『ウドウロク』"ŌDU KCALB" by Udō Yumiko(新潮文庫)読了

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有働由美子 - Wikipedia

最近、ブッコフの広告がこの本を載せていて、ほかの本はそれほど安くないのですが、これは単行本¥220、文庫本¥110(税込)と安いので、いちおうアマゾンのレビューで高評価がついてるのを見た上で、ついフラフラと地元のブッコフに取り寄せてもらって買いました。私は模造記憶でこの本を『ウドウゴロク』《有イ动语录》だと思っていたのですが、クロウドウ《黑有イ动》"Kuro-Udoh"の業界読みでウドウロクだそうです。ザギンでミーノー、チャンネーとシースー、ウドウロク。

カバー写真 青木 登(新潮社写真部)デザイン 新潮社装幀室 本文写真・イラスト 著者提供 平成三十年五月一日初版 読んだのは同年同月廿日の三刷、帯欠。

下は平成二十六年十月同社刊の単行本表紙。

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〈目次〉

文庫本はじめに はじめに

大人になってからの失恋(文庫版オリジナル)
1 いろんな人から、いろんなことを言われました
わき汗/スーパーマーケット/男社会で長く生き過ぎ/一緒に住むの?/いちばんの人/まもるくん/好みの男性
2 一生懸命生きてきました。ええ、仕事に
結婚式司会の最大の懸案/不用品/独居中年の高熱/情けないある日/あの大仕事/NYなんて、英語なんて/それでも行く
3 酒がなかったら、この人がいなかったら……
母のこと/親父/ジルとルーダ/いのっち/ちょーさん/本と酒
4 黒ウドウ
声/他人の彼氏は見えてしまう/ほどほどの美貌/
私の個性、私が思う個性/クロウドウ語録
5 白ウドウ
小心者シリーズ①お見合い編/太る/小心者シリーズ②昔の恋の捨て方編/独り遊び/嫌われてもいい、なんて、嘘だ
おわりに 文庫版あとがき

単行本は右分け、文庫本は左分けに分け目が変わっていますが、ウドウサンの政治的スタンスの変遷をあらわしたわけではなさそうです。ましてや、NHK退職ビフォーアフターをや。

どうもうまいこと本書の特徴をスパッと言い表せなかったのですが、下記、仁科友里という人の批評を読んで、要するに自虐の詩ってことかと思いました。

有働由美子アナの「オバハン自虐」を許容していた大組織・NHKの“男尊女卑”体質(2022/08/25 21:00)|サイゾーウーマン

この記事はNHKの体質のせいにしていますが、本書を読むと、厳格な父親、母親の癌に対し無痛療法(但し延命と反比例する)を選択しない自己のエゴとその後悔、自己憐憫、気を遣う同棲より独り暮らしの心地よさを優先するライフスタイル、土壇場になると傷つくことを恐れて求婚を断ってしまう性分、等々がこれでもかと述べられており、NHKのせいばっかりでもないやろ~と思いました。本書は「あさイチ」ブログがきっかけで新潮社から声がかかり、同社編集笠井麻衣サンの後押しで、四年越しで刊行にこぎつけたそうですが、なぜこんな方向で暴走させたのか、有働幻想を突き崩すことに関しては大成功の笠井サンの功罪を考えてもよいと思います。

何故かというと、女としてのうじうじ部分(男女共通のうじうじ部分かもしれませんが)より、仕事の話のほうが、全然面白かったからです。例えば2001年紅白歌合戦司会の話。放送終了後まずNHK一階食堂「イッショク」で出場者全員の打ち上げをし、NHK職員は干支の着ぐるみを着るなどして出演者にビールを注いで回り、出演者を気持ちよく送り出す。次にスタッフ(全員ではない)でカラオケボックスに行き、紅白全曲を入れて司会者が曲紹介をリピートする「紅白やりなおし」の開催。リハーサルを入れると通算三回の紅白歌合戦を終え、外に出るとしらじらと夜が明け、けだるい初の日の出とともに解散。

