『私の遺言』 (新潮文庫)読了

私の遺言 (新潮文庫)

私の遺言 (新潮文庫)

私の遺言(新潮文庫)

私の遺言(新潮文庫)

カバー装画:宿輪貴子 解説:いません
はじめに はあるのに、あとがきはありません。
作者の心霊エッセー。77〜79歳くらいに書いたのかな。
丹波哲郎大霊界を読んだことはないのですが、こんななのかな。
作者は51歳で北海道に別荘を建てるまで、その手のことには無縁でしたが、
それからそういうふうになったそうで、それが、大団円を迎えるまでの、
三十年の軌跡の本です。ヨイトマケの人とか、スピリチュアルの人が出ますが、
知らない人は知らない人も出ます。私は知りません。酒のほそ道の作者と同姓の人や、
義母のアイコとか、は、出ません。霊能者にもいろんな人がいる、とかは、
本文で作者も語っていることですが、ネガティヴな具体例の記述はないです。
三次元が四次元を語ることには少し触れてますが、群盲象を撫でる、の例えはないです。
「気のせいだよ」「誰かのいたずらだろう」「自分でやって忘れたんじゃ」
とは云われ続けたのかもしれず、(私もよくガスの火止めたか自信がなくて再確認します)
読者に分かってほしいからながながとこんな話を続けるのだ、と、数か所書いていて、
まあでもミステリーサークルも結局人のしわざだったしなあ、と思いました。
買い置きが減る、物が移動する、あとはラップ音、電話のベルが勝手になる、etc.
むかし、「俺、そういう体質あるんすよ」という人と旅行したら、
あっという間に嬰児の遺棄死体を発見したことがあり(場所は嘉峪関)、
否定するつもりはありませんが、でも、「更年期障害」の単語を出して、
それに対し自分の例が如何に当てはまらないか具体的に書いてもよかったかも。

頁183
 酒の味を覚えたアイヌの男がいて、酒屋へ毎朝一杯のコップ酒を飲みに来る。だんだん深酒になっていって、夜も来るようになった。支払いは月末払いだから飲む度に酒屋は帳面につけていたが、そのうち、そのアイヌの男が店の前を通っただけで、飲んだことにして帳面につけるようになった。店の前を往復すれば二杯つける。アイヌには文字というものがなかったから、帳面を見せられると、それを信じたのである。しかし金はないから払えない。そして知らぬうちに嵩んだ酒代の代りに住んでいる土地を取られてしまう。誰々はそうして大地主になったのだという話はどこの町にもゴロゴロしている。

北海道、行ってみたいです。
今ならこの本の建屋内の現象が起こったら(起こらなくとも)、カメラ仕掛けるんでしょうが、
(写ってはいけないものが写った動画、という映画がもうすぐ公開されます)
それとは関係なく、その結果、録画されないとか、カメラの向きが勝手に変わるとか、
カメラの死角で何か起こるとか、そういうオチは誰でも思いつくと思います。

頁199
 集落の漁師の中でウニ取り名人といわれている遠山ヤスオもアイヌ部族だった。特別に怖ろしげな顔つきの男で、人を寄せつけない雰囲気の大酒吞みだった。酒を飲んで暴れてはアルコール依存症の入院治療をするが、出てくるとまた飲み始める。私はよろず屋の阿部商店で時々彼を見かけた。阿部さんの居間に呼ばれて一緒にジンギスカン鍋を囲んだこともある。だがその時も彼は無口で親しく話をするというふうではなかった。
 その彼がある時、突然、私にいった。
「センセエ、色紙書いてくれないかい。『ダン酒』と書いてくれよ」
 彼は近々、アルコール依存症のために何度目かの入院をすることになっていた。その時に「断酒」の色紙を持って行きたいというのだ。
 私は色紙に「断酒」と書いて彼の入院先へ持って行った。病棟で彼の名をいうと、はにかんだような表情で出て来て、
「すまね」
 といった。私が色紙を渡すと、
「これでダン酒と読むのかい」
 といい、タバコの外箱で作った蛇の目傘を三つくれた。
「オレが作ったんだ」
 はにかんだまま彼はいった。

最終章、スクールキルの人がいっぱい出て来て、作者の考えを聞いてほしい、とあり、
目がつり上がってるので憑かれてるのでは、などの記載があり、なんとなく、
相模原を思い出しました。この事件だけ何故作者の関心を引いたのか、と思っていると、
西鉄バスジャックや山形マットも少し出ます。突然時事問題がてんこ盛りで、下記に。

頁307
 別の時、私は江原さんからこの国の先行きについて遠藤さんに訊ねてもらった。すると遠藤さんの返事はこうだった。
「国のことよりも自分のことだ」
 私ははっとした。急所をグサリと突かれた思いだった。そうだった、大切なことは人、一人一人が自分の波動を上げることだった。一人一人の波動が上れば社会の波動が上り、国の波動も上るのだ。それが今まで私が学んできたことだった。政治家を批判しても仕方がない。国民の波動が上れば波動の高い政治家が出てくる。一人一人の波動の高まりが優れた政治家を産み出すのだ。

波動ってなんだよ、との思いはさておき、心霊エッセー集でも、これくらい思索可能、
と作者は思ったのか、と思いました。以上