『検事の本懐』 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)読了

検事の本懐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

検事の本懐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ほかの人がブログで紹介していたので、読みました。

(1)
本編と関係ある点一つ、関係ない点を一つ、指摘しようと思ったのですが、
シリーズ一作目『最後の証人』のアマゾンレビューが百花繚乱斉放争鳴で、
重箱の隅を、つつくわつつかれるわそらええわ状態でしたので、しばしげんなり。

…連続放火捜査のローラー作戦が灯油ポリタン購入者(徒歩)を見逃すとか、
おかしいだろ、が前者。(頁75)

頁365
 兼先は手帳に佐方のプロフィールを控えると、一階にある公衆電話に向かった。電話帳で米崎地検の代表番号を調べる。ズボンのポケットから小銭をあるだけ取り出し、電話の上に置いた。百円玉と十円玉を数枚入れ、プッシュボタンを押す。四回目のコールで電話が繋がった。

頁350によるとこの話の時代設定は昭和五七年の一四年後、つまり1996年ですので、
ケータイ全盛期はまだか知りませんが、コインよりテレホンカードだったはずで、
なんで長距離電話かけるのにテレカ買わんのんよう、と思ったのが後者。

(2)
ただ、解説によると、本書収録作品の大半が、作者も肉親をなくされた、
3.11の後に書かれており、それだからか、本書のアマゾンレビューには、
前作に比べ、山形ライター講座出身に対する、細かい点の攻撃は皆無でした。忖度忖度。
忖度と斟酌とこチガウ。バブル崩壊後の失われた十年が舞台ということで、

頁156
佐方は近くにある喫茶店に入った。
 明るめの店内では最近売り出し中の、SMAPの曲が流れていた。

という描写もありました。

(3)

頁346
 兼先は、一年前の健康診断で糖尿病予備軍と診断されて酒と煙草を絶っている、と答えた。細田は受話器の向こうで、ええっー、という甲高い声を上げた。
「酒と煙草は死ぬまでやめないって言っていた兼さんも、やっぱり命が惜しいんっすねえ」
 兼先は、どうせ俺は玉が小せえよ、と吐き捨て、それより、と本題に入った。

やめたいのにやめられないより全然よいかと。ロイカトーン。

頁362
 ホテルへ向かう途中、立ち寄ったコンビニで買った缶チューハイのプルタブを開け、半分くらいまで一気に咽喉に流し込む。ああ、と声に出して溜め息を吐くと、身体から一気に力が抜ける感じがした。
 仕事のあとの、この一杯はこたえられない。医者から糖尿病の怖さを教え込まれ、命惜しさに煙草はやめたが、酒だけは週に一度くらいの割合で飲んでいた。糖尿病の本を読んで、焼酎一杯くらいなら問題ない、と自分で決めた。

絶酒でなく節酒でした。ジーメンスシーメンス。医者とも相談した上で決めるがいいです。

(4)
池上冬樹の解説によると、作者の第一印象は、
上品で美しい人妻という印象で、
コンプレックスなどほとんど何もない幸せな人生を歩んできた人なのだろう
ということですが、
この小説の主人公は、一貫してよれよれのスーツにぼさぼさの髪なので、
主人公の造形に何を託したのだろう、と思いました。第一印象の悪いキャラを出して、
何を言いたかったのか。この小説は、個人の能力や組織の中での調和より、
親切を押し付けてバーターに他人に自分の尻拭いをさせるのも一つの才能、
という、女性がオトコ社会へ進出して見聞きしたものがある程度まとめられて、
このように表現されているのだな、と理解出来る部分があり、
そこが興味深かったです。“負荷”をかけられる、については、
漫画家の田村由美を連想しました。女性の方がキャラに負荷をかける、気がする。

(5)
東北出身の作家さんが広島弁ばかりの小説を書いて、東北弁が出てこないのは、
それはちょっと不思議、とも思いました、なんでだろー。

以上