『ぼくは犬や』《나는 개다》"I am a dog" by BAEK, Hee-na 백희나 ペク・ヒナ 読了

装丁 伊藤紗欧里(ガラパゴ)

これもビッグコミックオリジナル『前科者』ロイホ女子読書会に出てくる本。犬の絵本と云うだけなら読まなかったですが、作者が韓国人だったので読みました。

 ただ感想を書いても芸がないので、この人のウィキペディアはまだ中文版がないのですが、著書はもうとうに漢訳されておりますので、それを貼っておきます。

日本語版ウィキペディアにも漢語名が併記されてますが、ペク・ヒナサンは白希那となり、たぶん、ヒナが漢字のない純粋ハングル名で、てきとうに漢字をあてるにしても、北京語に「ヒ」の音がないので、シーナになったんだと思います。これを山東人が読むとヒーナになる。

《唔喺狗》なら広東語なのでしょうが、台語(閩南語)は分かりません。下の邦文ウィキペディアでは、わざわざハングルの原題をコレクトに訳した日本語タイトルを付記していて、けして原題がチョルラド訛りであるとか、チェジュド訛りであるとか、はたまたプッカン訛りであるということはないと暗示しています。私はシロウトなので、チョヌンでなくナーヌンだから、少しはくだけた表現なのだろうなと思うくらい。ソウルからヌグセヨ。

백희나 - 위키백과, 우리 모두의 백과사전

book.naver.com

ja.wikipedia.org

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en.wikipedia.org

なぜわざわざ関西弁で訳されているのかについては、よく分からないので、少し検索しました。

www.ehonnavi.net

長谷川義史 - Wikipedia

訳者のひとは絵本作家で、翻訳家でもなんでもないのですが、2013年に最初に絵本の翻訳の仕事を持ち込まれた時、自分に来たということは関西弁で訳せということなのだろうと意気に感じて関西弁で訳したそうです。新井一二三でお馴染み、カナダのオンタリオ出身のジョン・クラッセンという人の絵本を訳したとか。

"I want my hat back"を『どこいってん』

"This is not my hat"を『ちがうねん』

"We found a hat"を『みつけてん』

と訳したとか。原文がそっけないのである程度いろいろやってウケて、そのノリでペク・ヒナサンの本も訳そうとしたそうですが、ペク・ヒナサンの父親は日語をかなり解する人だそうで、けっこうチェックも入り、また、ペク・ヒナサンは日本語をハングルにしてチェックして、絵が語っていることをわざわざ言語化イラナイ、等つきあわせを行ったそうです。そのへんが版元のはてなブログにあったので、読みました。

staffroom.hatenablog.com

staffroom.hatenablog.com

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ペク・ヒナサンの父親から、関西弁にしたことで原作よりあたたかみが出たとおほめの言葉をいただいたそうで、その辺はカナダ人作家の翻訳と同じ効果があったんだなと。でも長谷川サンはハングル出来ないそうなので、下訳した人がいたであろうと。

もうこんだけ調べたからあとはどうでもいいやという気もしますが、もう少し書きます。こんだけ人形作って写真に撮ってそれを絵本にするなら、クレイアニメのほうに進んだ方がもっとダイナミズムを味わえるのではないか? と思ったのですが、作者的にそれはしないのかな。ストップモーション・アニメの手法を使って絵本を作るなら、ストップモーション・アニメ自体も並行して作ってしまえばいいのに、的な。

https://www.bronze.co.jp/books/images/kg_in_bokuhainuya.jpg

上の右のような広角図法をやりたいから絵本で、アニメだと難しいのだろうか、いや、ピクサーとか、なんぼでもこういう構図やってそうだし、作家の嗜好は分かりません。上の右は、建物は童話っぽく、車と自転車、下水のフタは非常にリアルで、どこまでがクレイでどこからが写真を組み合わせてるのかと楽しくなる一枚です。公式からURLで貼りましたが、なんしか公式は著作権に関していろいろ言っていて、著作物利用許可申請書のDLとFAXの流れまでサクサク書いてるので、私も送った方がいいかなあと思ったり。

