『文学ときどき酒―丸谷才一対談集』読了

文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)

文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)

図書館で借りたので、1985年集英社版ハードカバーです。装丁司修
いちおう飲みながら対談したようですが、酒の話はほとんどないので、
作者自身も心残りだとあとがきで言っています。文学ごくまれに酒。
酒の話は、谷崎潤一郎回顧と、吉田健一回顧のところくらい。
金沢の元ネタになった豪遊で、もうケニチさんは全然食べなくなってたとのこと。
頁110「料理の味は目で見ればわかります」

頁109
河上聖路加病院に入った前後は、健一はギネスだけで生きていたそうですね。

エズラ・パウンドの部分も面白かったです。
フェノロサ漢詩を日本人から習ったので、
地名人名川の名前が日本語読みでガンガン出てくるなど、
現在では考えられない英訳詩の世界が展開されているのですね。
今じゃ北京を英字新聞でBeijingと書かれることに日本人が慣れねばならない。

Selected Poems of Ezra Pound (New Directions Paperbook Book 66) (English Edition)

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朝日新聞のように、人名に不完全なカタカナを当てる行為は、
この齟齬の解消に全く寄与しないと私は考えています。
習近平に、シーチンピンというルビを振って、
英字新聞のXijinpingが即座に理解できるようになるわけがない。
だいいち、漢字の読み方はそれぞれの言語に倣うという漢字文化圏大前提のルールに反する。

丸谷節とでも言いましょうか、やはりこの人の天皇論は面白い。
頁45で、後醍醐天皇天皇御謀反、天子はんが臣下に謀反するパラドックスに触れ、続いて、

頁45
丸谷 明治維新が日本文学にとって大変革命的だったと言われてますが、実は明治十年が境なんですね。明治十年の西南戦争以後、天皇が恋歌を作らなくなった。ロシア皇帝とかカイゼルとか、ああいうものに仕立てようというわけで、天皇が恋歌を詠むのを禁じたんですね。それが日本の文学にとって非常に大きな出来事だったと思うんです。日本の昔の文学というのは、結局、天皇が詠んだ恋歌が中心になっていて、それがあるからこそ『源氏物語』だって成立するわけでしょう。ところが天皇から恋愛の権利を奪ったわけですから、そこで日本の文学の質がずいぶん変ってしまった。

頁172では、勅撰集は文化的な意味での天皇制の表現で、その意味では、
勅撰集が終わった時、天皇制は終わったとも言っています。さすが裏声作家。

裏声で歌へ君が代 (新潮文庫)

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