが…

それとも、意地でも簡体字使いたくないのか。北京五輪長野聖火リレーで、福原愛の前に飛び出して沿道の中国人留学生たちから五星紅旗でくるまれてボコられたチベット人が台湾在住なのを思い出しました。

とまれ、電子版だけのマンガにせず、紙版を作った英断に敬意を表します。それだから読めました。39。以上