- 作者: マイケルシェイボン,Michael Chabon,黒原敏行
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- 作者: Michael Chabon
- 出版社/メーカー: Harper Perennial
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上巻頁75
ランツマンはキッチンの入口まで行って、大きく息を吸いこまないようにしながら、エステル = マルケがワッフルを型から剥がすのを見ていた。使っているのはウェスティングハウス社製の型で、木の葉の形をしたベークライトの取っ手がついていて、一度に四つのワッフルが焼けた。
原発メーカがワッフル製造機まで作っていたのかと驚きましたが、
同名の別の会社みたいです。枝分かれ? のれん分け?
Yahoo!知恵袋 2008/11/2617:36:48
「満留賀」ってなんでしょうか?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1120961226
上巻頁240
「それは賛成。しゃべる鶏とか、マイモニデス(中世スペインのユダヤ人学者)の顔そっくりなクレプラハ(ワンタンに似たユダヤの食べ物)とかのくだらない奇跡の話も聞きたくない」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8F
食べてみたいです。以下後報
【後報】
下巻になって、やっと意味が分かりました。P・K・ディックの、
ヴァリスとか聖なるナントカみたいな、救世主、メシア現世降臨ものだったんですね。
現在のユダヤ人社会にメシアが現出して奇跡を起こしたら、どうなるか。
そのまま天国の門が開いて世界はほろびるのか。そういう話だったとは。
本書が歴史改変ものである点が、そのままそういうオマージュだったとは。
ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞トリプル受賞といわれても、
そこまでついていけないです。この本は、読みにくい。
下巻頁164
「あの連中は何者なんです。伯父さんは知ってるんでしょう?」
「あの連中は何者なのかって? あれはユダヤ人だ。陰謀をめぐらしているユダヤ人。くっつけたのは必要のない修飾語だがね。
会話がいちいちこんな感じで、とても読みにくいです。
陰謀を巡らしてないユダヤ人なんていないという社会通説が背景にあって、
それを皮肉っている台詞なのか〜、とか、一行一行、感心しながら読むことは出来ません。
頁254
郵便物はもう一通あった。スポーツジムからの、とびきり割安な終身メンバーにならないかという勧誘だった。(中略)葉書の左側には太ったユダヤ人、右には痩せたユダヤ人の写真が刷られていた。左側の男は睡眠不足。右側の男はよく陽灼けをしたひきしまった身体。(中略)未来のユダヤ人か、とランツマンは考えた。葉書は左側のユダヤ人と右側のユダヤ人は同一人物であるというにわかには信じがたい言明を行なっていた。
ユダヤジンユダヤジンと書いてありますが、原題はイディッシュ。
訳者あとがきを読むと、アシュケナジーのイディッシュ語は現代では廃れる一方らしく、
そんなこと全然知りませんでした。主人公の投宿するザメンホフ・ホテルは、
エスペラントから取ってるわけですが、ヘブライ語なんて、ラテン語みたく、
死語だったのを無理矢理復活させただけで、イスラエルでも、日常会話は、
イディッシュ語だと思ってました。でもそうなると、セファラディーは、
ナニ語を話してたんだろう? アラビア語? みたく、自分の無知が分かりました。
テレカ偽造が盛んだった頃、イランの人が多かったわけですが、
イスラエルの人もいて、もぬけの殻のアパートに、ヘブライ文字のメモや、
張り紙が残されていたものです。バブル崩壊後の安アパート。
このお話は、ヘブライ語より、イディッシュ語が勝った、「もしも」の世界です。
歴史改変ものなので、下記のような記述もあります。
下巻頁197
若い男たちは超大型テレビで衛星放送のニュース番組を見ていた。画面では満洲国の首相が五人の満州人宇宙飛行士と握手をしていた。