また、アメリカ総局特派員ニューヨーク勤務三年間の記事も、非常に面白かったです。英語との苦闘に関しては、その後語られる新人時代の努力家の姿、容姿その他でほかのアナウンサーに後れをとることを自覚しているがゆえに、取材力で一歩抜きんでるべく、ボツになってもボツになっても独自取材とプレゼンを続け、ついには一目置かれるようになった経緯があったので、そこまで読み進んで、初めて英語学習の苦労自慢はほんとうに苦労したんだと納得しましたが、それ以前に、テレビ局から数社内定をもらっていたうち、海外支局がたくさんあるからという理由でNHKを選んだとさらっと書いた箇所(頁98)に驚きました。バブル時代にテレビ局に就職して、やめずにガッツと刻苦勉励でひたすら仕事にはげむ人材というのが、まずもって驚きだったからです。橋下徹やお父さんは心配性、ガンジス河でバタフライを輩出した共学公立進学校北野高校から女子大神戸女学院になぜ進んだのかも分かりませんが、そこからNHKほか各局内定に至るまでには、ぜったい集団面接で他を蹴散らしまくった飛び道具があるように思いましたので、そこもちょっと知りたかったです。そういうのが、自虐より読みたかった。

頁143では、「サンデースポーツ」時代、ぶら下がりで長嶋監督の宮崎キャンプに行った時、関西人なので当然阪神ファンで、さらに、父親が関西人なのに生粋の巨人ファンなので、さらに強固に阪神ファンになったことを長嶋監督に宣言し、長嶋監督から「僕もね、阪神ファンだったんだよ。うっふっふ」とのカムアウトを引き出してしまう。ここも面白かった。ステーキおごってもらうとかどうでもよくて、長嶋茂雄阪神ファンのくだりが、やっぱりほっこりしてよかったです。

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頁187「クロウドウ語録」の内田裕也のくだりは、その時テレビで見た気がします。ここは自分の記憶だけで客観的に書くのは難しいだろうので、ライターさんに集めてもらって、たくさん収めればよかったかもしれません。多すぎると飽きるでしょうが。

仕事以外の部分でいうと、頁227、音が漏れないヘッドホンを、ただ耳につけてると、逆に外界の音が遮断されてほぼ無音の世界になるという箇所。無音の世界で家事をしたりコーヒーを飲んだりすると、ほかの感覚が研ぎ澄まされて、えもいわれぬ効果を生むそうです。これはやってみようかと思いました。

頁192に、ニューヨークのゲージツ家に撮ってもらったポートレート写真が載っていて、退社後はこういう世界に行って、あの人はあまりその後を聞かないけど、それなりに知られざる世界でブイブイ言わせてるらしいよ、になる手もあったんだろうなと思いました。作者は、母親が死後ずっとそばにいてくれると遺言を残したことを想起させるような方向でこの写真を眺めているようですが、私は、最近も綾瀬はるかの結婚観測ニュースで読んだ、あまりに大物で才媛だと、邦人はなかなか無遠慮に懐に飛び込み難く、えてしてなんもしらない外国人がゲットしてしまうものだ、を、この写真を見て感じたりします。

しかしこの人は、プロポーズを断るのと同じベクトルで、こういう冒険にはいかず、収入を失うことへの漠然とした不安の方が大きいので、ニュースゼロほか、自分の城をがっちりマンデー永久保守なのかもしれないと思いました。ニュースゼロは現在の私の生活時間を逸脱した時間に始まるので(ラジオ体操に行く生活と両立しない)見ませんが、以前一度くらい見たときには、なんかジュディ・オングみたいな衣装で出てたのを見た記憶があります。生ハムにチーズにパンと可能性でなく、日本で"ride the wave"をしばらくは続ける。そしてつけまつげなことを本書で知りました。

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以上