『白木蓮はきれいに散らない』(White magnolia does not scatter cleanly.) "Nobility of Life"(命の気高さ)by Izumi Okaya オカヤイヅミ BIG COMIC SPECIAL

販売 吉田冠

宣伝 熊谷友希

制作 長谷部定弘

編集 橘高真也

装丁 川名潤

初出は「女性セブン」2019年8月22・29合併号~2020年11月19日号

単行本化に際し大幅に加筆修正とのこと。

ブッコフで¥385税込で買いました。

著者の実家の庭に白木蓮があって、「花びらが分厚い」「それがそのまま落ちて来る」「しかも茶色くなってちょっと酸っぱいにおいがする」「けっこうカッコ悪い」「死ぬ時もなんかそういうのがいいね」(頁65)という登場人物の感想が、そのまま著者の実感だそうで、「なんかいつも青くさいんですよね」(あとがき)だそうです。牡丹も椿も躑躅凌霄花もそんなもんだと思うので、世の中には、桜や梅のように、ぱっと咲いて、ひらひら舞い散る花と、汚く茶色く変色して朽ちる花があるということだと思います。それ以外の散り方の花もありそう。

『白木蓮はきれいに散らない』 & 『いいとしを』 2冊同時に 第26回手塚治虫文化賞短編賞受賞! 祝 Izumi Okaya オカヤイヅミ 1963年生まれ、 「しんどい現実」を 生きる3人の女性に灯る希望を鮮やかに映し出した野心作。 朝日新聞、読売新聞ほか数々の書評で大反響!! BIC COMICS SPECIAL 小学館

帯裏

「ほんとうは 料理も掃除も洗濯も 好きじゃない」 専業主婦のマリ 「自分の身を守るなんて この歳まで したことなかった」 夫と離婚調停中のサヨ 「お嫁に行って 子供を産まなきゃ だめですか」 キャリアウーマンのサトエ 高校の同級生が 孤独死したのを きっかけに 久々に集まった3人。 変わらない関係、 変わりゆく状況の中で、 それぞれ人生を見つめていく。 同時受賞 『いいとしを』(角川書店) 揺れる世界で 父息子の二人暮らしは続いてゆく

卒業後つきあいのない同級生が孤独死し、彼女が管理していたアパートと店子(よく分からないのですが、藤井風と米津玄師とミステリと言う勿れの主人公を足して五で割ったような茫洋とした大学生)の面倒を見て呉れという遺言を残しました。しかし三人それぞれ自分の生活でも悩みを抱えていて、という今北産業をプレゼンして見事連載を勝ち獲ったが、さて骨格に肉付けしながら作品を構築、連載して読者の高評価を得ようとした時、作品の裏側でも様々な矛盾から問題が多々噴出したのかしら、というマンガです。

専業主婦のマリサンは、作者の母親がモデルなのかと思うくらい、ひと世代もふた世代も古い気がして、先日政府の子育て支援についてNHKのインタビューに答えて「なるはやでお願いします」と言ったような現実の主婦女性像をうまくとらえられてない気がしました。頁42、帰宅してスーツ脱いで入浴した夫がオールバックからさらさら髪の毛になってかわいいところなど、男性を描く視座が恋人目線から抜け切れてないのも、糠味噌臭くなくてマイナス100,000ペリカ

ただ、彼女が、理由はないのですが、何故かたまらなくなって夫と子供の世話から逃げ出して、同級生が孤独死した部屋にこっそり忍び込んで夜明かしするシーンは、よかったです。私のかつての知人で、ホテル勤務時、空いてる客室で昼寝してたのがバレて転職した人がいますが(そののち、宅配ピザチェーン店の仮眠室でバイトとセックル後全裸で熟睡してるところを翌朝出勤の社員に発見されるも、そこでは職を失うようなことはなく、神奈川県に戸建てを購入して大学時代の後輩のヨメと複数のお子さんと楽しく暮らしているとか)なかなかそういう肝の太い真似は出来なくて、私も某不動産関係で勤務していた時、華人系マレーシア人たちが住むアパートで一夜を過ごしたことがあるのですが、物音を立てると怪しまれて広東語で騒ぎ立てられるので、夜がしらじらと明けるまで、まんじりとも出来なかったです。ツァイ・ミンリャン監督映画「愛情万歳」の主人公のような振る舞いなぞ、とてもとても。

