『くじ』(異色作家短編集12)読了

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41YmIMlgY5L._SX262_BO1,204,203,200_.jpg宮部みゆき編アンソロジー
『贈る物語 Terror』*1
収められていた
『くじ』を読んで、
作者の他の小説も
読もうと思って
借りた本です。
そも宮部みゆきのを
読んだのは、
コニー・ウィリス
『混沌ホテル』*2序で
勧めてたからですが、
そこは忘れてました。

昭和五一年六月初版
装幀 畑農照雄
訳者あとがき有

訳者の深町眞理子さん、
現在では𦾔字「眞」ですが、
当用漢字の「真」で
記されています。真理子。

作者Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%B3
これだけの作家なので、アマゾンレビューを読むだけで、
本書収録「チャールズ」と自身の子育て日記 『野蛮人との生活』との関連や、
作家として「モダンホラーの先駆者」「最後の魔女」と呼ばれていたことなどが、
手に取るように分かります。象を撫でる。

正直、私は、ぜんぜん、『くじ』にピンとこなかったので、
もう少しこの作家を読んでみないことには始まらないかな、
くらいの気持ちでした。
おとなしい、控えめな人間が、理不尽にワリを食う話が多いですが、
『おふくろの味』"Like Mother Used to Make"には、少しホロリとしました。
ささやかな中年男の幸せが、物理的でなく、精神的に破壊される滑稽さ。
かと思うと、『人形と腹話術師』"The Dummy"のように、
おいしいと評判のはずのレストランでガッカリな席に案内され、
サーブにもイマイチ乗れず不満足、な淑女の怒りが、バカーンと炸裂する話や、
息子が黒人少年と遊ぶ姿を描いた(原書出版は1949年)
『どうぞお先に,アルフォンズ殿』"After You, My Dear Alphonse"
のような話もあり、いちがいに薄っ気味悪い話ばかりとはいえないです。
『魔女』"The Witch"のように、この短編集に折々登場する、
砂男みたいな紳士が、猟奇快楽殺人の直球を投げてくる話も、あります。
『歯』"The Tooth"は、グレイハウンドというのでしょうか、
アメリカの長距離夜行バスで、ニューヨークの歯医者を目指す、歯が痛い女性が、
痛み止めに、コデインが出てくるので、あーもう分かった、という感じで、
濫用で、ラリってるな〜という小説で、なんとなく分かりました。
こんなに頻繁にコーヒーブレイクの小休止とるわけないと思うし、
グレイハウンド。下川裕治の12万円で世界旅行だと、持ち込みの、
カップヌードルにお湯をもらうだけでもタダではない有料のUSA。

12万円で世界を歩く (朝日文庫)

12万円で世界を歩く (朝日文庫)

頁247
(前略)ぼんやりと眼をあけてそちらを見ると、その男がいった。
「遠くまで行きますか?」
「ええ」
 男は紺の背広を着ていて、背が高そうだった。眼の焦点が定まらず、それ以上のことは見てとれなかった。
「コーヒーを飲みますか?」男が訊ねた。
 彼女は頷いた。男は彼女の前のカウンターを指さして見せた。そこにはいつのまにきたのかコーヒーが湯気をたてていた。
「早く飲みなさい」男はいった。
 彼女は上品にすこしずつ啜った。ひょっとすると茶碗を持たずに顔をつけて飲んでいたかも知れない。見知らぬ男は喋りつづけていた。
サマルカンドよりももっと遠い。そして波はまるで鐘のように鳴るのです」
「出発しますよ、みなさん」と、バスの運転手がいった。彼女は急いでコーヒーを流し込んだ。バスへ戻るのに充分なぶんだけ。
 席へ帰ると、見知らぬ男が隣りへきて坐った。バスの中は真っ暗だったので、外のレストランからの明りが堪えられぬほど眩しく、彼女は眼を閉じた。目蓋が閉じられると同時に、またも歯の痛みが四方からひしひしと迫ってきた。
「一と晩中フルートが嫋々と鳴り」と、見知らぬ男がいった。「星は月のごとく大きく、月は湖水のごとく大きいのです」

これ、お話自体は郊外在住者のニューヨークに対する不安、おそれ、
疎外感等の話で、前の前の短編『塩の柱』"Pillar of Salt"と天丼構成ですが、
サマルカンドにやられました。夜行バスでその単語は痺れます。

古きよき本屋トークとして、『意味の多様性の七類型』
"Seven Types of Ambiguity"もよい話でした。
むかし、書店で働いていた頃、創文社の東洋学叢書*3揃いの、
取り込み詐欺を、試みた酔っぱらい老人をいなした話は、
どこかの日記で書いてましたでしょうか。どうだったかな。以上

The Lottery and Other Stories (Penguin Modern Classics)

The Lottery and Other Stories (Penguin Modern Classics)