『地図趣味。』"taste of maps" by Kimiko Sugiura 読了

地図趣味。 = taste of maps (洋泉社): 2016|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

これもビッグコミックオリジナル連載『前科者』に出てきた本。版元洋泉社は親会社に吸収され消滅。アマゾンはまだ新本在庫があるようですが、紀伊国屋などはもう取り扱い不可になってました。ブッコフで六百円ちょいくらいで購入。電子版なし。

洋泉社 - Wikipedia

装丁=川名潤(prigraphics)カバー写真 Google Map of the Bonpland H Region of the Moon / 1971 米国地質調査所蔵 本書掲載の陰影投影図は、国土地理院作成の『基盤地図情報(5mメッシュ標高)』を『カシミール3D』というフリーソフト / アプリによって加工作成したとのこと。作成やSNS配信だけでなく、商業本に掲載したわけなので、どちらも、本書においては、どうにかして許諾があったり、もともとそこまでおkで、商業目的で頒布が可になってるんだろうなあと、願望します。あとがきで具体的な人名を挙げての謝辞はありません。「皆さま」宛。

巻末ガイドでおすすめ・地図の本。

古今東西の偏愛地図コレクションから、著者がつくってきた個性豊かな地図、地図・地形モチーフのお菓子やアクセサリー、地図をたずねる旅まで。地図愛にあふれたビジュアル・エッセイ登場!  タモリさんも食べた「地層ムース」「等高線ケーキ」のレシピも収録。

帯裏。英題と邦題に乖離がある時点で、これは攻めてくる本だと思いました。ホビーを使いたくないのだろうなと思い、Mapfanにすると地図サイトとカブるので、テイストにしたのかなと推察しますが、もちろん日本語の題名は「地図の味わい」ではなく。相手のことを想ってはいるんでしょうが、それより自分の思いはこうです、を伝えたい意思の圧を感じます。

最初はいろんな地図の紹介で、頁012に、司馬江漢の月面銅版画が載ってます。ドイツの図版の模写ではないかと推測されているとのことでした。司馬江漢という人は、みなもと太郎風雲児たち』でボロクソに描かれている人(盗作やらなんやら)なので、どうしてもそのイメージが強いのですが、その人を初めにもってくるあたりも、本書の読者への挑戦なのだろうと思いました。司馬江漢高山彦九郎のあたりまでは、わりと『風雲児たち』読んでた人多いと思います。それでまあ、ポリネシアの航海図なんかはたんじゅんに面白かったのですが、頁106から「天文図」が出てきて、天文図、星座が書いてある図って、地図かな、と自分のなかの基準があやしくなりました。その次の天気図も同様。天気図って、地図かな。頁030の航空機の想定飛行図一覧、エンルートチャートというそうですが、これは凝ってて細かくてよかったです。

slscreation.com

頁035に、たまたま神保町の古書店で見つけて購入したという、ドイツ語のトルキスタン概要図が載っていて、ドイツ語なれど、カシュガルあたりまでは"CHINES TURKESTAN"になっていて、残念閔子騫でした。カラコルムハイウェイは当時当然ないですが、その先は"BRIT(INDIEN)"で、英領インド時代と分かります。アフガニスタンは独立国として記載。最初、四川やチベットまで見えるような、もっと広範囲の地図かと思ったのですが、ルーペでよく見ると、そうではありませんでした。

まえがきとは別の冒頭に、なぜ著者が地図が好きになったか書いてある頁009の横にブチ抜きで、なんか面白い絵が描いてあり、頁040にその絵の詳細があって、世界の河川と山脈の大きさ比較一覧を、大きい方から小さい方に順番に並べた絵だと分かりました。ナイル川とか揚子江とかアマゾン川とかインダス川が、ぐねぐね曲がりをなるべくまっすぐに伸ばして、長さ比べをしている図。山脈も、同様にエベレストやアコンカグアなんかが高い順に並んでいると。これも地図といわれると、腕組みですが、意図は分かりますし、面白いものを紹介してもらったので、まあいいやと思います。この辺で作者の手中にはまるというか、篭絡され出す。シンパシーやエンパシーを感じ出す。

頁046に、GPSカリグラフィというものが載っていて、それはその人が、毎日GPSを携帯して外出し、その足跡というか移動軌跡を地図上に重ねあわせて視覚的に表現したものです。おもしろいといえばおもしろいですが、あまり細かいと行動半径やらなんやらを赤の他人に掴まれてしまうので、この絵の場合も、市まで含めた東京で可視化しています。新宿に行ったことは分かるが、伊勢丹なのか大塚商会なのかは分からない大きさ。

作者の人はムサ美を院まで行った人なので、「ライター / 地図製作」と自己の職業を紹介してますが、たぶんグラフィカルな仕事やデザイン、イラストもいろいろ手掛けてるんだろうと思います。自身がお仕事で受注して制作した地図を紹介するコーナーがありますが、頁073に、野方団地に引っ越しを考えている人向けの周辺案内図があり、そういうワークもあるのかと感心しました。ちゃんと、UR都市再生機構が発行してる。

