『群青の譜』"Ultramarine Records" by Michiura Motoko 読了

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https://www.kinokuniya.co.jp/images/goods/ar2/web/imgdata2/large/43090/4309013554.jpg版元品切再版未定なのに、アマゾンには新品が一冊あることになっている不思議。

2000年6月初版。写真-林明彦 装幀-間村俊一

紡いだ言葉を届けたい―
空と海と飛沫の描く
世界のように。
眼前に枯れ木灘見ゆ 突破口見えざるままの私の前に

天安門絡みの記述がないか、道浦母都子さんの本を、もう何冊か借りてみたうちのひとつ。借りたうち、2014年潮出版『光の河』2007年講談社『花降り』は、小説でしたので、ぱらぱらめくって、中国絡みの記述はなさそうだなと判断して、返却しました。

https://dictionary.goo.ne.jp/img/daijisen/ref_thm/104606.jpgこの本は、書評を集めた本だそうで、三部構成。二部は朝日新聞の書評欄なので、いちばんあたりさわりがなく、一部と三部は、天下のメジャー新聞が書評で取り上げそうもない、歌集なんかにも目を配っています。

私は、表紙を見て、群青色はもう少し濃い色だと思ったのですが、どうなんだろうなあ。 

ultramarine(ウルトラマリン)の意味 - goo国語辞書

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本職の短歌については、北海道の農民歌人、時田則雄さんの歌がおもしろかったです。

頁195

  月光に濡れてとどろくコンバイン小麦十町歩穫り終はりたり

  トレーラーに千個の南瓜と妻を積み霧に濡れつつ野をもどりきぬ

温帯でなく亜寒帯だぞという矜持を示すのか、ブラキストン線という単語が入ったり、アイヌ語のポロシリだのが入ったりで、楽しい歌です。

時田則雄 - Wikipedia

ほかに、頁165、坪内稔典句集を開いて、歌人が句集を読むと、分解して理解しようとしたり、かつまた失われた下の七七を復元しようとするという、一種の思考実験を試みていて、チンプンカンプンでしたが、作者の楽し気な遊び心は伝わってきました。

で、これが、頁242になると、永田洋子から永山則夫の名前が出て、死刑に関する黙考が始まり、さがなんですねと思いました。

頁129、一年前のチェルノブイリ訪問を振り返りつつ、「チェルノブイリを訪ね、チェルノブイリがますますわからなくなってしまった」「今、チェルノブイリで何が起こりつつあるのか、目には見えないその予兆を知るために、目下味読乱読中の私である」と書いています。

そんでまあ、この本でようやく私は道浦さんの著書で「天安門事件」の単語に出会えたのですが、『テレサ・テンが見た夢 ―華人歌姫伝説』平野久美子(単行本晶文社、文庫はちくま)の朝日書評欄での記事で、「父の故郷、中国に憧れを抱き続けていたテレサだが、天安門事件にショックを受け、その後、香港、パリへと移り住んでいる」頁118。これだけ。私もショックを受けたとか、そういう記述はありません。チェルノブイリとは、ちょっと温度差あるかな。道浦さんが悪夢でうなされる催涙弾の水平射撃どころか実弾なので、固まってしまって考えれないという好意的解釈も出来るのですが…   私にしても、その一年前のビルマで、天安門よりずっと多い1500名からの死者が出た時には、少数民族との間でずっと内戦だったし、分かりませんで思考停止していたので、あまり言えない。

面白かったわけではないですが、朝日新聞の書評欄で、道浦さんは高島俊男お言葉ですが…』を振られていて、頁97に書いているのですが、特に相手がどういう人かまだ分かってない時代ということもあったのか、比叡山を跨いだ親近感で、シンパシーの玉虫色の社交辞令というか、ほめてます書評を書いてます。高島俊男という人は左派、全共闘にチビシーイメージがあるのですが、さて朝日新聞の道浦さん書評を読んで、どう思ったでしょうか。ぜひにやけてほしいです。以上