『抱擁、あるいはライスには塩を 上/下』 (集英社文庫) 読了

これも、ボーツー先生と福田和也の文壇アウトロー時事放談から。
福田和也2010年ベストだとか。

2018-03-09
『不謹慎 酒気帯び時評50選』THE HOTTEST TABLE TALK SERIES:2010-2012 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180309/1520601711

初出誌「SPUR」200503〜200906
2010年集英社より単行本刊行。

カバーデザイン/成見紀子
写真/亀田亮
(撮影協力=銀座アンティークギャラリー)
解説 野崎歓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%B4%8E%E6%AD%93

作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E5%9C%8B%E9%A6%99%E7%B9%94

たぶん作者の本を読むのは初めてかと。
直木賞受賞作『号泣する準備はできていた』は、名前だけ知ってました。
きらきらひかる」は、郷田マモラの漫画の絵を、ちょっとだけ、
たぶん見たことがあって、私は郷田マモラの、白目以外黒く塗り潰して、
虹彩のない人物の目が苦手なので、それで先入観が、あります。
いま検索したら、この漫画家の人、現在その後人生やり直し中なんですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%B7%E7%94%B0%E3%83%9E%E3%83%A2%E3%83%A9#%E7%95%A5%E6%AD%B4

それはこの小説とはまったく関係ない話ですが。以下後報。
【後報】
あらすじなどを見ると最初からその屋敷の住所が神谷町と分かるのですが、
本編ではかなり読み進むまでそれは出ないので、なんとなく、
赤羽橋とか芝公園のほうのイメージで読んでいました。
神谷町というと、アエロフロートの事務所に行ったことと、
原発関連の半官半民の会社があった記憶があります。
ソ連大使館は狸穴という認識で、神谷町と思ってなかったです。

上巻頁88
これはフルクトーブィといって、ロシアの家庭のデザートです」
 フルーツポンチに見えるものを指さして、口髭が言った。

検索したら、"Фруктовый"はまんま、「フルーツ」でした。

Фруктовый Википедия
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%A4%D1%80%D1%83%D0%BA%D1%82%D0%BE%D0%B2%D1%8B%D0%B9

上巻頁150
カーシャというのはロシア風のピラフで、母と百合叔母の好物。

カーシャ Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3
ピラフというより、雑穀のポリッジ、おかゆのような感じで、
こうやっていろいろ検索出来てしまう時代というのも、なんだと思いました。

上巻頁152
 中国の部屋というのは我家の客間の一つで、かつては麻雀とかトランプとかの、遊びのための部屋だったらしい。いまはほとんど使われていない。小さいけれど日あたりがよく、裏庭に向かって半分せりだしたような形をしている。色褪せた壁紙の、蝶々とか唐子とかの柄がかわいくて、私はなんだか気に入っている。

子どもたちは皆素読の教養を身に着けている、というくだりがあり、
それで中国の部屋というのが、よかったです。キタイスカヤ・コームナタ。
子どもたちは皆大学まで学校に行かず、家庭教師をつけて育ち、
東大かお茶の水に進むのだそうですが、まーむかしの話だし、
一億総中流化で受験競争の時代になると、あっという間に、
旧制ガッコのエスタブリッシュメントから、
良家の子女が集まる私立大にシフトします。(大学から入学)
でも、小田急沿線で、そういう小学校からの一貫校というと、
成城学園なのか玉川学園なのか、あとほかにもあって、
私が知らないだけなのか、分かりませんでした。
神谷町から通うなら学習院でFAだと思うのですが、なんで小田急まで来るかな。
そも神谷町の家も、江戸時代は旗本屋敷だったそうなので、
彼らが没落のあとに移り住んださっちょーなのか、守り通した御家人なのか、
それによって見方が変わると思いました。

神谷町 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E8%B0%B7%E7%94%BA

慶長19年(1614年)、徳川家康に仕えた十三州御手廻御中間が当地に組屋敷を拝領し、西久保田町と称した。

上巻頁201
パンナムのパンって何の略かしら」

「汎」だと思ってました。

パンアメリカン航空 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%B3%E8%88%AA%E7%A9%BA
pan weblio
https://ejje.weblio.jp/content/pan
ナベじゃないだろうと、やはり思います。

[連結形] 「全 (all)…」「総 (universal)…」の意.

