- 作者: ジェイムズ・リーバーク,大久保寛
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1990/10
- メディア: 文庫
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photo by A. Terashima
訳者あとがき有り。寄贈本でした。
The Neon Rain (Dave Robicheaux)
- 作者: James Lee Burke
- 出版社/メーカー: Orion (an Imprint of The Orion Publishing Group Ltd )
- 発売日: 2005/06/16
- メディア: ペーパーバック
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https://en.wikipedia.org/wiki/Dave_Robicheaux
キャロライン・ナップの本*1に、須賀田さんと並んで登場するので、借りてみた本です。小泉喜美子か、小泉喜美子の思い出を語る関川夏央の本で知ったシリーズと勘ちがいしてましたが、よく日記をたどると、アル中自叙伝で知った本でした。
自助グループは登場しますが、須賀田さんのと違って、具体的な描写はないです。守秘義務を守っているのか。主人公は断酒を継続してますが、無理矢理飲まされるという拷問の後飲酒欲求が止まらなくなり、終わったな、と周囲から判断されるのですが、契機等よく分からないのですが、要するにホントに連続入ると死ぬことは本人も承知してるので、再度断酒に成功します。読んでて、成功理由がよく分かりませんでしたが、意外と世の中そんなものかも。コーラと、あと、米国南部人はドクターペッパー、これら炭酸飲料を飲むことが如何に重要か、という…
ビールは必ず銘柄が記載してあって、やっぱラベルを読んでしまうんだろうなと思いました。以上
【後報】
これ、ニューオリンズとか、こないだデッドプール2でも出てきたビロクシとかのルイジアナ、南軍の思い出とともに生きる人々の話で、主人公はいわゆるフレンチアメリカン、ケイジャンです。フラ語で育つ。それでベトナムで現地人のフラ語がちょいちょい分かるというか… アメリカを代表する生きものは鷲でなくザリガニと信じてる。酒は飲みませんが、競馬のナイトレースには行きます。勝ってるそうです。小説だから。
頁10
「あんたに話すことが山ほどあるんだ。なあ、あんた、おれをアル中治療の会に二、三度連れてってくれたことがあるよな。なにかを告白したくなったときにあんたたちが進む段階だが、あれはなんといったっけ?」
「第五段階さ。自分自身と、神と、他人とに自分のあやまちを認めるんだ」
「そいつだ。おれはそいつをやったんだ。きのうの朝、黒人の牧師にな。おれがやってきた悪行を一つ残らず話したんだよ」
これは懺悔というか、告解の秘蹟とは違うので、でも最初混同して、そうするとプロテスタンティズムの国アメリカに於けるカソリックの潮流がこのような形で社会のある部分弱い部分に… みたいなループ思考をたくましくしておりましたが、じっさいにこういうところにいるアメリカ人を見ることによって、アホくさくなって肩の力を抜くことが出来ました。中国でよく見た、宣教師であることを隠しつつ中国で暮らす外国人たちのような、布教のためのしあわせムード、フリルのエプロンつけたおデブのマムが手焼きで焼くアメリカン・パイ、アメリカン・ドリームの演出と言ったものがまるでなく、ようするに国籍関係なくいつも焦燥感にかられて汗をかく、殺伐とした人たちだったからです(そうでない人もいます)
相手が教会関係者というのはありなので、それで混同するのかもしれません。しないかもしれない。
頁143、ことさらに進化論に関する記述を書いてみるのも、南部という設定を強調したいがためかと。ここでは、ベトナムでの戦争経験によって、人類の祖先のサルが今でも脳内に生きていることを主人公は自覚した、というモノローグがあります。その次の次のページは、女性と一夜を過ごすより、飲酒欲求と向き合うほうを選択した一夜の記述。十字架を繰って祈りながら眠れぬ夜を、しらじらと明けるまで過ごす場面。誰か信頼できる人に電話する、という選択肢はなかったのかな。どういう酒を飲んで自滅したくなったか(自滅したいから飲みたいとはっきり書いてます)の記述はなまなましいので、今日は暑いですし、写しません。
