『屠所の羊』"The Bigger They Come" by A.A. Fair(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

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失業中のドナルド・ラムは、たまたま見つけた募集広告をたよりにバーサ・クールの事務所に飛びこんだ。そして大女バーサの毒舌を巧みにかわしているうちに並みいる競争者をしりめに、見事栄えある採用が決定した。が、本人にとって果して幸せだったのか不幸だたのか? 時は1939年、かくしてドナルドは輝しき伝統を誇るアメリカのミステリの歴史に初登場することになった。しかしこの私立探偵、ありようはまさに屠所にひかれて行く羊そのものに他ならなかった。 吝嗇な大女バーサと小柄だが頭脳明晰なドナルドの〈なれそめの記〉!

結城昌治サンが、こういうミステリを書こうと思ってミステリ作家になったというような文章を読んで、それで読んでみたです。

1961年にまず世界ミステリシリーズで出版され、私が読んだ昭和51年版で文庫化。その後、昭和62年にもっかい文庫化されてるようです。いずれも早川書房

この本のカバーは畑農輝雄。A・A・フェアは、ペリー・メイスンシリーズのE・S・ガードナーが、本シリーズを書く時に用いた別名。

巻末にフランク・E・ロビンズという人の本シリーズ紹介文が掲載されていて、「編集部T」によると、もともとは、1953年に『ミシガン・アラムナス・クォータリー・レビュー』No.59に掲載された小文だとか。そこにシリーズ全作タイトルと、邦題、邦訳者、邦訳の判型と発行年が記されています。本シリーズのだいたいの物語は、1942年くらいではないかとのこと。戦中ですね。なぜ兵隊にとられてないかは、どれかに書いてあるのか、書いてないのか。13作。

屠所の羊 (早川書房): 1976|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

E・S・ガードナー - Wikipedia

結城昌治サンの作品も二、三作しか読んでませんが、ユーモア・ミステリかつ、こうした白昼堂々というか、トリックでなく、判例主義の悪しき盲点をついて、有罪を無罪にしてしまうやりかたを、自家籠中のものにしていた感じでもないと思いました。毎回こんな種明かしなのかなあ。自分がぜったいに無罪になるようにして、犯行に加わってないのに加わったと証言して、実行犯を有罪にする。

まん中まで読み進まないうちに、主人公が修羅場で弱いことが分かり、しかし逃げないことも分かり、でも無手勝流で勝てるわけもなし、どうするんだろうと思うと、最後に才能が発揮されます。あと、わりと、濡れ場はありませんが、キスと抱擁までのロマンスはあります。ミッキー安川の自伝思い出しました。ここまでしかやってはいけない不文律。ルワンダのルポの未婚出産当たり前社会のエッセーを読んだばかりだったので、そうではないかつての新大陸のキリスト教社会を忘れそうになってました。その後フリーセックスで、エイズ登場までぜんぶぶっ壊されるんでしょうけれど。

それくらいでしょうか。結城昌治サンの、焦燥感あふれるドライブは、また別の味です。これはこれでという。以上