『横浜駅SF 全国版』"YOKOHAMA STATION FABLE" by YUBA ISUKARI(カドカワBOOKS)読了

口絵・本文イラスト 田中達之 装丁 AFTERGLOW

本編*1が面白かったので読んでみたというか、何人かの登場人物のその後がようとして知れないので、スピノフで書いてあるかなと思って読んだ外伝です。最初図書館でこの人の本を検索した時は、『戦闘妖精雪風』と『戦闘妖精雪風・改』みたく、作者自身による改訂版の可能性もあるので、こっちを先に借りませんでしたが、それでよかった。

けっきょくは、JR北九州のはぐれ社員のその後も、電光掲示板かなんかだけになってしまったアンドロイドのその後も、ようとしてしれない(書いてない)し、「ユキエさん」の正体がなんなのか、本編のオチに書いてあったかもしれないのですが、思い出せず、こっちに書いてあるかと思ったらやっぱりそれもないかったです。代わりに、「あとがき」という名前で、作者がアメリカ西海岸に留学して、LとRの発音の違いが出来ずスタバのオーダーでも苦労したり、保険証の効かないアメリカの医者が法外に高くて苦しんだり、ドンキーとルームシェアするエッセーが読めます。

その前の小説パートは、主に、前日譚が読めます。「キセル同盟」の由来とか。人さらいのモチーフなどは、どう処理しようか作者は考えて、自分はこういうふうに書くんだと規定したのかもしれません。日本はそんなに規制がないので、グロく書くかぼかして書くかは自分で決められる。で、後者を選択したんだろうなと。天才が、自分は眠ることにしたという展開も、離島に暮らすオッサンが、感染症で死ぐかと思ったけど大丈夫そうだったなども、そういった、「ひとにやさしいエスエフ」がいいんじゃいかと書き手が思ったのではないかと。

青い眼は劣性遺伝だというのに、この小説にも「特徴的な青い目をつむると、後はごく日本人的な顔になる」お医者さんが登場します。頁083。アニメ映画「思い出のマーニー」を思い出しました。*2

この小説は、ゾンビ小説ではないですが、「しばり」のある世界設定の中でどう登場人物が行動し、物語が進むかを楽しむ面があり、エキナカでは暴力を振るうと自動改札によって横浜駅の外へ放逐されるという設定に対し、下記のような関西の駅の外の世界の描写は面白かったです。

頁065

 外の世界では人間が建物を作るということは知識として知っており、話で聞く分にはエキゾチックな魅力を感じたこともあったが、実際にやってみるとひどく苦痛に満ちた体験だった。工事長の男はよく棒でシドウを殴ってきた。殴られるというのは初めての体験で、肉体的な苦痛以上に精神がまいってしまった。

本編と外伝はセットで第1回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞作で、第2回が大賞該当作なしなのは検索で見ましたが、いつのことなのか分からず、第3回以降は、ぱっと検索で出ないのでよく分かりませんでした。本書の巻末の、ほかの小説の広告のあらすじを見ると、二回以降でこの賞をとるのは、なかなか、これと同じようなコンセプトSFでも苦しそうな気がします。

<巻末の広告に登場する小説>

  1. 『週末冒険者』残業なし休日出勤なしだけが取り柄の会社に就職した佐藤聡は、ある日ふと思い出した。「俺、前世は魔術師だった」今でも魔術が使えた彼は、良いことを思いつく。「老後の貯蓄のため前世の世界へ行こう。--週末だけ」
  2. 『デーモンルーラー 定時に帰りたい男のやりすぎレベリング』公務員の五条は、突然謎のゲームへ招かれ、仕事の合間に魔物を狩る生活を始める。すると、おっさん特有の無駄知識と手段を選ばない行動力が炸裂し、瞬く間に最強に!更に可愛い従魔や美少女JKが頼ってきて……
  3. デスマーチからはじまる異世界狂想曲デスマーチ真っ只中のプログラマー、”サトゥー”こと鈴木。仮眠をとっていたはずの彼は、気がつけば見たこともない異世界に放り出され、そして目の前には蜥蜴人の大軍? 夢か現実かここにサトゥーの旅が始まる!

こういうのしかないとは思いたくないので、似たような作品ばっか広告に載せたと思いたいのですが、なかなか、ここに所謂エスエフを放り込むと、それだけで意識高い系と言われそうな気もします。一色紗英の現在の座高はさほど高くもないと思いますが、大衆化と言うのもへんで、なんだろうこの、水は低きに流れるにもほどがある感は。アッカーマンは良寛さんを駆逐しやはる。以上