『千年の祈り』 (新潮クレスト・ブックス)読了

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

A Thousand Years of Good Prayers: Stories

A Thousand Years of Good Prayers: Stories


思ったより全然よかったです。
頁200にでてくる歌

英語で中国の故事成語を縦横に取り混ぜて書かれると、
さぞ訳者は大変だったろうと思います。
表題作中の熟語“修百世可同舟”を検索したのですが、
百度のQ&Aくらいしかヒットせず、しかも「宗教」のカテでした。

百度知道 2015-05-27 18:06
修百世方可同舟,修千世方能共枕眠,是什么意思
http://zhidao.baidu.com/question/1819558117132239388.html

訳者があとがきでいろいろ記載してくれていて、その努力に頭が下がりました。

「陽」という人物の容貌が月の色で表現されているのは簡体字“阳”から、
「陰」の簡体字“阴”を念頭に置いての作為。

女子生徒が校庭に花を埋める習慣というかまじないは紅楼夢の「黛玉葬花」から。

黛玉葬花(文学名著《红楼梦》经典片段)_百度百科
http://baike.baidu.com/subview/192277/11310160.htm

頁251 訳者あとがき
このように中国の文化的背景を想起させる記述は、読む人が読めば数多く発見できるにちがいないのであり、訳者にはおよそ何も見えていないに等しいだろうと思う。
(中略)
 著者と訳者によって二度の翻訳をへるため、もとの中国語から距離が離れてしまうものの、やはり著者の英訳をそのまま生かすことにした。

「夜明け前の露のごとき夫婦関係」
"a dew marriage before the sunshine"
中文“露水因縁”

「いちばん美しい女がいつもいちばん悲しい運命をたどる」
"The most beautiful woman always has the saddest fate."
中文“紅顔薄命”
(美人薄命を使わない所に、読者も試されてると思いました)

「鳥は一口の餌のために死に、人は一銭の富のために死ぬ」
"A bird is willing to die for a morsel of food. A man is willing to die for a penny of wealth."
中文“人為財死 鳥為食亡”

「一夜床をともにした夫婦は百日愛し合う」
"One night of being husband and wife in bed makes them in love for a hundred days."
“一日夫妻百日恩”

ケン・リュウ*1、ソローキン*2、よういつ*3、いろいろ中文の越境はありますが、
訳者のたんねんな仕事ぶりに好感が持て、また勉強しきりでした。

お話はすべて中国のもので、時折、渡米という転機が彼らに訪れます。
しばしば、同性愛者の中年男性移民が主人公になっていて、
ただそれを、人権云々で読み込むのは読者の勝手でしかなく、たぶん、
よしながふみの「きのう何食べた?」とか、萩尾望都残酷な神が支配する
みたく、女性作家は往々にしてBL創作を好む、ということだと思います。
北京のハッテン場が出てきて、京劇子役崩れの娼夫とか、いかにも。
以上