『きりみ』読了

ブックデザイン 椎名麻美 編集協力 佐藤暁(アマナ/ネイチャー&サイエンス)

きりみ

きりみ

  • 作者:長嶋祐成
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 単行本
 

 ビッグコミックオリジナル連載『前科者』の今号に登場したので、読んでみようと思った絵本です。楽に読めそうだと感じたので。

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近隣の図書館は貸出中だったので、インフルエンサー的な人が流行らそうとしてる一環でマンガに出たのかと警戒しましたが、よく見ると一昨年の出版だったので、たぶんちがうです。

www.kawade.co.jp

切り身の英訳をつけないと「きりみ」が何か知らない人がいるかもしれないと思いましたが、日本語より表現が豊かでしたので、こりゃだめだと思いました。

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fillet,cut,slice,piece,slab,portion... (薄造りの)フグ刺しなら"slice"でしょうけれど、フグ刺しを「切り身」だと思う人もいないでしょうから、"slice"は捨てるとしても、まだ三つ以上候補がある。

因みに、漢語は一択で納得でした。

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確かに、切り身は〈魚片〉でしかない。〈魚块〉という単語もありますが、ブツ切りな感じで、切り身のイメージとは違う。

作者は本書刊行時のインタビューを見ると、

長嶋 「子どもだから、この程度の内容でいいでしょう」とか、「子どもにはこういうことを知っていてほしい」というような大人の計算が働いた目線ではなくて、純粋な好奇心のまま、子どもも大人も楽しめる本を作っていきたいと思います。

「自分の知っている、その魚<らしさ>を描きとめたい」 絵本『きりみ』刊行記念! 作者・長嶋祐成さんインタビュー【後篇】|Web河出

と、素晴らしいことを書いているのですが、実はこういうことはとても難しいのだと改めて思いました。「切り身」という言葉もそうですが、下記、カバー折の煽り文句も然り。

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しおやき、につけ、みそに、フライ……  いつもたべているのは  どんなさかなの どこのぶぶん?  ピカピカだったり あおかったり あかかったり  さばく とちゅうも うつくしい。 みぢかな たべものから みてみよう! 

全てひらがなで書いてしまったことで、「さばく」を「捌く」でなく「砂漠」と読んでしまったり、「みそに」を「味噌に」と読み、なんかヘンだなと思って、よくよく考えて、「に」は助詞でなく名詞ではないか、つまり、「みそ煮」だと気づいたり… かんたんにしようとして、かえってこんぐらがらせてしまっている。

児童書のノウハウが豊富な出版社なら、その辺は二人三脚の編集者がじゅうぶんにマカチョーケーな感じでしょうけれど、河出なので、いっそふつうに「大人の絵本」に舵を切って作った方がよかったかもと思いました。

本書に登場する魚介類は、現在作者が居住する石垣島の、亜熱帯のそれというより、温帯から亜寒帯の、日本列島本島部に普遍的な魚と思います。作者は大阪出身で京大出なので、石垣に住んでるとそうしたヤマトの魚が懐かしいのか、あるいは、島の子に、ヤマトの魚介類を教えたいと思ったのかの、どっちかだろうと踏んだのですが、上のインタビューだと、島に遊びに来るヤマトの子に琉球弧の魚を教える話ばかりで、創作意欲がどこから湧いたかは、結局理解出来ませんでした。

【このほんに でてくる さかなたち】
サケ、ニホンウナギ、タチウオ、マガレイ、ヒラメ、クロマグロ、マサバ、スルメイカ、サザエ、ホタテガイ、マダコ、クルマエビムラサキウニズワイガニ、カツオ、スサビノリ

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本書奥付のプロフィールは、河出ウェブ版のそれより細かいです。京大で何を学んで、それがどう現在の芸術畑の仕事につながっていったかに触れている。ウェブはそこは書いてない。

印刷のせいなのか、本書の魚は、発色もいまひとつで、絵柄もソリッドというか、硬質な感じがして、マニア来了、コレクター来了と思いましたが、個展訪問記に出て来る原画を見ると、ぜんぜんきれいですので、硬いのは、解剖図や料理図に初挑戦してるから(上記インタビュー)だと思いました。

plus.luremaga.jp

タチウオがハモみたいに見えるけれど、写真や動画などで、私よりたくさん泳いでる姿に接している人だから間違いあるまい、マサバの泳いでる姿も然り。等々、考えながら読みました。マンボウの切り身など、泳いでる姿だと、どのあたりになるんだろう。

タコの刺身とイカの煮つけを描いてますが、私なら、イカはお寿司を描いて、タコはぶつ切りを描くだろうと。イカの刺身に、包丁を入れて筋を切って食べやすくする「仕事」を絵にしてほしかった。同様に、車海老はエビフライだけでなく、中華のエビマヨも描いて、すじを切ればエビは加熱しても丸まらない、中華は切らないから丸まるというロジックをグラフィカルに示してほしかったなと。

本書にサバ味噌は出ますが、考えてみれば、ほかにみそ煮って、ない気がします。「みそ煮」で検索すると、検索上位に、サバ以外の味噌煮は、トリ肉がひとつランクインしただけでした。

 これもやりようによっては、おかべたかし&やまべたかしの「目でみることば」のようにシリーズになるかも、と思いましたが、スサビノリなど、如何にも地味ですし、印刷の発色の問題もあるのかなあとやはり思ってしまいますし、切り身と原形の対比を可視化したらおもろいんちゃうん、というコンセプトの実行が意外に難物だったということだと思いました。以上

【後報】

イオンで購入頂いたお歳暮。

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オールパック冷凍。

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あたま。

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切り身。

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裏面。しかし、宅急便サイン不要になって、ほんとに配達の人うれしそう。

(2020/12/17)