『青空の卵』 (創元推理文庫) 読了

青空の卵 (創元推理文庫)

青空の卵 (創元推理文庫)

作者のデビュー作。"EL HUEVO EN CIELO"というスペイン語タイトルがあるのが、
まず分かりませんでした。以下後報

【後報】
Yahoo!知恵袋 2010/7/25 23:27:50
EL HUEVO EN CIELOは何語でしょうか?
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1144247326

私が疑問に思ったことは大体他の人も疑問に思っているわけで、
ウェブでは、そういうのがわりと分かったりしますが、
分からないこともあります。作者が性別等を明かさない覆面作家である点は、
特に異存はないのですが、作者が特に何か賞を取ってのデビューでなく、
デビュー作の本作は、第一作を東京創元社の当時社長の戸川安宣氏が、
最初の短編原稿を読んできっちゃ店で作者に逢って、
まとめて短編集にして出そう、と言って出たそうなので、作者の、
少女漫画家を思わせる旺盛なサービス(あとがきと文庫あとがきを欠かさない)
も鑑みて、著者は他業で既に名を成している人なのではないか、と思いました。
そう思ったもう一つの理由は、2002年本書単行本刊デビュー、
2006年文庫化、というその時代は、匿名掲示板全盛期ですので、
なにがしか悪意の暴露があってもおかしくないのですが、過去ログも、
キレイに掃除されているとしか思えないピッカピカのスレしかなく、
これはほんものだと思った次第です。ときどき2ちゃんもそういうことがある。

読んだのは文庫本。カバーデザイン=石川絢士(ザ・ガーデン)
解説は北上次郎。単行本には、寺田結美と松谷明子との座談会があるそうで、
それを文庫本に収録せず、興味ある方はそちらもめくってちょ、
と、商売上手なところも見せています。読みたくない人はいまい。

他の本でもあったと思う点で、これまで気にしてませんでしたが、
本書もGという存在に献辞がささげられています。なにものでしょうか?
(という見出しのアフィ目的のまとめナントカがあるかといえばない)

ゴルゴ13
油虫
グレッグ・イーガン

他にもネ申とか百合まんがの『群青』とか思い出しましたが、
さてどれでしょうと。

この作家はこのあと日常ミステリーの名手となり、それも、
特定の職業をうまく描いてゆく芸風になるんですが、それは、
実は、この処女作で、PGという職業を、うまく描けたか、という思いが、
たえず作家を研鑽させたのではないか、と思います。
ひきこもりという売り文句は、本文で、彼は、世に言うひきこもりと、
同じかどうか不分明、と、理由も併記して書いてあるのでいいのですが、
プログラマーに関しては、続刊は読んでないので分かりませんが、
少なくとも本書では、彼はゼロサム式のバカロジックとは無縁に見え、
その一点だけでもPGっぽくないと思いました。話が通じるので。

作者がこのあと選ぶ職業は、クリーニング屋、歯医者の受付、ワーホリは、
読んでないので忘れましたが、なあなあ家族経営ホテルフロント、
デパ地下の和菓子屋接客、と、理系っぽくないのばっかです。
自動車のブレーキシステム設計とか、東野圭吾とか、舌魔h氏ロケットとか、
そういうのは作者が舞台として採用してません。最初がPGだったので、
なんか大変だったのかなーと思いました。

作者と同じ名前の語り部が好きなミステリーは御手洗潔(頁16)
そんな若い男性いるのかと思いましたが、いるかもしれない。
原作では厚塗りのはずの小田霧響子を石原さとみが演じて、
谷原章介も出た小田霧響子とかじゃダメかと思いましたが、
私が知ってる一番知名度の高いと思われる美女探偵ですが、
それでも一般的には知名度ないんだろうなと思います。
若い男性がよく知ってる美女探偵って誰だろう。ふじこ

語り部が、自分が主人公を共依存に誘い込んでるんではないかと、
頻繁に強迫的に悩むモノローグがあり、それがウリといえばウリ、
その後の小説では見られなくなったので、昇華出来たんだな、
よかった、と思うですが、それが苦手な人は苦手だと思います。
自分が無自覚に他者を共依存に誘い込んでる人は、讀んでも、
気づかないに1,000ペリカ。試しに読んでみればって感じです。

頁27
(前略)ただ唯一の欠点は彼が酒を飲まないことで、僕は日々素面の相手を前に杯を傾けることになる。
 今日も今日とて揚げだし豆腐や茄子の煮びたしを前に、鳥井は烏龍茶を飲んでいる。

語り手は一人暮らしで料理がうまい主人公のアパートに、ほぼ毎日、
仕事帰りに訪れて夕飯をご馳走になって帰宅する生活をしています。
飲まないのにアテみたいな料理作るのは、ダチが飲むから、なんじゃないか、
と思ったのですが、語り手がそう推測する場面はありません。

頁118、障がい者年金の人の保険加入の話、初めて知りました。
そうなのか。

頁375、魚屋さんだった奥さんが作る料理が、まずいわけがない
アジフライとかもそうですし、ムニエルとかもいろいろ知ってるんですよね。
思い出しました。魚屋自体がもうあまりないので、美しい記憶として。
以上
(2018/1/1)

【後報】
語り手が、主人公が他者との人間関係築くのが苦手なのを利用して、
自分だけが彼のお友達状態を独占して、彼の外の世界への踏み出しを、
阻害してるんじゃないだろうか、自分が楽しい状態を維持するために、
という箇所讀んで思い出したのが、半村良『亜空間要塞の逆襲』で、
彼は両親生きていたので戦後三食不自由なくて、防空壕に隠れ住む、
戦災孤児になった友達と遊びたい時だけ遊んで彼が餓死するのを見殺しにした、
という箇所です。こういうのに比べれば、というか比較出来ないか。
十字架を背負ってたから戦争反対を叫ぶ人がいたってことですね。
そう云うと話がズレるか。つけたしです。以上
(同日)