ブロンズ新社 - お問合わせ

https://www.bronze.co.jp/inquiry/document.pdf

表紙の使用に関しては、

加工しないそのままの表紙画像の利用については、書名、著者名(文、絵、訳など全て)、出版社名(ブロンズ新社)をご明記いただければ、許諾は必要ありません。弊社ホームページの表紙写真データであれば、コピーしてご利用いただいても結構です(但し、弊社ホームページ上のデータはWeb用のデータであり、印刷用のデータではありません)。また可能であれば、掲載物ができあがりましたら見本誌を1部ご郵送ください。
※著作物利用許可申請書のご提出は不要です。 

 と書いてあり、ブログも書いたら通知したほうがいいかなあと思ったり。相手のエゴサーチ待ちではどやさという。上の絵は表紙じゃないからなあ。

話を戻すと、この絵本が韓国の絵本だから私は借りたわけですが、ペ・ドゥナのデビュー作、吠える犬は嚙まない(原題はプランダスウィ、ケで、フランダースの犬だそうです)のように、無類の補身湯好きの親父に愛犬を盗まれた少年が、直木賞作家馳星周らの助けを借りて大捜索する話ではありませんでした。

ほえる犬は噛まない - Wikipedia

少年と父親と祖母の団地三人暮らしで、そこにスーパーの犬が生んだ子犬が来るという。『あめだま』と同じ登場人物たちのようです。

で、補身湯はどうでもいいのですが、個人的にどう書かれてるんだろうと思ったのが、戸田郁子『ソウル・サランへ▨日韓結婚物語』《서울 사랑해》第6章ワンワン物語に出てくる、「犬泥棒は泥棒じゃない」ということわざとか、人間の都合で勝手に去勢するのはかわいそうと言いつつ、犬が病気になったりすると簡単に賣っぱらうし、去勢しないで増えても賣っぱらうとか、二君に仕えずはハチ公に毒された日本人の戯言で、韓国では犬の転売が当たり前なので、有償譲渡先のご主人様にその都度仕えなければならないとかのもろもろです。先ごろ学徒が犬を譲渡して炎上したわが国では受け入れられない人がたくさんいるのではないかと思いつつ読みましたが、そういうくだりは一切ありませんでした。確かにこの絵本でも去勢をしないのですが(日本よりモンゴルに近いし、宦官もいたはずなのに)別に売り買いや譲渡の場面はないです。戸田郁子サンが結婚した1994年から四半世紀経ちましたので、韓国も変わったのでしょう(棒

stantsiya-iriya.hatenablog.com

ぜんぜん関係ないですが、戸田郁子さんの2017年の記事を読んで、相変わらず尖ってるというか、頑張ってるなあと思いました。

仁川(インチョン)からのパラム(風) 過去から現在へ | ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)

実は、私が張りきって準備した「旧日本租界の生活展」には、あまり人が集まらなかった。ところが戦後70年を記念した「資料で見る日帝侵略史展」には、びっくりするほどの観覧客があり、改めて韓国の人々の関心の在処を認識した。 

 というか、私は戸田郁子さんの中国朝鮮族の本をまだ読んでないことを思い出しました。はよ読まな。行くつもり(行かなくちゃ)は가야겠다。でも読むつもりはイルゴゲッタではないという。

www.iwanami.co.jp

吉田類サンが土佐のハチキン女性としてほめた坂東真砂子という人の本を読んでいたら、晩年、坂東サンは、南極物語で、タロとジロを処分するのは飼い主である万物の霊長たる人類(神が似せて作った)の役目、的に、子犬をどうこうして、死後も消えることなく炎上し続けてることが分かり、お犬さまというか、犬部はむずかしいと思ったので、『前科者』でこの本を読んでる場面を見た時は、パスしようとそればっか思ってました。結局読みまして、こうなったら馳星周ノワールでない小説も読んでこまそうと思ったです。以上