『愛情生活 白樺記』"The Affectionate Life. : Birch Note" by Aramata Hiroshi 読了

愛情生活白樺記 (新潮社): 1990|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

ビッグコミックオリジナルのまんが『前科者』に出てきた小説。

相当に読みたくないかったです。

装幀・装画 * 奥村靫正

編集協力 K&K

あとがきあり

エスクァイヤ昭和63年4月号から平成元年3月号まで連載されたものが原型だそうです。

大正十年冬、宮崎県日向<新しき村>の武者小路実篤の許に美しい女岡田晶が現れた。白樺派文学者たちが見守るなか、実篤、妻房子と晶子、三人の不思議な愛情生活が始まる-。奇才荒俣宏が、白樺派に託して愛と結婚のかたちを問う待望の長編幻想小説

あとがきによると、武者小路房子さんが平成元年十月に九十七歳で逝去されたので、上梓する気になったとのこと。でもご存命時にもう連載してたじゃん、みたいな。しかも、ご本人に会ったそうですが、それって連載開始以後の時系列に見えます。誰が見ても、不肖アラマタと、内縁の奥さんと、ソ連のしとの一連の出来事の普遍化、咀嚼のように見えるのですが、怪物の考えることは分からない。ソ連のしとは、まだこの時バリバリでしたが、なんだろうなあ。

カバー折。本書は「白樺十人衆」のカラー絵が入っていて、この絵は、頁129の「房子変生」で、抱いている鯰は、武者小路実篤の「悪徳」が実体化したもの、でいいのかな。白樺十人衆の絵は、下記。

頁17:岡田晶子

頁33:武者小路実篤

頁49:志賀直哉

頁81:岸田劉生(麗子がふたり描いてある)

頁97:柳宗悦

頁113:武者小路房子

頁129上述

頁145:(有島)武郎(波多野)秋子永久幸福達成の図

頁161:木下利玄

頁177:千家元麿

頁209:里見弴

あと、表紙のエジプトの天使みたいな絵と、中表紙の絵があります。裏表紙は特に絵ではないですが、カバー折にもうひとり、不肖アラマタの絵があります。

これが不肖アラマタ。

目次

序章 新しき村訪問記

一 麗しき同志

 第一章 鉄塔男

 第二章 晶子弁明

ニ 親しみて、狎(な)れず

 第三章 共同浴場

 第四章 悪徳日乗

 第五章 労働と工夫

三 磯屋の嵐か夢もむすばず

 第六章 ラケットをもつ文学者

 第七章 人道的犯罪とは何ぞ?

 第八章 狂気と正義

 第九章 紙袋(かみぶくろ)

四 世に隠れて宝を造る

 第十章 でろりの説

 第十一章 寒山拾得(かんざんじっとく)

 第十二章 切断された指

 第十三章 指の始末

五 宿るは御霊(みたま)か生命か

 第十四章 震える案山子(かかし)

 第十五章 奇数を愛する人

 第十六章 心霊実験

 第十七章 晶子と第二人格

六 互に裁くこと勿(なか)れ

 第十八章 房子詰問す

 第十九章 八角塔の下で

 第ニ十章 対抗犯罪者の誕生

七 平穏なる私生活

 第二十一章 昼の生活

 第二十二章 夜の生活

 第二十三章 第二の夜の生活

 第二十四章 肉の勝利

八 死して比翼、化しては変生男児(へんじょうなんじ)

 第二十五章 幼児の戯れ

 第二十六章 経緯(いきさつ)

 第二十七章 秋子から晶子へ

 第二十八章 心中の余波

九 みごもれる嬬(つま)に

 第二十九章 第二の対抗者

 第三十章 喜びの使い

 第三十一章 AとB(房子の歌)

十 白鳥卵(らん)を奪う者

 第三十二章 破壊された街

 第三十三章 夕刊売り

 第三十四章 愛の位階

 第三十五章 村員の見分け

十一 愛するから住み度くなる実感から生じた卜居(ぼっきょ)

 第三十六章 卵盗みのファルス

 第三十七章 重婚の手続

 第三十八章 車中の二人

 第三十九章 残っていた支援者

十二 蘇る悪徳

 第四十章 前人未到の快挙

 第四十一章 瀕死の〈悪徳〉

 第四十二章 新しき関係

 第四十三章 房子の反乱

 第四十四章 完全犯罪の始末

 第四十五章 別れの挨拶

あとがき

この人は、『帝都物語』を読んだ時も思ったですが、うんちく、雑学をとりのぞいて、ものがたりだけをとりだすと、にんげんがほかと違うので、描かれるにんげんもまた、生彩とかイキイキが常人のそれとちがーう、AIがキャラクターみたいな、なんだかピンとこないことになります。作者の投影とはよくいったもの。この小説も、志賀直哉のピンポンがどうのの雑学、有島武郎の心中の見立てのデカダン、といったパーツを楽しめる人にはよいのでしょうが、やはり「でろり」かなという。にんげんはちがうんですが、動物的箇所、発情とかリビドーとか下半身は共通してるので、それで「でろり」

『前科者』も、宇能鴻一郎大江健三郎はまだしも、なんで不肖アラマタに来たんだろう。とほほ。体験しなくてよいことは体験しなくてよいので、ソ連側の記録が残されていれば(いないでしょうが)前科者の登場人物はそれを読むべきと思います。無理筋ですが。

愛情生活 白樺記 | ダ・ヴィンチWeb

以上