『11 eleven』by TSUHARA YASUMI 読了

著者自装本 人形は四谷シモンだとか 2011年6月単行本 2014年4月文庫化

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読んだのは単行本ですが、同じ表紙です。知らない作家さんでしたが、訃報を聞き、そこに寄せられたコメントを読んで、読んでみようかと考え、読みました。

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下は童貞力のひとだと思います。違うかな。この追悼文を読むと、生前がしのばれ、どんな世界にも、年下の女性に絡むオッサンはいて、年年歳歳それは見苦しいという評価が高まってきていると感じます。難儀なお人やったんかなあという。

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11作の、掲載誌もバラバラな短編を集めた本。トップバッターの『五色の舟』は、近藤ようこが漫画化したとのことで、それで読み、忘れてましたが、読むうちに思い出しました。

左は裏表紙。
『五色の舟』
書き下ろし日本SFコレクション「NOVA2」(河出文庫)2010年7月刊。まんがを読んだはずなのですが、パラレルワールドものだった認識がありません。

『延長コード』小説すばる」2007年6月。いちばん印象に残った作品。さいしょ、主人公を女性と思っていて、読み進むにつれて、作者の投影みたいな部分が出てきたので、そんな女性おれへんやろ、と思ってから、男性と気づくという。そんな男性と、もうひとりの、妻は崩れてるがオットは外面はシャンとしてる男性とで、亡き若い娘(極度のウソツキだったという設定)をしのぶという話。いろいろ含蓄があると、上の記事を読んだ今思います。相手の虚言癖のせいにしたくなったんですね。

頁49、嘔吐しかけて、のどにあがってくる吐瀉物を水道の水ごくごくやって、胃に押し戻す場面。飲みすぎの男性の朝の描写だなあと思いました。先日諏訪の民宿に泊まった折も、朝四時台にさかんにえづいてるオッサンがいた。

頁58、仕事イノチなので、娘の人生はどうでもうよかったとごちる場面で、家族同様にどうでもいい無害なパノラマとして挙げているものが、「街の景気」「駅の暴力沙汰」「外国での戦争」「プロ野球」で、そこにプロ野球入れるのかよ、主婦の会話とかシワかくしじゃなくて、と思ったのが発端で、語り手が男性なのに気づく。

左は中表紙。
『追ってくる少年』
小説すばる」2006年1月。大森望編の創元社アンソロジーに2010年10月収録。作者のクセだと思いますが、話が飛んで、違う話がひとつに融合されてます。

『微笑面・改』書き下ろし。彫塑の業界でノシた人が、青春の蹉跌でヒドいことをした女性の幻影(女性の実物は生きていて、連絡するたびに絶縁であることを繰り返し言う)にあれやこれや。ゲージツの世界の内幕が分かって楽しく、作者が知己から聞いた雑学が生きたのだなと思いました。上の記事とちがって、私は作者は女好きだと、この本を読み進むにつれて思いました。(主語と目的語抜きで)復讐したかったのかどうかは知りません。

琥珀みがき』朗読会のために2005年12月書き下ろして、翌年小説すばるに掲載、徳間のアンソロジーに2007年収録。日本なのかイタリアなのかよく分からない話。「耳をすませば」で、聖司でなく雫が夢を追って修業に行くシチュエーションだったらと仮定して、それを作者なりに毒を盛って膨らませた感じ。都会で成し遂げたいことなんてあるのかよ、と言いたかった、とは言わないでしょうけれど。

キリノ小説新潮の別冊の桐野夏生スペシャル2005年9月に載せた作品。私はもう、キリノといえば、東チモール国籍を取得してアジア枠でJリーグに復帰したキリノ選手しか思いつきませんで、これを読みながらも、モヒカン時代のキリノ選手が、横に金髪の白人女性を乗せて車を運転したのに驚き、当時行っていたベルマーレコンディショニングセンターでその話をすると、武富選手が好きなスタッフが、その女性は彼の奥さんですよと教えてくれたのを思い出しました。

チアゴ・キリノ・ダ・シルバ - Wikipedia

『手』祥伝社の「小説NON」1999年6月号掲載。むかしの作品だからか、十代男女のジュヴナイルもの。主人公はケイト・ブッシュの歌が好きだそうで、ピンときませんでした。

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『クラーケン』小説すばる」2007年2月号。どんどん書きづらくなる飼育もの。大型犬について、聞いた話の蓄積を商業作品に活かしたかったんだろうと思います。

『YYとその身幹』ユリイカ」2005年5月号。山本直樹のマンガにも、飲み会のあと店に居残ったかなんかした若い男女がエッチする話があったなと思いました。うらやましい。

テルミン嬢』SFマガジン」2010年4月号。セルフプロデュースとして、SFで才能大開花、ガッハガッハと言いたい時期の作品のような。見えない平行展開というか、見えるけれどもさらっと書いてある記述で、精神科医がたえず隙あらば薬物療法を薦めてくるくだりが、なまなましかったです。誰か身近な人のボヤキが反映されてるのかされてないのか。

各話タイトルページに、写真のフィルムなのか、映画のフィルムなのか、というデザインがついてます。

『土の枕』小説すばる」2008年4月号。大森望日下三蔵編の創元社アンソロジーに収録。ほかと毛色がちがう異色作で、これだけお耽美じゃないです。地主の息子が如何なる運命のもとにか、小作として生き(戦争と徴兵も絡んでの結果ですが)最初の一年目の収穫が悲惨だったくだりが身につまされました。そんで、戦後の農地改革と、高度経済成長下での切り売りまでを描く。

あと二作読んでみますが、実生活で、狭い業界でそんなややこしかったとは知りませんでした。オッサンと若い女性がもめた場合、21世紀も20年過ぎた現在は、どんどんオッサン見苦しいに倒して定義されていることを、今一度振り返りたく。以上