TextⒸShuntaro Tanikawa 1981 PhotographsⒸHajime Sawatari 1981 NDC 913 32p 27x20cm
人形制作/加藤久美子 出演/石岡祥子
わたしは きらい
なおみが きらい
なおみは わたしに くちをきかない
わたしも なおみに くちをきかない
白泉社の絵本雑誌「MOE 月刊モエ」2021年9月号の怖い絵本特集で、土井章史という人が絶版品切れ絵本から紹介してるうちの一冊。映画「禁じられた遊び」や岩波書店『ちいさなとりよ』と本書を比較してますが、そのやりかたで、本書の後半部分を子どもの遊びと言い切ってしまうのは解釈の幅を狭め、大人目線から子どもの世界をカテゴライズしてしまう作為のようにも思えます。でも、親目線であるなら、分からないことを分からないままにしてしまわず、子どもが心配だから、子どものやることに意味を持たせて、しっかり接ぎ木してやりたいのも確か。
土井章史サンは、こうも言ってますが、私としていちばん谷川俊太郎のおそろしい点は、百万回生きたねことの夫婦生活や、幼少時、後年NHK中国語会話の顔となる陳真サンと銀ブラツーショット写真なんかを撮るなど、生まれついてのモテ路線。
月刊モエ 頁32
それにしても谷川俊太郎はすごいなあ、何でもできて。
「わたしの うまれる/ずっと まえから/なおみは いた/わたしのそばに」遠くを見つめるなおみ。何も話さないなおみ。あなたはいくつ? どんな夢を見るの? なおみという名の日本人形と一緒に過ごす幼い少女の日々を詩と写真で綴ります。斬新なテーマと表現に、話題をまきおこした絵本です。
版元公式は月刊こどものとも1982年1月号(310号)しか載せてませんが、同年10月にハードカバーで出ており、私が読んだのも後者です。
なおみ (福音館書店): 2007|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
6歳の私と,"私の生まれるずっと前から私のそばにいた"人形の「なおみ」。この「ふたり」の交流と別れを描いた美しい写真絵本。 (日本児童図書出版協会)
版元公式や絵本ナビにはそれほど読者レビューはないのですが、アマゾンレビューだとさすがにけっこうあって、トラウマだ、隠れて読んだ、こっそり読んだ、子どもに読ませるべきか迷った、等々てんこもりでした。そこまでかな。
写真家はあえて検索しませんでしたが、モデルの子は、石岡瑛子の娘だったらどうしようと思って検索しました。⇒結果:不明
単なる同姓同名の人を、この人デスと言い切ってる気もしますが、分かりません。私がこの本を、読んでから、そこまでかと思う三つ?の理由のひとつは、このお嬢さんが、世の多くのホラー映画同様、B級ヒロインの疾走感躍動感に満ち溢れている点があります。どっか、軽井沢その他の高原の避暑地を連想してほしいであろうロケ地で、このカットはノースリーブのワンピでしゃがんで、このカットは昆虫網を芝生で振り回して、このカットは白Tにオーバーオールでテラスでお茶して、雨の海辺のカットはレインコートに黒のこうもり傘でつげ義春『海辺の叙景』チックに、と、存分にB級ドライブ感があふれてるので。このB級ドライブ金太郎飴のどこを切ってもゴスロリとか『ずっとお城で暮らしてる』のメリキャット感は出ない。
ふたつ目は、私たちの世界は、すでに須藤真澄『振袖いちま』に上書きされているという点。
市松人形とて毎日、こういうことしか考えてないんだな、と定義されてしまえば、こわくもなんともないというか、人生がより楽しくしかならない。
三つ目は、ナオミという名前のセレクト、チョイス。
グジャラート文字で書くとનઓમિ સ્કોત્だとか。
大坂さんは載せませんでしたが、いちおう前にも西洋の「なおみ」名は調べたことがあって、ヘブライ語であるとかなんとかはうっすら記憶に残ってました。
で、ピクシブの記事に、谷崎潤一郎が『痴人の愛』で「なおみ」という名前を使うまで、日本では「なおみ」と言う名前はポピュラーでなかったとあり、それが本当とすると、この絵本の世界観は根底から覆される、というか捉え直しを余儀なくされてしまう、と思いました。この六歳の子は、自分が生まれる前から「なおみ」がいたって言ってるが、それにしたって、谷崎以前はいなかったんですよ、たいして歴史ないじゃん、という。
それまでは「ナオミ」という名前の日本人はいなかった(いたとしてもごく少数)。日本では、男女問わず名付けられる。
「かつみ」や「まさみ」は男女問わずつけられますが、「なおみ」もそうだっけ?と思いました。
この絵本が「あけみ」や「ちえみ」「はるみ」だったら、世界はどう変わっていたでしょうか。まさかこの子が人形に「建礼門院」とか「北条政子」とか「神功皇后」とか「卑弥呼」をつけてるわけもないだろうし。
以上
【後報】
東直己を忘れてました。男性のなおみ、そう言えばいますね。
(2021/8/15)