「愛情萬歳」(欧文タイトル:VIVE L'AMOUR)台湾巨匠傑作選🌞2018 劇場鑑賞 - Stantsiya_Iriya

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夫と離婚調停中のサヨサンは、読者に憎まれるキャラを造詣したかったのか、『悪女』みたく、女性誌読者の崇拝を得られそうなキャラを創造したかったのか、作者編集者ともども混迷のなかにいた気がします。離婚調停中の夫がお金を出したらしい陶器を売る店の店主です。たぶん作者が商店街を歩いていて、ふと自分が映るガラス越しに発見した、ビルの一階などの店舗、儲かってなさそうだけどやってけてそうな店を見て、土地持ちオーナーの店なのかなあ、それともその愛人の店なのかなあ、てな想像をついついしながら、思いついた設定と思います。そこに脅迫に来る探偵も、探偵ってそういうことするかなあと思ってしまいました。で、離婚が成立してなくても一緒にしっぽり温泉旅行くらい行ってくれる同世代のセフレがいて、てことは男性に若い女でなく自分を振り向かせるだけのサムシングを持っているって自慢なのかなと思うと、なるほどサヨサンは童顔で、愛くるしいというか愛嬌があるというかの顔でした。そしてハートも若い。でも永作博美がモデルではないです。絶対。

キャリアウーマンのサトエサンは、作者が自営業一直線なので何かもやもやがあるのか、現実の企業勤務女性たちからなんぼでも男女雇用機会均等法その他を巡るエピソードはゲット出来たはずなのに、非常に描写が抽象的です。頁160に睡眠とアルコールを巡るカットが出てくる程度。頁120、チェーン店のコーヒー店でサンドイッチをぱくついてますが、店内に備え付けの新聞があるんだなあとか、スマホでなく紙で新聞読むんかいとか、余計な細部に目が行きました。

今上天皇ご即位関連のニュースが世を騒がせていた頃の出来事というふうに設定してあって、なぜか小和田サン家から嫁がれた皇后陛下と旦那さんのにこやかな笑顔のニュースが数ヶ所挟まれます。別に主人公たちと女性としての生き方を対比してるわけでもないと思いますが、なんだろう。女性誌読者は皇室ネタがお好きというリサーチデータを、AIがうまく物語に落とし込めなかったのか。

そんな感じで、作者も編集者も、女性誌読者という見えない敵に見えない銃を撃ちまくった挙句、ほんとうの声を聞かせてもらえず走ってユッケ、ではなく、頁222、ネタバレで、遺言不履行してしまう。アパートは解体し、白木蓮は業者さんにチェーンソーでブッタ切ってもらう。永代供養は㍉でも、遺言くらい守ってくれると思ってた同級生は、草葉の蔭でどんな顔をしたことでしょう。続編では彼女がタタリ神となって、三人を次々に襲ってほしいです。

この同級生と、三人のうち一人は、JK時代、通学電車でスカート切り裂き魔に遭遇し、体操着を着て登校したという共通点を持ちます。チョゴリ切り裂き魔は報道で見ましたし、それは自作自演ニダ、捏造ニダみたいな2ちゃんあたりのコピペも見たことあるのですが、ふつうの高校の制服もそういうことされるんですね。ここは唐突に挿入されてる気がして、深堀とか、ほかのエピソードとの整合性とか、うまく折り合いを付けられてない感じなのが、ちょっとさびしいです。

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2015年1月に鶴ヶ峰で撮った、ごみ袋切り裂き魔への注意喚起の貼紙。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

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2013年と2015年に西武新宿線で撮った、座席のシート切り裂き魔注意喚起の貼紙。

どうもこういうことをして何が楽しいのか分かりませんで、あほか、やめいとしか思わないです。

そういうことも含めて、頁222、アパートは解体し、白木蓮は業者さんにチェーンソーでブッタ切ってもらう。どれもブチ抜きで描いています。連載も何もかも、バキバキ、メリリッ、と、更地にしてほしかったのかもしれません。正直、手塚治虫文化賞をこの作品で獲ったというのがよく分かりませんで、事前にはけっこう期待してたのでガッカリ感もあるのですが、いたしかたなし。スクラップビルドに挑まれてしまったのなら、なにをかいわんやをや。頁198に、おっぱいと、少したれた尻が活写されてますので、マニア必見です。以上