頁172、リステリン。ノンアルコールのリステリンが現在はあるのを私も知っていますが、こう書かれても。消毒用アルコールと同じで、プラシーボではないかと。ヘアトニックはNGですが。
頁175
「ぼくが今本当に欲しいものがなにかわかりますか、シスター? それを手に入れるためなら、なんでも捧げてもいいものです」
「なに?」
言葉がなかなか出てこなかった。私はまぶしく陽の射した部屋を見まわしてから、窓の外に目を移し、微風にそよぐ樫の緑の葉を見た。
「大きなコップに注いだコカ・コーラをもらえますか? 氷をたくさん入れて、できればチェリー・ジュースとライムも入れたやつを?」
「いいですよ」
「感謝します、シスター」
「ほかに欲しいものは?」
「ありません。コカ・コーラだけです。必要なのはそれだけです」
この前段で、職場の同僚に、犯罪組織に拉致されて飲まされた酒を、再飲酒で飲んだのだ、また飲むだろうと決めつけられ、今度連絡してくるときはアル中治療の会に行く交通費をせびってくれよとせせら笑われます。須賀田さんの本には、飲まないアル中が飲んでしでかしたと装うために、ホームレスに酒精を注射する話が初期あったと思いますが、この小説のような経口摂取の描写は、正直読みたくなかった。
でものんじゃう(推理小説なのである程度飲んでも、明晰な洞察力は抜け落ちない。いい加減だなあ)
頁223
「ビール割りウイスキーがなんで圧延鋼板ボイラー・プレートといわれるか知ってるか、デイヴ?」アーチーがきいた。「頭のなかに鉄板のかけらを入れるからさ、割れた義歯みたいなやつをな」
「ろくなものじゃないようだ」
「そしてある日、そいつは脳ミソをガリガリと嚙み砕く」
「ジム・ビームをもう一杯もらえるか?」
「おれの儲けにならんようなことはいいたくないんだが、おれはあんたが玄関ポーチに坐って、肝臓が腐っていく音を聞いてる姿を見たくないのさ」
「好きで飲んでるわけじゃないといったら、機嫌を直すか?」
「今夜はほどほどにしとけよ。みじめな思いなんて、いつでも好きな日にできるんだから」
私はアーチーの顔から目をそらした。彼は友達だし、正直な男だ。私には反論の余地がなかった。私が自分の立場を守るために旧友でさえ侮辱できる人間だとわかった。
「もう一つ問題がある。あんたのスリップが見えてるんだよ」
「えっ?」(後略)
このスリップはガンベルトの意味です。こんなの断酒再飲酒社会でかつ銃社会でないと分からないジョークだ。このページに出てくる「ボーデン」というケイジャン料理が分からず、検索しました。ブーダン。
https://en.wikipedia.org/wiki/Boudin
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%B3&redirect=no
頁238
(略)ひどい朝だった。私はほかの四人の酔っぱらいと、麻薬密売人と、露出狂の男と、六十五ドルのためにガソリン・スタンドの店員を殺した黒人の若者と一緒に鎖につながれ、法廷に行った。フラワーズ判事はアル中自主治療協会で“純血の拳骨主義者”と呼ばれている人間である。彼はかつて独力で酒を断ったのだが、激しい精神的苦痛を他人の人生に――とりわけ、彼の前に立ってアルコールを顔に吹きかける連中の人生に――ぶつけることによってのみ、禁酒を守っていられるのだ。彼は私の銃の不法所持に対する保釈金を一万ドルに決めた。
次の巻のあらすじ読むと、さらなる不遇が彼を襲うようなのですが、エクストラワイフはマオトコとテキサスかどっかに逃げて、今作で福祉施設で働くびじんソーシャルワーカーとくっつくという展開なので、吉岡理穂のドラマは昨夜見ませんでしたが、まあええかげんにせいよというか… でもそれでさらなる悲惨に襲われてもおえんでしょうし。以上
(2018/7/18)