トレース・シリーズ『伯爵夫人のジルバ』TRACE Series No.2 "AND 47 MILES OF ROPE" by Warren Murphy(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

伯爵夫人のジルバ (早川書房): 1986|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

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カバー・吉田秋生 読んだのは初刷

 ラスベガス郊外、伯爵夫人の留守宅で執事が頭を殴られて殺され、邸内の金庫から百万ドル相当の宝石が盗まれた。執事は伯爵夫人を受取人とした高額の生命保険に入っていたため、保険会社のたっての依頼で、トレースはまたもしぶしぶと調査を開始する。ところが、訪れた邸には、悩ましい水着姿の伯爵夫人を始め、真っ裸のポルノ女優やら得体の知れないプレイボーイやら男爵やら、いずれも怪しげな人物ばかりが出入りしていた……狂った世界の元凶の一部たらんと決意した男、トレースがあばく事件の意外な真相とは? 機知と警句のシリーズ第2弾

 図書館に二作目もあったので読んでみましたが、トレースの父母が早くも登場し、警察を定年退職した父親が息子の仕事を手伝ってるとは思いませんでした。あとがきはトレースが別れたヨメとサンとドーターに冷たいと何度も書いてますが、父母が息子にベッタリなふうに読めるところをそうは形容してません。私の感覚がオカシイのか。作中のジョークが、如何に原文とかけ離れているか、またそれは、原文を直訳しても、説明になるだけで、クスリともしなくなるからしかたなくやってることなんだ、と、訳者が強弁してるところは、分かりましたという感じ。

(例)

トレース:"Do I have wattle yet?"

チコ:"What's a wattle?" 

トレース:"I don't know. What's a wattle with you?"

これ、"What's a matter with you?"をもじってとぼけてるそうです。そうとは思わなんだ。チコは母親が日本人で父親はイタリア系。東洋的な顔立ちで、そういう娘さんがネイティヴイングリッシュの玄妙な奥飛騨慕情が分からないから質問してるのに、これはないわーと思わないでもないです。トレースの父親はユダヤ人で母親はアイリッシュ

訳者あとがきで「マンチキン」「クインシー」「バナチェク」などの単語は読者もご存じでしょうと書いていて、ご存じでないので検索しました。

マンチキン - Wikipedia

クインシー - Wikipedia

BLEACH滅却師は、アニメ聖闘士星矢の鋼鉄聖闘士のような夾雑物感があります。トレースで言っているのは、BLEACHでなくDr.クインシーと思いますが、チェーンソーマンの「公安編」の公安は、中国の公安以下略

en.wikipedia.org

本書の豪邸には、トップレスの美女が少なくとも二名、やたらめったらくつろいでいて、トップレスって、今はどうなんだろう。これだけ撮影転送が安易になると、私的空間とはいえ、遠慮する人が増えててもおかしくないと思いました。渥美清カメオ出演する寅さん映画の宣伝に、ゴクミの人が徹子の部屋なんかに出た時、ゴクミの人もプライベートな島かなんかでトップレスでアレジといちゃついてるところをパパラッチに抜かれてるのですが、まったくそれ思い出しませんでした。ふしぎなものです。今、トップレスというキーワードで文章を書いていて、それを唐突に思い出す。よっぽどほかにトップレスという言葉で出てくる記憶の引き出しがないんだろうな。我ながらふびんです。

ハダカでくつろいでるパツキン女優(豐乳)の名前がナショナル・アンセムで、ロバと性交するポルノ映画でデビュー予定とか、なにがおかしいのかさっぱり分かりませんでした。国姓娘合戦。

頁111、日本人、東洋人は酒が弱いという記述がありますが、誇張が過ぎるかなと思いました。

頁110

トレースは小卓の上におかれたグラスをとって、フェラーラ上着の袖にウォッカをゆっくり流しはじめた。

 まるまる一秒かかって、酒が半分までこぼれ落ちたとき、ようやく異変に気づいた。フェラーラはふりむいて、トレースをにらみつけ、それから濡れた袖を見た。

「この野郎」袖を拭きながら、「一発くらわしてやろうか」

「残念ながら、そうはいかない」

 殴りかかってきたので、トレースは体をひらいて、拳を右耳の先でかわした。(以下略) 

 上記が、酒が強い人のやること。

頁202で、このフェラーラというプッシャーが、アフガンのハシッシはアヘンをつなぎに使っているから粘りがあると言い、元刑事が、アヘンじゃなくて♈牡羊の脂肪だよと訂正する場面があります。勝手に粘りが出て固形になるんだと思ってました。

頁248

「やあ、母さん」

「朝食はすませてきたの」

 ふたりはアラビー・ホテル・アンド・カジノのロビーに立っていた。

「朝食はいつもとらないんだ」

「つくってくれるひとがいないんでしょ。朝からお魚やお米は食べられない」

「そのとおり。朝から魚を食うのは野蛮人だけだ。母さんは食べたかい。なんだったらベーゲルとサケの燻製を用意させようか」 

 ここ、ニシンの燻製だったら、母親が日本人の朝食にイヤミを言ったことへのカウンターで、イギリス人の朝食を揶揄してると分かるのですが、鮭でもそう言えるのかなあ。ベーグルはユダヤ。上の「ベーゲル」は原文ママ。図書館には三冊目はないみたいです。四冊目はありました。以上