トレース・シリーズ『愚か者のララバイ』TRACE Series No.7 (FINAL) "GETTING UP WITH FLEAS" by Warren Murphy(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

愚か者のララバイ (早川書房): 1990|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

カバー・吉田秋生 読んだのは初刷 表紙写真は来月(予定)

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裏表紙

六百万ドルの生命保険に入った映画スター、トニー・マキューのボディーガードをしてきてほしい、というのが、グルーチョの新しい依頼だった。場所はニューヨーク北部の撮影現場、撮影期間は二ヵ月で、その間は何があってもスターに死んでもらっちゃこまるのだ――ニューヨークでの探偵稼業もままならないトレースは、渡りに船とこの話に飛びついた。しかし、スターはすでに何者かに命を狙われており、現地の映画関係者を訪ねると、彼に恨みを抱く者がぞろぞろと……マシンガン・ジョーク満載の人気シリーズもこれをもっていよいよ涙の最終回! 

 訳者あとがきは、シリーズ通しての苦労話と、終わったのちの、万感迫る胸のうちの吐露。原書のジョークをどう訳すか、そもそもどういうジョークなのか、片っ端からネイティヴ・スピーカーに聞きまくったとか、前例のない翻訳スタイルとか、担当編集が背中を押してくれて、読者の支持もついたとか、だから各誌書評は冷淡だったが気にしないとか、そういう話。原作自体、五作目『豚は太るか死ぬしかない』"Pigs Get Fat" でアメリカ探偵作家クラブ賞受賞して独自スタイルの頂点に達した後は、その変革、解体が始まり、最終作打ち止め宣言に至っており、転がる石は苔を生じないのが作家のさがなのかと。

そうなんだ、と、とちゅうの話を読まず、最初とラス2とこれを読みついだ私は思いました。この話も、前作同様、別のキャラ(銀幕スター)が主人公と同類の毒舌冗談好きで、外見だけ人を惹きつける魅力に富んでいるという設定なので、ややこしいと思いながら読みました。映画スターが主人公と異なるのは、嘘つきで人をかつぐのが好きな点です。そういう話なら、ハリウッドを舞台にすればいいのに、わざわざ米国東部の小さなロケ地の街を設定してるのが、不思議でした。その辺、そうせざるを得ない事情でもあったのかなあ。

頁73に、21世紀には精神科学は化けの皮が剥がれて、中世の錬金術同様、インチキだったと分かるだろうと、登場人物の台詞として書いてますが、外れてると思います。

そんなこんなも含め、原作者は多作な人間だったそうなので、いろいろごちゃごちゃして、もうおしまいと思ったのだろうかと思いました。あるいは下原稿を書く人がキレを失ったのか、どっかにいってしまったのか。

Getting Up With Fleas (Trace Book 7) (English Edition)

Getting Up With Fleas (Trace Book 7) (English Edition)

 

 以上