『邱永漢の「予見力」』 (集英社新書 514A)読了

邱永漢の「予見力」 (集英社新書)

邱永漢の「予見力」 (集英社新書)

玉村豊男のヴィラデストワイナリーの公式を見ていたら、
著者本(全部サイン入り)の販売コーナーがあり*1
この本がありましたので、へえと思い、図書館で借りました。
作者が東大とは知りませんでした。本書の表現を借りると「Q師」とは、
東大の先輩後輩ですね。

台湾の本土化を日本に知らしめた嚆矢といえば、勿論司馬遼太郎の街道を行く台湾紀行で、
そのきっかけが、陳舜臣の、「台湾、まだやったな」の一言であることは、
確か街道を行くの中にも書かれていて、巷間非常に有名なエピソードであります。
まったく裏が取れていませんが、私の関西の知人によると、
ターレンは、戦後すぐの日本国籍喪失で三国人になったことで、
日本にやはりある種の感情を抱いた、といいます。その直後の帰郷で、
故郷の現状に対してもアレなアレを抱かざるをえなかった。

青雲の軸 (集英社文庫)

青雲の軸 (集英社文庫)

天安門事件の後、日本国籍を取得したことは今回も頻繁に報道されましたが、
下記の小説を未完のまま終わらせたことが、ひとつの毅然とした態度かもしれないです。
山河太平記 (ちくま文庫)

山河太平記 (ちくま文庫)

陳大人が書香の人として生涯を全うしたとして、もう一人の在日台湾人直木賞受賞作家であり、
実業の世界に生きた邱永漢について、
以前から交遊のあった玉村豊男が、農業というキーワードもあってか、
中国視察などに同行し、かつ、インタビュー抄録を交えて構成したのが本書です。
のっけから、母親が日本人である点に触れて始まっており、玉村の意気込みを感じました。
ちょっと題名が思い出せませんが、ある日本の台湾文学研究書で、
研究者がQ師が往時それを特におもてだって表明していなかったことに対し
喰らいついて喰らいついていたことを知っての上で、斬り込んでみたのでしょう。

この本は、よくある、中国では日本よりケタがひとつ大きくなってしまうので、
食糧問題の危機など、考えられずに麻痺してしまう、そういう本のひとつです。
また、中国の問題は、共産党でなく、官僚専制であると、
的確に指摘しておられますが、私なぞは、ではどうしたらとか考えると混乱するので、
官僚専制の起源は科挙制みたいなところに考えを及ばせて終わらせていますが、
この本も、特に答えを出すわけではないです。出せるわけがない。
あえていえば、プラグマティストだから、チベットの将来なんか、
バッサリ言い切っており、さらに、金の稼げるところでなかったら、
無理やり移住や移植させようとしても定着しないともゆってます。

Q師の元で中国で働く人たちのなかに、「日本で生れた韓国人」という言い回しが
何度も登場しますが、これは、玉村さんが、「フランスで生まれたアルジェリア人」
と同じように考えたいという現れなのかな、と思いました。

この本はまだギョーザ事件の影が色濃い時期に書かれたようで、
その記述も随所にあります。
日本が不得意なのはワイロを渡す心意気?と、あと何かあったのですが、
忘れました。以上