http://www.pam-bus.co.jp/im/logo4r.gif
http://www.pam-bus.co.jp/
http://www.pam-bus.co.jp/im/10logo.png
ちなみに、プリンシプル自動車、プリンシプルオートモーターズの略は、
車体を見るとパムです。PAM。この会社が町田にあって、町田の鶴川と言えば、
白洲次郎白洲正子の白洲邸で、白洲次郎の口ぐせがプリンシパルですから、
何かご縁があるのか、あやかってるのか、と時おり想像します。

下巻頁20、一九八九年晩秋の時点で、「キッチュ」という言葉が出て、
すこし早いんじゃ、と思いましたが、どうでしょう。

時代もバラバラ、語り手もバラバラのクロニクル連作なのですが、
「一九七六年 春」の、お鮨屋さんの出張サービスの話がよかったです。

下巻頁132
「卯月ちゃんて、洒落た名前ですねえ」
 俺は、話題を穏当と思われる方向に誘導した。
「さすがはインテリの柳島さんで、あたしらには考えもつかない名前だって、女房と話したんですよ」
 麻美ちゃんは嬉しそうに目を細め、声を立てずに笑い顔をつくった。
「十一月生まれなのに卯月って変でしょう? 私がつけたの。四月は私たちの出会った月だし、春は生命の輝く季節だから」

生まれ乍らにそんな母の想いを負わされた子も大変ですが、
婿とその妻それぞれが別の相手と作った子どもが、夫婦の子と仲良く並列、
を現場でいきなり咀嚼しながら対応する鮨職人えらいと思いました。

下巻頁142、「オルカ」にシャーロット・ランプリングが出てるとは、
知りませんでした。登場人物の語り口では、ジョーズよりいいとか。

下巻頁167、片方三キロのダンベルって、男子大学生がカラダ鍛えるには、
軽すぎないかと思いましたが、私の認識がとんでるのかもしれません。
女子高生でもご㌔の鉄アレイもってませんでしたっけ。

この小説の各人物の経歴で、あれっ、と思ってるのが、
長女の望。天安門事件直後の北京に留学、そのまま鍼灸四年制大学卒業、
というところまでは分かるのですが、でも描写がなく、説明のラレツだけなので、
ワイフイの闇レート高騰とか、日本人以外西側の人間がみんな逃げたままで、
だから日本人わりとチヤホヤされてた状況とか(韓国と中国の国交成立はこの後)
でも多額のODAが日本から中国に行ってることは中国人民にはマスクされたままで、
やがて江沢民時代を迎える、という時代の趨勢が、ぜんぜん描かれないので、
ほかの部分はリアリティーをあえて排除してもいいけど、ここはなーと思いました。
その後望は香港の鍼灸関係で働き始めるのですが、それが香港返還とカブる時期で、
北京語を取得した彼女(カントニーズ話せないと思う)に、
香港人たちがどういう反応したかという。
先ごろリマスターでもやった、フルーツ・チャンの香港製造とか見た人なら、
あの当時の香港人のヒステリーに近い感情は分かると思うのですが、
そういう渦中に飛び込んだ人間のナマのせりふとか、全然ないので、
結構肩透かしでした。書かないならそんな設定にしなければよかったのに。
で、イギリス人と結婚して、イギリスへ移住。これは分かります。
下巻頁193に、彼女が鍼灸師の資格も持ってるという説明がありますが、
日中はツボの位置も違うし、ハリの長さなども違うので、
彼女の中国で取得した資格は、日本ではちょっと公的には、と思いました。

下巻頁227
 デレクは、私の職場の友人が心配して電話をくれたことも教えてくれた。今夜彼が一人でわびしく食べたもの――「ガウゲインガウナム」という小さな店の、牛腩麺とちまき――のことも。

この店、食べログにも出てくる、行列覚悟の人気店だそうです。食べてみたい。

九記牛腩 (Kau Kee Restaurant) 食べログ香港
https://tabelog.com/hongkong/A5210/A521001/52000353/

二人が住んでるのは赤柱、スタンレーなので、上環もセントラルと、
呼んでいいのか知りませんが、そっちまで近いからいいのかと。
あと、住む設定としては島ですかね。シンセンにほど近い、
新界のド田舎?で働くという設定だったらどうだったろう。
そういうのも読んでみたいと思いました。

私はこの小説、タイトルを見て、ロシアでは結婚式で、
甘い二人を祝福するのに、ワザと「苦いぞ、苦いぞ(ゴールカ、ゴールカ」
と言うと聞いてたので、それでそういうタイトルなのかと思ってましたが、
あんまりそういうふうではないかったです。少なくともそうは書いてない。
行間読んでもそう読み取れる感じでもないし… 以上です。
(2018/4/7)