『もうひとつの生活』マラマッド 読了

国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001271094-00
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%82%E3%81%86%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%AE%E7%94%9F%E6%B4%BB-1970%E5%B9%B4-%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%89/dp/B000J94UVW/ref=pd_rhf_dp_p_img_1?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=FMXF4D9VXACJ5CQEGGBZ
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/519tmZVs6yL._SX342_BO1,204,203,200_.jpgDessin par Pablo Picasso,
S.P.A.D.E.M., Paris.
デザイン 上口睦人
宮本陽吉訳

読んだのは三刷。
初版は作者名が
イディッシュ風の
マラムードと
なってるそうで、
その後訳者が
作者に問い合わせて、
アメリカ風に
発音してほしいと
要望され、
それでマラマッドと
印刷された版です。

新潮社編集は
片岡久。
翻訳協力は
神大のドナルド・クーン氏。
(と、訳者あとがきに書いてありますが、どこの誰だか分かりません)
米国の著名なユダヤ人作家マラマッドの小説を、もう少し読もうと、
借りた本ですが、けっこう時間がかかりました。上下段組三百余頁。
『ドゥービン氏の冬』のほうが読みやすかったのかも。

時間がかかったのは、要するに田山花袋田舎教師と同じベクトルだろう、
と思ったら冷めてしまったからで、後半人妻と不倫してからは、
教え子に手を出したくて出せない田山花袋田舎教師とは異なる方向に歩みますが、
そこまではだいたいなんか田園の憂鬱というか、世に出れない寂しさ、
孤独、そういう感じでものがなしく進みますので、田舎教師読めば、
それでいいです。別にマラマッド読まなくてもいいと思う。

田舎教師 (新潮文庫)

田舎教師 (新潮文庫)

田舎教師は羽生とか加須だから舞台に行けばゼリーフライ食べられるし、
ニューヨークから西海岸に行ったはずなのに、ロッキー山脈とかで、
けっこう寒そうな描写が続くマラマッドよりいいと思います。
いいちこの小説はぜんぜんユダヤ人ではない。そもマラマッドは、
ユダヤ気質というかコレクトなユダヤ教の知識を喪失しかけてる、
貧困層ユダヤ人を描かせると上手いので、この小説でも、父親が盗癖で、
その記憶からかつてアルコールに耽溺した自分が転地療法で、
西海岸に行くわけなので、あんまりユダヤ特有のものはないです。
不倫相手がプロテスタントなのかカソリックなのかも書いてない。

頁43
(前略)「確か酒はおやりになりませんでしたね、レヴィンさん?」
 レヴィンは、汗をかきながら、だしぬけに大きな声でいった。「ええ、飲みません」その質問には充分心の準備をととのえていたのだが、もう少しで椅子から立上ってしまいそうになるのを、意志の力でやっと押さえつけた。一瞬顔が青ざめて、黒い顎鬚が大理石から噴きあげる噴水のように見えたのではないかと気になった。
「それを聞いて安心しましたよ。この地方――盆地のこの辺りは、東部から来た牧師を中心に開拓されたところです。牧師のすぐ後から金鉱目当ての一八四九年の移民が来て、たちまちのうちに禁酒社会を作りあげた土地です。禁酒同盟の会合には、私は家内と出席することにしています」

(中略)
「親父は酒が強かったな」
 レヴィンは、ハンカチで額を軽くたたいた。
「髭と酒が比例するというつもりはなかった。ヘブライの僧正や予言者を連想させる髭ですよ。この国でいうと厳格なメノ派教徒というとこだな。私はただ、あの哀れな親父を偶然思い出した。かくしたところで仕方がありません――親父は一時期は手に負えない酒乱でした」
 レヴィンのハンカチは汗で湿っていた。

(中略)
あの頃親父は、お袋にもわけが分からないほどひどく飲んだ。
「お袋は、開拓者気質の勝った女で、数年間は耐えしのんだ。とうとう親父と別れる決心をつけてモスコウへ行ってしまった。モスコウというのは、アイダホ州のせまくるしい低地の名前なんですがね。
(以下略)

頁200
アルコールを克服していらい、あることを最後までやりとおすのに自信を持ったし、一度心にきめたことを最後までやりとおす勇気を持つようになった。昔と同じように、人間の運命は無限に向上しうるものと信じたが、そのために何から着手すればいいか見当がつかなかった。

頁223
 レヴィンは悲しんだ。彼は口を固く結んで、アルコールの誘惑に耐えた。ベッドの下に褐色の瓶をかくしていたが、ついにそれを飲んで眠るようになった。

耐えてないやん。
頁240で、謙虚でなければならぬ、と自問し、頁忘れましたが、
バーに入って、バーテンに注文を聞かれて、幸せをくれとか言って、
逃げ出したりします。最後のほうは壁か窓をパンチして怪我して、
右手包帯ぐるぐる巻きになる。

フライ、ゼリーフライ 行田市観光協会
http://www.gyoda-kankoukyoukai.jp/furai.html
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/3/37/Gyoda_Zeri_Fry.JPG/300px-Gyoda_Zeri_Fry.JPG
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4

頁91の、クルミ拾いの場面が面白かったです。ギンナン拾いのようだ。
頁102で、東部人はサンフランシスコをフリスコと呼ぶとあります。
頁202、『一国が過激で創造的な過去を捨て去るなら、災厄が生れる』――R・チェイス

訳者は、ナチュラルを天性の人、アシスタントを手伝いと訳す、
これまた天性の人ですので、本書のカタカナ等も面白かったです。
本書も原書タイトルがヌーライフなのに、もうひとつの生活と訳されてる。
ジアダワンライフ、アナダワンライフ、另外一个生活还一个生活。

頁37
各学期の最後の一週間は、覚醒剤を飲んで徹夜で点をつける。

頁132
手がちぢかんで

かじかんで。ちぢこまって。

頁170
距り

「り」だけひらがな。距離。

頁199
そして、インディアン学生、血がまじっているだけのやつでもいい、アメリカン・インディアンを馬鹿にしてると異議を唱えたとしたらどうだろう? 六月四日のお祭りのことは書かれてるにちがいないが、インディアンは飲んだくれだってことになっている。

ヘミングウェイの短編についての個所。六月四日のお祭りって何か、知りたいです。

頁204
シオドー・ローズベルト

頁275
グレイプフルート

頁287
ドアのノッブ

読み終えてよかったです。以上

A New Life (FSG Classics)

A New Life (FSG Classics)