カバーフォト=島田達彦 カバーデザイン=熊沢正人 カバー印刷=真生印刷株式会社
解説 結城信孝
男たちのら・ら・ば・い (徳間書店): 1999|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
簡易検索結果|「問題小説傑作選」に一致する資料: 9件中1から9件目|国立国会図書館サーチ
1983年6月号発表。『情状鑑定人』(集英社文庫)収録。こういうアンソロジーでもないと、逢坂剛という作家さんの作品なんて読まないです。『カディスの赤い星』くらいは読んでるのかなあ。記憶にないです。本書の作者紹介によると、「スペインを舞台にした作品に定評がある」そうで、ならば、この人が光で、時代小説に転身する前の佐伯泰英が影なのかも。
お金に困ってヤクザの覚醒剤運び屋のアルバイトをしてる公安刑事が、お金がほしい刑事たちを巻き込んで、ヤクザから大金を巻き上げようとする話。ぜんぜん善人に見えず、出来もよくなく、やることも卑劣な刑事たちが、等身大のヒーローとして読者の共感を呼ぶのかなあ(呼びません
加瀬あつし『カメレオン』なんかそうですが、さして強くもない主人公が、口さきのハッタリだけで、本当に強い猛者どもと渡り合うパターンがあるとするなら、そうした物語のライバルや敵は、洒落にならないくらい強い、モノホンに強いことになっていて、またそうでなければ説得力に欠けるのですが、この小説の敵の、群雄割拠の歌舞伎町で武闘派としてノシてきた若干四十代の組長(末端価格二億日元のシャブをかっぱらわれた)はまさにそれで、ふつうの人ならリタイヤ(再起不能ⒸJOJO)のダメージを負っても、不撓不屈の精神で這い上がって、菊の代紋の威を借りる主人公たちを追い詰めてゆきます。
それがどういうことになるかが短編小説のオチの楽しみなのですが、それはそれとして、構成員名簿を所轄の警察署に提出するマフィアが世界のどこにいるんだ、でも日本はそうなんデス、と言われた時代が、けっきょく公務員が次から次へとたらしこまれて鬼哭愁愁だったので、暴対法が出来てオワコンという経緯が、まざまざと理解された気になるほど、この短編のヤクザは個としてパワフルです。あっという間に吞まれてしまいそう。
頁70
白いコートの女は神保町駅から都営地下鉄に乗り、新宿三丁目で降りた。地上へ出ると、宵の新宿の街を角筈の方へ向かう。斉木は十メートルほど間隔をおいてあとをつけた。(略)
女は花園神社の境内を抜け、ゴールデン街の狭い路地にはいった。
私は、「角筈つのはず」という地名が、いまいちピンと来なくて、淀橋なら、ヨドバシカメラのあるところ、というふうに現在でも見当がつくのですが、角筈というと、なんだか地理感覚が散漫になってしまい、検索すると、はたして新宿駅の東側が角筈一丁目、西側が角筈二丁目とのことで、駅をまたがったぜんたいを角筈と言われると、そりゃイメージぼやけるわと思いました。小滝橋通りと山手線の内側の甲州街道青梅街道はわけて考えたいです。
以上