『「老いぼれ腰抜け」亭の純情』(文春文庫)読了

「老いぼれ腰抜け」亭の純情 (文春文庫)

「老いぼれ腰抜け」亭の純情 (文春文庫)

Old Contemptibles (Richard Jury Mystery)

Old Contemptibles (Richard Jury Mystery)

ヘンな名前のパブを題名にした推理小説シリーズも、邦訳残りあと三冊。
その後本国で刊行された十冊は、原書で読むチカラもないので、読まずに終わるでしょう。
カバーはいつものように和田誠

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA

訳者あとがきがP498までで、見開きとなりが奥付けなんですが、
〜のも心にくい」という一文で終わってるのが、なんか唐突な気がして、
もう一枚くらいページがあったのが、とれてしまって、そのまま修復された本のような、
気がしないでもないです。図書館にはたまにそういうことがある。

前作がロックバンドの話で、なんか英国のミュージックシーンを描くには、
このシリーズの登場人物はお行儀がよすぎると思いましたので、
今回の老人と子供のポルカは、こういうのがいいよな、と思いました。
今回だけのキャラ群とレギュラー陣が重層的に織りなすストーリーで、
最後分離して終わります。突然機械仕掛けで現われて劇の入り組んだ物語を解決する神さま
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%8A
頁480にそんな台詞が出てきて、このお話の簡潔なサマリ、アジェンダなのですが、
頁23ですでにして、セックス後ラテン語が口をついて出てくる場面があり、
ピロートークラテン語になるという描写が神がかった伏線なのだ、と、
作者が辿り着いた地点に、舌を巻きました。複数主人公の並列配置とか、
初出から十年たったやもめキャラの動かし勝手の悪さの解決を、こうも大胆に行えるのか。

頁63、独身貴族が音楽をCDで聴く場面、CDプレイヤーを礼賛してますが、
音楽好きがCDプレイヤーを褒めるなどと云うことがありうるのかと思いました。
(いかに高価な機器か知りませんが)
頁325、名だたるワインが次々に出てきて、作者が突然ワインの勉強でも始めたのかと、
面食らいました。なんだこれ。シェリーとかポートばかりの小説と思っていたので…
(あとジンとウィスキーとビール)
頁383、専用のバス希望なら室料割り増しを承諾して支払った後、
インには共用バスしかなく、ほかに客がいないから専用だと説明される場面は、
イギリス人同士の会話とも思えず、アメリカ人が英国B&Bで受ける仕打ちではないか、
と思いました。

オチも非常によくて、シリーズの中でも出色の出来と思います。
このあと二作のあと、邦訳されなくなるのが信じられない。以上です。