『チーズとうじ虫―― 16世紀の一粉挽屋の世界像』読了

チーズとうじ虫―― 16世紀の一粉挽屋の世界像 (始まりの本)

チーズとうじ虫―― 16世紀の一粉挽屋の世界像 (始まりの本)

読んだのは、上の2012年版と違て、1985年二刷版(初版1984年)です。
解説のないやつ。県立図書館から借りまんた。
下の本で紹介されている本のうち、いちばん聞いたことがなかった本。
新・現代歴史学の名著―普遍から多様へ (中公新書)

新・現代歴史学の名著―普遍から多様へ (中公新書)

ただし、樺山紘一横山宏章と間違えて、
「へえ、清国水兵長崎事件の人が歴史学の書籍案内の本出したのか。へえ」
みたいなノリで読んで、いま、よこやまじゃなくてかばやまに気付きました。おっちょこちょいだなあ、自分は。
ギンズブルグさんの本の主人公の粉挽き屋さんもおっちょこちょいです。
会う人ごとに自説をべらべらしゃべる。当時のキリスト教世界観の共通認識とズレた自論。
画期的な印刷革命で得た、アジア見聞録や俗語版聖書、コーランなど十冊あまりの本が、
彼のミクロコスモスを形成した源、エナジー。ちょいと汎神論的な自説です。
・処女がこどもをうむはずがない、イエスはマリアとヨゼフの子、とか。
・自分はキリスト教徒だからキリストマンセーだけど、
 イスラム教徒に生まれてたら、アッラーフアクバールだったろうね、とか。
・回教と耶蘇教の優劣?今は自分はキリスト教徒だからキリスト教ですけど、今はね。とか。
住んでたのはイタリアの、スロベニアに接した地方。オスマントルコの隣ですね。

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住んでいたモンテレアーレ

で、粉挽き屋さんは壁に耳あり障子に目ありが分からぬ人。自営業で敵もいる。
教皇天正少年使節謁見の前の前の年(1953年)告訴され、投獄。当時五十代。


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裁判にかけられたポルトグルアーロ

釈放後、六十代でまた裁判、最後は処刑されました。
ジョルダーノ・ブルーノと同じくらい、1599年か1600年。
奥さんにも息子のひとりにも先立たれ、息の根止まるなら止まれ的な最後でした。
自説で、霊魂の不滅を信じず、肉体が滅んだら霊魂も滅ぶゆうてたみたいだし。
この本は、
たまたま異端審問の記録に残ってて現代の私たちが知ることが出来た中世の庶民、
読み書きが出来て本が好きでイカレた中二病のマイノリティー市民について
根掘り葉掘り描いたものです。今の日本にも、
会うたびに自説をふりまわすけど賛同されない人っているので(わたしがそうです)、
身につまされました。
なんすかね、粉挽き屋さんは宗教だから国士さまとかとは違うね。
ある仏教系でお坊さんやお寺を擁護するとか、
ある一神教で格闘技を擁護するとか、そんな感じでしょうかね。
ちょっとせつない、それがミクロコスモスの歴史学。うそ。