『靖国』 (新潮文庫)読了

靖国 (新潮文庫)

靖国 (新潮文庫)

ボーツー先生を読もう!シリーズ

雑学としての靖国、という視点、ワンナンドオンリーな本でしたが、
やっぱり『靖国史観』の分かりやすい説明にはかなわない、と。
勿論両者の土俵は異なるわけですが、それでも、そう思いました。
招魂社時代からの、庶民にとっての靖国の立ち位置の変遷、を文学作品などから、
追っているのですが、だから、「九段」というタイトルでもいいような気もして、
でも、九段という地名も変遷があった*1ので、こうするしかなかったのかな、と。
作者のあの事件の前の1999年に単行本上梓みたいですが、それ以上は。
あと何か思いついたら、後報で補足します。ではでは
【後報】
頁41で、蛤御門の変の際の会津藩死者は「勤皇」なので招魂祭で祭られたが、
戊辰戦争での同藩死者は賊軍なので祭られず、とか、
頁121で、フランスの歴史家リュシアン・フェーヴルとマルク・ブロックが提唱し、
アナール学派によって受継がれた歴史解釈、「心性史」を持ち出して、
庶民の間での招魂社の受容変遷のありかたを説明しているところ、
なんかはメモしときます。

心性史 Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E6%80%A7%E5%8F%B2
http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_mentalities

この路線で終わらず、お宝本を紹介したくなったり、
大村益次郎像や大鳥居、明治にはランドマークだったがもうとっくにない高燈籠から、
話が武道館や九段会館などの周辺、「場」としての九段に走ったりして、
それが作者の味なのですが、前半のベクトルを保ってもよかったかな、
と思いました。

私は靖国史観は新書で読んだので、こっちは未読です。
いまアマゾンのレビュー読みましたが、相変わらず敵が多いな、と。
漢学、それも日本の漢学から読み解く視座なんだから、
記紀とか持ち出す一言居士レビュアーとか違うやん、的外れやん、と。
(2015/5/29)

*1:町名としては昭和8年から41年までとか http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E6%AE%B5