「ねばならぬ」で観た映画。別に観なくてもよかった気もします。
日本版ポスターは上のつべと同じで、飲んでる場面そのものですが、屋外で飲む場合は紙袋に入れて、見えないように飲んだりする文化の欧米ではポスターは左のごとく、飲酒モロではありません。セックルとは逆に、飲酒が隠匿されている、というわけでもないのでしょうけれど。
公式のコメント欄を見ると、酒をやめた町蔵もこの映画をひとつの実験として鑑賞していて、結果として、まあ飲まなくてもそういう効能を得ることはでけるみたいやねんけど、てな感じでしたでしょうか。
コメンテーターにはジブリの鈴木PDもいてて、アニメ業界もそれでおなくなりにならはった人はそれなりにいはったでしょうから、一人ではどこにも行きつけなかった、的なことを言いたいのかと思いました。ほかには酒つまのオータケさんやら居酒屋百名山の太田サンやらがいましたが、酒のほそ道とか酒場放浪記とかパリッコサンとか場末酒場の藤木TDCとかモラさまとかはいませんでした。清野とおるはいます。
厚木は座席間仕切り完全撤去、さらば緊急事態宣言いけいけゴーゴーでアフターコロナの荒波に乗り出していましたが、観客は安定のひとケタでした。都内はあんなにヒマじんがいて、新百合まではそんな感じでまだ行けるのに、境川越えるとこうなる。でも相模川を越えたミニシアターはここだけなので(箱根の関を越えて静岡市静岡まで行けばまたある)、重宝してる人は愛川や清川、伊勢原秦野足柄郡にもいるはずで、ただその人口ガーなのか。
この映画の宣伝はほかにもヘタ打ってるというか、モブの水兵さんたちがなにものなのかぜんぜん分からなくて、デンマークの高校は卒業時ハカマとか角帽とかでなくセーラ―服を着るみたいで、これは卒業パレードのひとこまなのですが、そういう予備知識がぜんぜんないので、さいしょ、船乗りの訓練学校の映画と思ってしまったです。
また、アカデミー賞受賞!と書きながら下に「ノミネート」と書いていて、どっちやねんとしか思いませんでした。国際長編映画賞が「受賞!」で、監督賞がノミネートなのですが、ぱっと見、ごっちゃになって見え、文章の意味が分かりにくいです。
それで、映画の話をすると、最初にビールがぶ飲み駅伝もしくはビールがぶ飲みマラソンという校内伝統行事の場面があって(最後に日本語字幕で注釈があって、デンマークの法律では16歳以上飲酒可能だとか)、ひとりゲロだと減点で同時多発ゲロだと加点だったか、あるいはその逆だったかみたいな謎ルールがあったり、デンマークなのになぜかビールはドイツのツボルグだったりするのですが、そんなことより、急性アル中の危険性が教員会議で議案に上げられたのかあげられてないのかみたいなところで寝てしまい、気がつくと主人公らはもう常時飲酒の高貴な実験を開始していて、アホかと思っていると、ネタバレですが、最後、ひとり、たぶんアルコールうつで死にます。
START DRINKING 実験 Experiment「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」
酔っぱらって人生大逆転!? 4人の男たちが仮説の証明に挑む――
上はポスター、下は公式から借りました。
これ、フィン・スカルデルドというノルウェーの精神科医で心理療法士が提唱した理論みたく映画で出るらしいのですが、スカルデルドさんのウィキペディアを見ると、これは理論でなく、ほかの人の本に寄せた序文がミスリードされたんだそうです。
左には「ワインならグラス一~二杯らしい=0.05%」とありますが、映画では朝からウォッカあおってます。
そんなんで、映画の中とはいえ、教師がしとり死んでんねからかなんわ、という。だいたい、常時アルコールの血中濃度が上がってると、からだがそれを正常な状態と誤認識するので、酒が抜けてくると、目が覚めたり眠れなくなるアルコール不眠になるし、常時高カロリーのお酒を飲んでるので、食物で栄養を採らなくなり、酒は高カロリーだけど栄養があんまりないので、下腹だけ出てあとはやせてゆくという、危険な兆候がいくつもあることは、ちょっと聞きかじっただけでもすぐ分かるし、その辺の知識普及も欧米は日本よりはるかに進んでるはずなのに、よくもまあこんな子供だましな(棒 この映画はデンマーク語で話す映画なので、これから、英語版をディカプリオ主演で作る予定らしい(とウィキペディアに書いてありました)のですが、非英語圏ならまだしも、禁酒の総本山アメリカでホントにこんな知識不足の映画作るのかなあと。ありえない気瓦斯。
いや、0.00%だろうと。
ただ、主人公一味はみな、教師という高ストレスの職業についていて、学生がまあ、少子化のデンマークの高校はこんなんなのかという感じで、半分くらい中近東系で、女子はひとりヘジャブだし、男にやせてニキビがいるのはいいのですが、女子がもうパッツンパッツンに全身肉が盛り上がっていて、北欧のイメージのとおりでもあり、ちがう感じ(低所得程高カロリーの、こっちはセオリーどおり)でもあり、でした。そういう環境を加味して、教師が藁にもすがったのは、そうなのかなあと。でもね。
そういう生徒あいてに酔っぱらって授業してオオウケというのは、なんとなくご都合主義のようにも思えます。むかし小田急線で中学の時の担任が、忘年会か何かの帰りで、べろんべろに酔っぱらって同僚に絡んでるのを見たことがあり、かなりひきました。教師も人間ですが、泥酔した姿を見るのはせつない。小津安二郎「秋刀魚の味」で東野英治郎が元教師役で出る場面、テレビ放送ではピーが入るのですが、市民ホールなんかの上映ではもちろん音声はそのまま「〇〇(教師時代の綽名)がチャン料なんかやってるとはなあ」と言われてしまうわけで、絶えず生徒から敬愛の念を以て見られてほしい教師のつらさも分かりますし、教師に冷たい視線を送る生徒側の白けたムードも理解出来ると思いました。
こないだチラリと予告見た「二月の勝者」でも教職はサービス業だと云い放たれていて、この映画はそうした感情労働のはけ口のひとつを活写している、のかなあ。公式コメント欄の光石研や小堺一機もそういうことを言いたいのかもと思いました。
キュルケゴールの原文ここに貼ろうと思いましたが忘れました。サッカーの場面は、ちゃんとシュートがゴールに入るのでさすがと思いました。主人公がラスト踊るところは、市村正親のようなキレでした。
アルコール以外で、感情労働と向き合う方法を、この映画は提示していませんでしたが(さいごに、生徒は合格出来たのでありがとうと感謝してますが、それがそうなのかどうか)、いつか何かにヒントがあればよいなと思います。
Another Round (film) - Wikipedia
人生に祝杯を
以上
【後報】
(2021/11/1)