『アメリカ紀行』"Amerika Kiko" by Chiba Masaya 読了

 ビッグコミックオリジナルの『前科者』で、ロイホの女子読書会で読んでた本。正確にいうと、アブナい自己啓発なんだかクラファンなんだかみたいな人集めやってる人物の書いた冊子を、どう思う、ってな感じになった時、ぱらぱらめくるから、その間、これでも読んどけみたいな感じで渡される本。

アメリカ紀行 (文春e-book)

アメリカ紀行 (文春e-book)

 

 千葉雅也 - Wikipedia

書き下ろし。装丁 関口聖司 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』という文春から出した本は、六万部売れたそうです。哲学書? ハウツー本?

2017年10月1日、中華人民共和国が建国した都民の日から、2018年1月末まで、ハーバードのライシャワー日本研究所客員研究員として招聘され、滞在し、そのほかニューヨークとロスとマイアミに行ったよ、という記録。ブログとかに既に書いてるのを整理したのかほんとの書き下ろしなのかは知りません。こんなにあっさりした表紙で、作者の写真を見て、へえと思いました。民泊先の黒人LGBTQ?の人にカムアウトしないと分かられなかったくだりなどをそこから考え直し、納得するような気もします。

もっとも、本書では何度も映画「ムーンライト」に触れていて、いやあ、オリエンタルだし、アン・リーの「ウェディング・バンケット」にも触れればいいのに、でももう古いのかなと思ったりしました。

頁22、アメリカのカフェは、客に渡す使い捨てカップに名前を書いて識別するからか、"What's your name?"と毎回聞かれて辟易するみたいなこと書いてます。後半は、デヴィッドという名前でてきとうに受け流すことにしたので、「マサーヤ!」とへんなアクセントで呼ばれなくてよくなったとか。"Who are you?"と聞かれるわけでもないし、私の名前はもっと非凡なので、べつにいいじゃんマサヤでと思いました。

英題は下記から。

https://www.worldcat.org/identities/lccn-n2019005327/

頁60、"construe as"という動詞は受験勉強では出ず、大学以降文献で覚えた言い回しで、それを米国のインテリが口にしたので印象に残ったとあります。

ejje.weblio.jp

本書にはドゥルーズとかガタリとか専門職の専門分野が出て、キリスト教の異端との関係も分からない自分は、ぽかーんと読んでました。

頁40に、"Lo Mein"という汁なし太麺のソバが出て来て、伊那のローメンとも違うようでした。写真あり。本書は、アメリカなのですが、至るところに日本料理屋があり、まともなので、アメリカと日本って、そうなんだと思いました。"Uber"というと今は突然ウーバーイーツが広まってて、昨日など、東京のシェアライドの電動自転車こいでる配達員すら見ましたが(マイヴィーコーですらないとは、ほんと自由)本書ではタクシー配送アプリのことで、それより"Lyft"というアプリのほうがいいと、唐木元という人に教わっています。ちょっと"Uber"より安くて、"Uber"と違って、配達員が顧客を評価しないからだそう。というか、顧客が配達員を☆評価するシステムって、日本のウーバーイーツにあるんかいな、あればこんなネットでやんや声が溢れないだろうと思いました。この人からの配達拒否とか、この人への配達拒否とか、アメリカにはあって日本にないということでしょうか。

ロメンくん

名物ローメン

伊那ローメンズクラブ加盟店

ライシャワーのパーティーマサチューセッツの知的文化人が集まる場面で、そこで著者の高校の時宇都宮に英語を教えに来てた人に再会する場面はおもしろかったです。そのまえふりで、こういうふうにエスタブリッシュメントの階層分化があると、トランプ当選もうなづけると話してた直後だったので。宇都宮に来てた人はウォルサムという内陸部のブランダイス大学に勤務する漢詩文の研究者で、そのタマゴ時代日本で高校生に英語を教える經驗も積んでたという。水戸に来て正気の歌とか見て、ニヨニヨしてたんだろか。

アメリカのほうがディベート文化が発達してるはずですが、どういう力関係なのか、わりと高圧的に断定される場面があります。

頁147、日本では流暢な日本語を喋る日本学者の家族の住むマイアミに行くと、その男(たぶん。クリスという名前ですが)が英語ばかりで日本語しゃべってくれないとか、海浜の湖沼地帯なのだが、湖に人工的に色をつけて青々としてるという、アメリカと中国は実は似てるみたいな小ネタがあったりします。

頁150

 クリスが、白人の自分がアメリカで浴衣を着て出歩くことはできない、それは「文化盗用 cultural appropriation」だとアジア系アメリカ人から批判されるだろう、と言う。

ここで、作者は、好きに着て、と感想を漏らしていますが、本書刊行後にキム・カーダシアンの"KIMONO"下着ブランド出現などが起きていますので、キム・カーダシアン以後どのように考えているか、柔軟なところを聞いてみたい気もしました。頭のいい人なので、それはそれ、これはこれかもしれません。

globe.asahi.com

www.elle.com

下着ブランド「チョゴリ」下着ブランド「チーパオ」下着ブランド「アオザイ」下着ブランド「サリー」下着ブランド「カミース」下着ブランド「ヒジャブ」男性用スカートブランド「キルト」…やはり、それはそれ、これはこれだろうなと。着て歩くことと、別の物を当てはめて傲然と胸をはることは、ちがう。

頁172、ショートメッセージを送ることを、"text"と動詞でいうそうです。アイ、テクステッド、ユー。作者はフランス留学経験もありますし、英語うまいと褒められてますし(うれしかないかもしれませんが)こういう、中学高校時代に、なんとなくこれくらいやっとかなきゃみたいに英検二級一級取ったりなんだりする人って、そうなんだよなと思いました。私は、読んでて、一ヶ所だけ、ラカンという名前があって、やっと知ってる哲学者が出て来た、とほっとしました。でも、ラカンフーコーデリダも読んでません。以上

【後報】

むずかしい単語のなかに、「レッドブルナントカ主義」みたいなことばが出てくるので、へえと思いましたが、具体的にどう書かれていたか忘れ、今ぱらぱらめくりましたが、どこにその単語があったかもう分かりません。

(同日)