主人公はユダヤ人で、妹の名前はナオミです。分からなかったので検索しました。
Yahoo!知恵袋 2011/11/513:30:41
英語圏で、「ナオミ」や「エリカ」という名前は一般的なのでしょうか?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1474813004
ベストアンサーにえらばれた回答
Naomi はヘブライ語でpleasantの意味で、EricaはEricの女子版です。
この世界は、イスラエルが建国後まもなくアラブの同時侵攻で滅亡し、
アラスカにユダヤ自治州がある、という世界です。ソ連はあるのかないのか、
キューバ危機が危機でなく、戦争にまで発展した世界とのことです。
でも、主人公がホテルに住んでるのは、家賃統制みたいです。
合衆国じゃないユダヤ自治州という設定なのに、ハードボイルドは家賃統制。
下巻頁47
「ユダヤ警官同盟」とパイ屋の娘が言い、ベンチのランツマンの隣に腰かけた。エプロンをはずし、手を洗ってきたようだ。そばかすのある腕の肘から上には小麦粉がまぶされている。ブロンドの睫毛にもついていた。髪はうしろで束ねて黒いゴムで留めていた。青い潤んだ眼をした忘れがたい印象を残すほど不器量な女性で、年齢はランツマンと同じ。バターと煙草とパイ生地の匂いをさせているのが妙にエロチックだ。彼女はメンソール煙草に火をつけて、煙をランツマンのほうへ吹き流してきた。「そういう手で警官のふりをするのは初めて見た」
煙草を口にくわえ、手を出して、ランツマンから会員証を受けとった。読むのに難儀しているのは一生懸命隠した。「イディッシュ語は読めるのよ。アステカ語じゃあるまいし」
(中略)
「それは――あたしにもちょっと悪い癖があるってこと。男のことでね。だからあたしはあんまり男のそばへ近寄らないことにしてるのよ。ねえ、変な誤解しないでね。あたしあんたなんか全然好きじゃないんだから」
「わかってるよ」
「セラピーとか十二ステップ・プログラムとかもやってみたの。教会へ通ってみたり。でもほんとに効くのはパイ作りだけだった」
「だからあんなに美味いんだ」
「あんた調子いいね」
訳者によると、この小説は、歴史改変ハードボイルドジュンブンという、
ジャンル越境小説らしいです。なんだろうそれは、馳星周も書かない。
下巻頁110
医者はラウというマドラス出身のインド人で、アメリカ先住民とからめたジョークは聞き飽きていた。俳優のサル・ミネオ風の美男子で、黒曜石のような眼にケーキの上に載った薔薇の色をした唇の持ち主だ。軽い凍傷ですね、たいしたことはありませんよ。だが救出後一時間四十七分を経過しても、ランツマンは体内の活断層から来る揺れを抑えられなかった。骨の髄まで寒いのだ。
「首にブランデー入りの樽をつけたでかい犬はどこだ」
(中略)
「あなたはブランデーが好きなのですか」ラウ医師は語学の教科書を読むように言った。(中略)「ブランデーが必要なのですか」
(中略)
「では渇望はないのですね」医者は名札のAの文字についている灰のかけらをつまんで取り除いた。「今どうしてもお酒が飲みたいということはないと」
「ま、一杯くらいは欲しいかもしれない。その程度じゃだめかな」
「欲しいかもしれないと。いや、あなたが欲しいのはよだれを垂らす大きな犬でしたかね」
「もういいよ、先生。遊びはおしまいだ」
「いいでしょう」ラウ医師は肉づきのいい顔をランツマンに向けた。眼の虹彩が鋳鉄製に見えた。「私の診断では、あなたにはアルコール中毒の禁断症状が出ているようです。
(中略)
「先生。同じX線の眼を持つ人間として、あなたのするどい観察眼には敬意を表しますがね。どうだろう、もしインドという国が、あと二ヵ月で解散することになっていて、あなたもあなたの愛する人たちも狼がうろつく世界に放り出されて行き場もないとする。しかも過去数千年間、世界各地でインド人の大虐殺が行われてきたとして、酒浸りにならずにいられるものだろうか」
「酒浸りになるか、さもなければ初対面の医者にからむかでしょうね」
本当に読みにくい小説でした。読み切った。よかったよかった。
(2017/1/23)