『酒場』 (日本の名随筆 別巻4)読了

日本の名随筆 (別巻4) 酒場

日本の名随筆 (別巻4) 酒場

出版社による内容目次
http://www.sakuhinsha.com/essay/8242.html
読みましたぁ。詳細は分析してから後報で。
橋本治が厄介です。彼は下戸。

【後報】
『下町酒場巡礼』紹介の山之口獏エッセー、*1
収録した本を検索したら、この本でした。借りました。
(2014/3/3)

【後報】
どこから行くか。初めから付箋を付けた箇所を順番に行きます。

頁21 井伏鱒二「はせ川」
佐藤正彰は誰も知らないやうな化学界また数学界のことについてよく珍談を持ちあはし、それを身ぶり手ぶりで決河の勢ひでしやべりだす。おやセイバン、またはじめたと思つてゐても、どうしてもたうとう笑はなくてはならないことになつてしまふ。セイバンといふのは正彰の略称だが、人ずれのしてゐない女給などは、まんまとだまされて実際の生蕃だと思つてゐるのがある。或るとき私が、どんな工合にして生蕃と女給に信じさせたのかと聞くと、セイバンは私にも生蕃だと思ひこませるやうに、まことしやかに云つた。
「俺は、しかし生蕃といつても熟蕃の方だ。どうして俺のことが生蕃とみんなにわかつたかといふに、はじめ俺は生蕃だといふことを秘密にしてゐたが、たうとうばれちまつた。学生のとき、台湾から小包で送つて来てゐた月謝を、或るとき銀行へとりかへてもらいに行つたところ、同じクラスの男に見つかつたんだ。生蕃の貨幣といふのは阿里山から出る白い石ころなんだ。内地の銀行はそれを金にとりかへてくれるんだ。いつも銀行の出納係は、こちらの気持を察して窓口でこつそり引換へてゐてくれたんだがね。悪いときには悪いもので、その石の包みをあけた途端、一つ床に落した。そこを同じクラスの男に見つかつてしまつたんだ。」
 彼は話術がうまいから私は半ば本当かと思つた。

今、セイバンとか分かる若い人がどれだけいるか。
日本人は親台なので、出納をすいとうと読める人よりは多い気はしますが。

佐藤正彰
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E6%AD%A3%E5%BD%B0

頁51 戸坂康二「酒席の紳士淑女」
 田辺さんは、洒落と同時に、うまい話し方でフィクションを披露する名人であった。演劇賞の会合で、歌舞伎町の店で会食している時、「じつはぼく、結婚してしまったんだ」といって、一葉の写真を見せた。モーニング姿の田辺さんの隣に、角隠しをつけた花嫁衣装の新婦がいて、うつむいている。まぎれもなく、それが歌手の佐良直美さんなのであった。「まもなく発表するが、当分御内聞に」といい、その席にいたホールの鈴木支配人に「田辺直美の名義で、銀行の口座を作ったから、そのつもりで」とささやく。支配人も初耳らしく、何となく、おろおろしていた。
 これは女性週刊誌が遊びで作ったグラビアの写真だと間もなく知れるが、その夜はついに種明かしをせずに解散したのである。

紀伊國屋書店の茂一社長のエピソード。ほら吹き男爵みたいな明るい嘘はいいですね。

闇の中の系図 (河出文庫)

闇の中の系図 (河出文庫)

闇の中の黄金 (河出文庫)

闇の中の黄金 (河出文庫)

闇の中の哄笑 (ハルキ文庫)

闇の中の哄笑 (ハルキ文庫)

河出は三作全部出せなかったのかな?星新一もそうですが、半村良も、
余人の追随を許さず、ひとりジャンルで終わった感があります。
荒巻も志茂田も、半村流のレトリック構築がまったく出来なかった。
ウソくさいネタをただ並べても、ダメ。
(2014/3/6)
【後報】

頁92 高田宏「酒と酒場 昔の著者と編集者」
 校了の近いころなど、夜おそくまで会社の机に向っていることがある。そういうときはよく、通りの向うの寿司屋に電話をかけて、酒の出前を頼んだ。つまみの刺身あたりをカムフラージュにして、お茶をよそおってアルマイトの薬缶に燗酒を入れて持ってくる。「いつもの熱いのをたのむ」

頁92 高田宏「酒と酒場 昔の著者と編集者」
 朝酒に酔って原稿を持ち歩いたことが、実は何度もある。小山勝清の原稿である。
 私は「少女」編集部で、長いあいだ小山さんの連載担当だった。小山さんは無類の飲んべえで、或るエッセーに断酒のことを書いているのだが、小山さんのいう「断酒」とは、日が暮れないうちは飲まないということだった。朝酒、昼酒の人だから、酒は夜だけにするというのは、小山さんにとっては断酒ということになる。しかしその「断酒」も長くはつづかなかったことが、エッセーからもうかがえる。

高田さんのエッセーでは、思いもかけず、
頁111で吉川幸次郎先生のエピソードを読むことが出来、幸甚でした。

頁137豊田譲「バグダッドの酒合戦」は昔懐かし、バース党政権下、
世俗主義で飲酒が出来た時代のイラクを活写しています。
サダム・フセインはこういうところまで欧米に阿諛していたのに、
ああなったわけです。なんとも。

頁146 坂口安吾「居酒屋の聖人」
百姓の酔態というものは僕の想像を絶していた。僕自身もそうであるが、東京のオデンヤの酔っ払いというものは、各々自分の職域に於て気焔をあげるものである。ところが、百姓達は、俺のうちの茄子は隣の茄子より立派だとか、俺は日本一のジャガ芋作りだとか、こういう自慢話はしないのである。自分の職域に関する気焔は一切あげない。そうして、酔っ払うと、まず腕をまくりあげ、近衛をよんでこい、とか、総理大臣は何をしとる、とか、俺を総理大臣にしてみろとか、大概言うことが極っている。

これは、徴兵とラジオでしか世間を知らないせいじゃないかと思います。
現在は違う。

頁151田村隆一「酒蔵の中で」は、この人が本土決戦前、
琵琶湖比叡山桜花ロケット基地にした時の話。
桜花って、琵琶湖配備だったんですね。

橋本治の文章はいろいろスリカエがあって好ましくないですが、
そういうことが鼻につくのも、飲まないからかもしれません。
人間がこまかくなる。以上
(2014/3/6)