『二日酔い広場』 (集英社文庫)読了

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同じ作者の『酔いどれ探偵』*1を読んだ後、ふと発見した本。
正確には、ほかの方のはてなダイアリー*2が検索に出て、それで知りました。

カート・キャノンシリーズのようなどん底酔いどれ探偵でなく、
節酒断酒でなんとか自制自立した生活を送っている社会人が主人公です。
東直己で言うと、畝原シリーズのようなもの。ただし家族とは死別。

モデルの私立探偵がおられるようで、その方が解説を書いています。
作者とモデルが知り合ったのは、
一昨日感想書いた田中小実昌の本*3によく出てくる浅草の店。
そういえば、作者は田中小実昌の本では師匠扱いでした。

表紙は山藤章二かと思いましたが、別人で、百鬼丸という方だそうです。
ブラックアングルではない。
ホームページ拝見すると、切り絵作家とのことなので、切り絵なんですね。
似顔絵かとも思いましたが、誰か分からない。チェッカーズとかですかね。

頁263
 広瀬勝二は、女房を殺して、私に逮捕された男だった。もう十二年、いや、十三年になるだろうか。広瀬はたしか二十七、八だった。細君もおなじ年だったが、酒癖の悪い女で、しじゅう喧嘩ばかりしていたらしい。酒を飲んだあげく、ヒステリー状態になって、細君が庖丁をふりまわしたのが、事件の原因だった。

頁279
「そうなんです。辰野さん、すっかりなまけ癖がついて、なにもしなくなったらしいんですね。美津ちゃん、水商売に入ったようですわ。それも、あの子を不安にしているんじゃないか、と思うんです」
「水商売をはじめたことがですか」
「毎晩、お酒を飲むようになったことがです。あたし、お母さんみたいになるんじゃないかしら、といったのが、とても気になるんです」

頁303
「そんなに酒の飲みかたが、へたになっちゃあ困るな。自分がなにをしたか、なにをいったか、おぼえていないときのほうが多いだろう。あんまり酒ぐせが悪くなると、おふくろみたいに、おれに殺されることになるぞ。そういわれたんだそうです。殺されないうちに、わかれるか。今夜の酒を、わかれの酒にするか、といって、本のしおり代りにしていた落葉を、グラスに入れて飲みはじめたんだそうです。そのときに美津ちゃん、思わず軽便かみそりをつかんで、あんたのせいじゃないかって――」

頁303
「大丈夫だ、大丈夫だよ。ちょっと、思い出しただけだ」
「なにをですの?」
「美津の母親も、あのときそういって、出刃庖丁を振りまわしたんだ、あんたのせいじゃないかって」
 みんな、なにもいわなかった。置時計の秒をきざむ音が、大きくなったように聞えた。もう午前二時をまわっていた。

頁306
「やっぱり、わたしの責任のようですね。美津も松村君が好きだったのかも知れない。でも、結婚の話になったら、むこうの両親が承知するはずはないから。辰野の場合は、美津が気がねなく、つきあえたんでしょうね、きっと」
 泣き声が聞えた。

一作ごとに完成度が高まってくるようでした。
最後の話は、午前一時から夜明けまでの、吉原浅草一帯を活写していて、
なかなかこの時間吉原をオールするのは危ない人も多いと思うので、
そういう人に夜明けのこの地域の空気を吸わせてくれるような作品でした。
ただ、タイトルが、「まだ日が高すぎる」で、
深夜早朝の話なのに、昼酒を飲むか飲まないかためらわれるみたいなタイトルで、
このシリーズはタイトルに呪われているのかもしれないと思いました。

もともとのタイトル『ハングオーバーTOKYO』が今イチだったので、
文庫化のさい『二日酔い広場』としたのもうなづけます。
矢作俊彦みたいなタイトルで、
くたびれてるけれども真面目な中年探偵が主人だと、
ギャップがあったと思うので。以上