地図をお菓子で表現する章があり、ここはとにかく四色定理グミがきれいでした。「いかなる地図も、隣接する領域が異なる色になるように塗るには四色あれば十分である(ただし飛び地は含まない)」の証明問題。この問題は数式では証明出来なくて、コンピュータでえんえん演算して、それでやっと証明出来たという、人類の機械への敗北黎明期のようなお話だそうです。下記の本に書いてあるそうで、近隣の図書館には蔵書なく、ブッコフは¥220と安いのですが、取り置き不可で、送料が三百六十円くらいするのかな、ので、買いません。

下記の本もそういう本らしいのですが、学者バカの人が書いた本らしく、読む人が読んで理解出来ないことも理解出来ない人が書いてるみたいです。レビューがボロクソ。

これを、たとえば東京23区にして、色違いのグミで表現します。しょうじき、ものすごくナントカ映えするので、こっちを表紙にすればよかったのにと思いました。ほかのお菓子は、地層ムースと等高線ケーキで、地層は、素材を吟味しないと、地層にならず混ざり合ってしまうとか苦労談が語られるのですが、あまりピンとこず、等高線ケーキは、これ、ミルフィーユじゃん、ナポレオンケーキじゃんと思いました。そう書きよしと助言する人はいなかったのだろうか。

また、ひとつの境界をかたどってというかくりぬいてというか、アクセにする試みも紹介していて、FC町田ゼルビアのTシャツやタオマフに、町田市のかたちをバーンと載せたものがあるのを思い出しました。多摩境だかなんかの、尾根伝いに伸びてゆく境界がよく分かる。こういうの、県単位ならそこそこあるんでしょうが(鶴舞う形の群馬県とか)市町村だと少ないと思います。

蛇足というか、この人は地図にハマる前は、自然に出来た壁の模様にハマってたそうで、その写真ばっか撮っていたとかで、その中で、地図にも見えるものをピックアップして載せているのですが、ここで、一度得た共感が、ちょっと、すっと引きました。これは載せなくてもという箇所。「東京・油面」とか、それだけ言われても分からへんだ。目黒でいいのに。

www.city.meguro.tokyo.jp

上のページに起源が書いてないので、あれっと思ったら、かつてのケータイ向けホームページに由来がありました。

目黒の地名 油面(あぶらめん):目黒区公式ホームページ

油の奉納に付随して、絞油業に対する租税が免除されていたらしく、油製造により税が免ぜられている村、すなわち「油免」が、いつしか「油面(あぶらめん)」となったと伝えられる。

実は座間市にも「あぶらめん」はあって(現在の座間二丁目の、大鳥神社のあたり)同じ由来ですので(それプラス、綿花(めんか)も免税なので、そのへんが混在一致で漢字表記があやふやに)*1これでいいはずなのですが、どこにでもそういう人がいるようで、韓国起源の地名由来説がここにブチこまれています。そんなわけなかろうが。新座の新羅由来説もそうですが、とりあえず無視するわけにもいかないから併記するという姿勢はいかがなものか。こわだかに言ったもん勝ちではないか(棒

その後、地図の博物館紹介のピックアップとして、つくばのそれが出てきて、「図化機」操作体験が面白そうと思いました。ただ、すごくむずかしいそうで、グラフィック業界のプロの著者でも、必死だったそうです(成功してないのかな)

図化 | 国土地理院

mogist.kkc.co.jp

ここと、その前に、作者を横から撮った写真が載っています。ということは同行の撮影者がいたということ。いいですね、ポージングとかしたんだろうか。それ以外に、まあちょっと関東偏重になっちゃってるんでしょうが、全国の地図マニア垂涎の資料館類の一覧があり、佐倉の民博がイの一番に入ってるので、へえ、あそこ地図もスゴいんですねと思いました。神奈川県は、小田原の生命の星ナントカという、港南台のアースぷらざと連動してるのか的なおしょすい名前の博物館が出てきて、本物の隕石やクレーターに触れることも出来やん! と書いてるのですが、それって地図と関係なくね、と、写真撮った人に言われていればよいなと思いました。

その後に、太宰治『地図』と森鴎外『青年』という、ふたつの地図を扱った古典が紹介され、特に作者は後者と同じ体験を千駄ヶ谷で試みたそうなので、やってみてもいいかもしれません。私は、やるとしても千駄ヶ谷ではなく別の街でやると思います。具体的にどことは思いつきませんが…

太宰治 地図

www.shinchosha.co.jp

青年

www.shinchosha.co.jp

www.iwanami.co.jp

地質図、凹凸地図、手描き地図、空想地図、地形スイーツ…… こんな地図の楽しみ方があったのか!! 洋泉社 地図を愛してやまない著者が綴る、1冊丸ごと地図賛歌。

カバーをとった表紙。以上