『傷口にはウオッカ』読了

傷口にはウォッカ

傷口にはウォッカ

傷口にはウオッカ (講談社文庫)

傷口にはウオッカ (講談社文庫)

読んだのは単行本。東急文化村に便器展を見に行った*1折、
ドゥマゴ文学賞受賞作品本を並べた小棚のディスプレイがあり、
背表紙のタイトルを読んでいるうちに、何か一冊読もうかと思って借りた本です。

公式 Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作品
http://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/
この小説への、富岡多惠子による選評
http://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/15.html

この人の本は既に二冊読んでいるので、同じテイストの酒小説かと思って読んだら、
違いました。ドゥマゴだから、酒ではなく、性についての色が強かった。

<以前読んだ大道珠貴本の読書感想>
『東京居酒屋探訪』
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20130902/1378125381
『泥酔懺悔』(アンソロジー
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140228/1393597985

本書は性についての小説なので、兄弟に対するそうした感情とか、
(通常はいつか消えるが、精神的に成長しなければ未消化のまま残って厄介)
性に未分化な年代の甥っ子の匂いを嗅いでみたり舌で首すじ舐めてみたりとか、
結婚も正業もない(小説とアルバイトの清掃業と親の仕送りはまた別の話)が、
途切れることなく性交渉の相手はいる、その歴史と振り返りとか(棚卸ではない)、
アナルセックスをねだられては拒絶する繰り返しを、女性側から淡々と描くとか、
(こういうふうに観察されていると、穴があったら入りたい位恥ずかしいでしょう)
今の男は英会話教材のトップセールスマンなのだが、読んでて全然ぴんとこない、
とか、その男と、かつての筑豊スケ番仲間とでもいいましょうか、女性と、
その娘との、共同生活に話が展開していくと、やっと読めるようになるのですが、
そこで終わってしまう話です。

頁37
 プレハブ小屋に帰ってから、近所の銭湯へ行き、ゆったりくつろいだ。
(中略)
 屋台の焼き鳥を三本買い、歩きながら食べて帰ってくると、庭に弟がいる。
(中略)
 わたしは隣に座る。ヨットパーカのフードに入れておいたウオッカを出し、飲む。フードには、ガムのつつみ紙などのゴミや、ティッシュも入っている。なにかと重宝しているのだ。
「汗だくじゃない。なんで長袖なんか着てるんだ」
 と弟。
「なんでってこともないけど、なんとなく。フードがお気に入りだからかな」
「夏真っ盛りだぜ」

ウオッカがタイトルだから、どんどんこんな話かと思ったのですが。

頁39
「ぷんぷんする。朝から飲んでるの」
「え、匂うかな。今、銭湯で抜いてきたのに」
「ひどいよ。酔っぱらいは怖いって、小さいころ、言ってなかった?」
「うん、工事現場のひととか、酒屋で立ち飲みしてて、からかわれて怖かったね」
「まさにあの匂いだよ」

銭湯は泥酔お断りなので、そんなに酒入ってない状態なのではと推測します。

頁175
 冬になって、夜はもう厚手のカーディガンを羽織るだけでは寒い。ほこほこした毛糸の五本指の靴下を穿き、あっためたウイスキーを手にベランダに出て、夜空を眺める。うちのなかではウオッカだが、おもての空気に触れるときは、ウイスキーの湯気を感じながら、ほんわりした気分でいたい。
 朝も、酒からはじめている。甘酒だ。これはどうも失敗。甘くておいしいなんて、ひどい。酒は、苦くて一瞬、体がハッと拒否反応を示さなければ。そして喉からおなかに、すーっと、痛いくらいの熱い刺激が走らなければ、酒と言えない。
 今日は弟とデートなので、酒を飲んだあと胃のなかから匂いを消すという錠剤を飲んでから、出かけた。

お酒のおかしな飲み方の個所はここくらいでしょうか。下記は甥っ子。

頁180
「旭がね」
 弟が言う。
「ねえさんに、なんか、あげたいんだって。なにがいいか訊いてきてくれって。ねえさん、貧乏そうに見えるらしいよ」
「それよりあの子、カタカナのシとツをいっしょにして覚えとるから、直してやったほうがいいよ」
「春くらいに、また実家で会おうか」
「ああ、春休みね。旭君に、チッチとサリーのカレンダーがいいって言っておいて」
「わかった。好きだよね、ねえさん、あの漫画」
「うん、全巻そろえてる」

主人公は十三歳からチャーリーのC、の性体験を始めているのですが、
(相手は同級生。なので少しほっとします)中学のとき、
同級生のそういうオトナの子は、施設に行って学校に戻らなかったな、
とふと思い出しました。
この小説の主人公は裕福だそうなので、全然関係ないですが。以上