島地勝彦と開高健の対談集『水の上で歩く』に谷譲次のもう二つの名前とともに登場し、牧逸馬もそのうち読みますが、まず、めりけん・じゃっぷを何か読もうと思って借りました。最初、めりけん・じゃっぷとズバリ書名に書いてある本を借りたのですが、めりけん・じゃっぷが何なのか摑めませんでしたので、即刻返却し、こっちを借りなおしました。
カバーカット=古賀春江「海」(一九二九)
<目次>
踊る地平線…東京から下関、釜山から満州経由でモスクワまで。
テムズに聴く/黄と白の群像…ロンドン。
虹を渡る日…ベルギー、オランダ。アムステルダム五輪に遭遇します。
白夜幻想曲…北欧四ヶ国。
ノウトルダムの妖怪…フランス。大陸に沈没した老邦人登場。
という旅行記です。稲垣足穂ですら読めない私が、よく頑張った。
頁227「靉日」ということばが分からず、検索するも、やはり分かりませんでした。本書以外の例文がない。
https://furigana.info/w/%E9%9D%89%E6%97%A5
頁254「独逸製児島高徳 」の意味が分からず、検索しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%90%E5%B3%B6%E9%AB%98%E5%BE%B3
下記は初夏のハイド・パークの記述。
頁147
(前略)何だか眼のまえの芝生に疎らながら人だかりがしている。
大きな楡の木のかげである。
白ずくめの若い保姆が乳母車を停めてやすんでいるのだ。
黒塗りの小さな乗物、そのなかのふっくらした白布リネン、それらのうえにまんべんなく小枝の交錯を洩れる陽が降って、濃い点が無数に揺れている。乳母車の主の赤ん坊は、白い被り物の下から赤い頬をふくらませて、太短い直線的な手の運動で、非常に熱心に、自分の靴下の爪さきを引っ張っている。保姆のほかに女中がひとり、それに、すこし離れて私服の役人らしい紳士がぶらりと立っていた。
みんなが赤ん坊を見て往く。なかには帽子をとっている人もある。
保姆は片手を乳母車にかけて、うしろ向きに女中と話しこみ、赤んぼはひとりでいつまでも自分の足と遊んでいる。一生懸命に靴下を摘んで、ながいことかかって或る程度まで脚を空に上げる事業に成功するんだが、そのうちにぽつんと切るように手が離れると、身体ぜんたいがころっと反り返って驚いて両腕をひろげる。そしてまたしばらく自分の足さきを凝視し、その誘惑に負けたように手を出すのだ。いつまでも同じことを反覆している。
赤んぼがぴいんと足をはじいて車が動揺する時だけ、保姆はちょっとかえりみるが、小さな主人が飽きずに幸福にしているのを確かめると、安心してふたたび女中のおしゃべりに熱中し出す。役人らしい男は、喫みおわった紙巻をぽうんと遠くの道へ捨てて欠伸をした。
来る人も往く人も足をとめて、ほほえみと軽い礼を赤んぼへ送っている。
草を踏んで近づいてくる跫音が私たちをふり向かせた。さっきの切符売りの老人である。眼の蒼い、愛蘭人の微笑とともに、そっと彼の低声が私たちの耳のそばを流れた。
『あれ――知ってますか誰だか。プリンセス・エリザベスですよ。』
エリザベス内親王殿下は、現陛下の第二皇子ドュウク&ダッチェス・オヴ・ヨウクの第一王女である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B6%E3%83%99%E3%82%B92%E4%B8%96
以上