『永遠のケツ』 (ビームコミックス)読了

ふと検索してみたら、出ていたので買った本。
アマゾンの連想オヌヌメは、ここでも機能しなかった。

作者は、3.11の後、反原発に舵を切ったマンガを描きました。
独身男性会社員の主人公がモバイル端末などでデモや運動のたかまりに共振しつつ、
何も変わらない日常、政治に勝手に焦燥を深め愚痴を繰り返し、
「や〜めた」と連載も終了してしまうマンガ。
二冊目と三冊目は感想をここに書きました。

原発幻魔大戦 首相官邸前デモ編』 (ビームコミックス)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20130423/1366718094
原発幻魔大戦 日本発狂編』 (ビームコミックス)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20130930/1380520402

その後、モーニングで読み切りを描いたりして、
それは私も感想を書き*1、短編集にまとめられて出版され*2
けど、講談社からはその後継続してのお座敷はかからず、
コミックビームでこのマンガを連載し、それも3月号で終了した、
ということみたいです。面白くなったところで打ち切ってる。

誰がモデルか分からないのですが、「〜ざんす」が口癖の、
女が趣味で女に走ってる(毎晩の夢の中で)独身男性、
立ち食いそば屋チェーン店店長、三軒茶屋のマンション?在住、
ベッドに寝ていて、毎晩の晩酌のビール缶のあと、夢を見る、キャラが主人公です。
頁105で45歳とありますが、外見や女性への執着ぶりから、
五歳か十歳上に設定しないとしらけると思いました。
45歳というと、まいにちをたんたんとすごして女に走るだけではあきたらず、
本社勤務とかマネージャーとか、仕事上の出世への野心も枯れてない歳だろうので。
(最奥の自分を知って無理をしなくなったとかには見えないので)

タイトルに関しては相変わらずのいましろ節で、頁51で、永遠のゼロをツタヤで借りて、
感動して、その晩戦争中が舞台のエッチな夢を見る話があります。
(ただしエッチするのは職場の若者、主人公はカメラマン)

語られない過去(アドレス帳などの女性をすべて塗りつぶしている)や、
これ、現実にもあったんじゃないかと思う場面、頁72、どうせ夢だからと、
個展を開く女性に暴言を吐いて泣かせて、逃げ出してしまい、
俺は悪くない俺は悪くないと後悔に駆られる話、などが淡々と続き、
そのあいまあいまに、前作で「や〜めた」したはずの、
日本の政治を危惧警鐘鳴らす人々のデモやら報道やらが書割として出ます。
職場の若者は下北の居酒屋でマスターと日本はダメ、ヤバい談義が趣味で、
店長にネットの、変死とかあった不動産物件等を検索出来るサイトを教えてもらい、
こわいこわいと思いながら岡山の実家から送られた桃を食べます。

部下が左翼なのだから、店長には、韓国が在日韓国人へのパスポート配給中止決定、
を信じて吹聴した、的なキャラの属性をつけてあげてもよかった気がします。
どこの職場にも、そういう人は必ずいるので…

そのままだと、別にハダカも、釣れんボーイの頃と変わらぬむっちり体型一本槍だし、
奥さんがモデルなのかなあ、やっぱ枯れるのこわいのかなあ、くらいの感想でしたが、
定期三百万円、普通二百万円の蓄えが明かされ、株に関心を持ち始め、
次にファイナンシャルプランナーの弟が三千万円の借金を抱え、
実家もその補填でカラッケツになり、彼自身もその蓄えから、
まず百万、次に五万円貸してと言われ、五万円もないのかと驚き、
しかし八万円貸し、名古屋の弟のマンションを訪ねると、
上の女の子は京大に合格したところで、下の男の子は中学生で、
(証券会社関連で働く弟の子供のこの年齢設定からも、主人公の45歳には違和感)
弟のヨメも五百万出したマンションもおそかれはやかれ借金のカタで消える運命で、
弟は老いた母の住む徳島へ単身帰るつもりだという…

と、面白くなってきたところで、連載終了って、そりゃないよ、と思いました。
天下国家を論じる若者の上司が、孤独な単身中年で、貯金が五百万円で、
それがじわじわ切り崩されるさま、手取りいくらか知らないが収入増なるのか、など、
主人公を窮地に追い込んで活路を拓く展開を得意とする、
強靭な精神力のマンガ家だけが味わえる愉悦の世界へ、作者が突入しないのか、
それは、実に残念、と、思いました。いや、実に残念。以上