- 作者: 柴田翔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 文庫
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ハルキ訳ライ麦の個所で、大久保清の車載ツールとして、
ライ麦とともに紹介されてた本。ほかのツールは、ヘンリー・ミラーの、
トロピックなんとか、南回帰線。と、あと日本のなにか。忘れました。
この本は当時のベストセラーだそうですが、知りませんでしたので借りました。
解説は大石静。モテ左翼小説とでもいえばいいのか、
五十年代の党中央の方針転換がどうこうとありますが、
コサミョンが交番襲撃とかしてたアレのことでしたら、
何も描かれていないし、火炎びんも出て来ない。
マレーシアの華人なんかも山に逃げていろいろやってましたし、
世界的な武力革命への指示がモスコーとかピーキンとかから、
あったと勝手に思ってますが、当時なまなましすぎて書けなかったのかと。
なんにも書いてない。
宮城前広場の衝突場面も、その十年前の世代は兵役で実戦経験あるのに、
僅か十年でこんなにナイーヴになるとは信じ難い、と思いました。
私は日本では街頭デモと機動隊包囲作戦に巻き込まれたことはなく、
韓国でなぜか封鎖の中に紛れ込んでしまい、危なかった思い出があります。
ほんとに蟻の子一匹逃がさない、水も漏らさぬ封鎖でしたので、
日本て普通に道歩いてて、隣で許可デモとかあっても、
こうなることってないなあ、と思いました。
高行健もモテ左翼小説ですが、これもそうですね。
でも、ほんとうにモテなら、優子って女性には、行かないんじゃないかと。
今だと結婚願望の強いあるタイプの女性と共通してる気がします。
こういう女性に行って、逃走完了ってのが、作者のスペックと思いました。
あと、親戚同士の縁組って、やはりあまりよくないんじゃないかと思いました。
東大出だから確保したい気持ちはあったのでしょうけれど。
うつと睡眠薬の関係、その精神状態での手紙は迫真の出来だと思います。
ほんとにそういう手紙がモデルであるのかもと思ってしまいました。
あまりそういうところばかり印象に残るのもどうかと思いますが。
党中央といっても無論自民党や公明党の中央ではないわけですが、
繰り返しになりますが、
高史明の体験(奥さんの本に出てくる)とこの小説では、
この小説がマスクしてすぎていて、あと、作者の名前は、
昭和十年生まれで「翔」なので、日本最古の人名「翔」、
ではないかと思いました。
あと、この小説はよくコタツが出てきますが、「炬燵を入れておいてくれた」
などの表現から、電気こたつでなく、練炭とかの炬燵と分かります。
六十年アンポの時代だから、どう考えても練炭だろうなと。
で、21世紀の読者には分かりづらいだろうので、
この再版本では、炭のこたつだよ、と、注釈つけるべきだったと思います。
私は松谷みよ子の自伝『じょうちゃん』*2で、単行本化のさい、
頁216に入るべきエピソードで、収録されなかった箇所を何故か想起しました。
週刊朝日 2007.2.16 頁88
まゆみちゃんは火おこしに炭を山盛りに入れガスコンロで真赤におこし、掘炬燵の灰の上にぽんと置く。そこへ三ちゃんとまゆみちゃんはでんと陣どって、紙芝居をひろげ、絵を描く。もうそこには、ほかの人は炬燵に入る余裕はなく、瀬川と私は真冬、火の気のない部屋で暮らすことになる。
まゆみちゃんのおこした炭は、当然のことながらすぐ灰になる。すると彼女はまた火おこしに山のように炭をもりあげ、ガスコンロで真赤におこす。そのまま、灰の上にどんと置く。
「まゆみちゃん、炭はねえ、まず灰をすこし掘って豆炭を入れてね、その上におこした炭をのせて、灰をまわりからかけてやると、一日中、炬燵はほこほこあたたかいのよ」
私ならそうするし、まゆみちゃんにも教えたい。しかし、それができない。まゆみちゃんはプロレタリアなのである。プロレタリアの行動に、プチブルである私が意見がましいことをいってはいけないのだ。
三ちゃんは白土三平で、まゆみちゃんはその奥さんです。下記の作詞。
文庫では復活してるといいんですけど。以上
*1:読書感想 http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20150628/1435498162
*2: