『ディカーニカ近郷夜話 前篇』『ディカーニカ近郷夜話 後篇』(岩波文庫)読了

ディカーニカ近郷夜話 前篇 (岩波文庫 赤 605-7)

ディカーニカ近郷夜話 前篇 (岩波文庫 赤 605-7)

ディカーニカ近郷夜話 後篇 (岩波文庫 赤 605-8)

ディカーニカ近郷夜話 後篇 (岩波文庫 赤 605-8)

四方田犬彦『台湾の悦び』*1で、宋澤莱という人の小説を、
ゴーゴリのこの小説に凝していたので、
それで読んだ本。宋澤莱のほうは、邦訳は下記に、
「笙仔と貴仔の物語−打牛南村」という短編が収められてるだけですかね。
終戦の賠償 (研文選書 21 台湾現代小説選 2)

終戦の賠償 (研文選書 21 台湾現代小説選 2)

http://www.kenbunshuppan.com/%E5%8F%B0%E6%B9%BE/
若松正丈訳ということで、第一人者がわざわざ訳してるのかーと思ってみたり。
読むかもしれませんが、県立図書館経由になると思います。

ゴーゴリについては、私は、チェーホフと区別がつかないくらいの人間です。
あとロシアには、ソルジェニーツィンプーシキンと、
戦争と平和アンナ・カレーニナトルストイ(イワンのばか)、
カラマーゾフの兄弟罪と罰ドストエフスキー(賭博者)、
誰が書いたか忘れたドクトル・ジバコ(怪盗?)ですかね。
あと、はつ戀(ツルゲーネフ

岩波文庫は1937年の初版をだいじにだいじに、折を見て復刊。
私が読んだ1994年が第八刷。訳者による解題を読むと、
酷評されてたぽっと出時代のゴーゴリが、郷里の母などに、
遠野物語的なエピソードをなるたけ詳しく手紙に書いてよ、
と頼みまくって、それでものした短編集、とのことです。
「夜話」ってなんだよ、とはしがきでゴーゴリは書いてるのですが、
中国文学には『燕山夜話』という、なんかもうすべてが懐かしい的な、
戦後作品があるので、さして「夜話」を奇異には思いませんでした。

燕山夜話 (1966年)

燕山夜話 (1966年)

まー燕山夜話のほうが、ゴーゴリのこれを念頭に置いて、
訳したんだろうと思いますけれど。どっちかというと、私は、
「近郷」ってなんだよ、と思いました。一発変換出来るけれども、
耳慣れない単語でしたので。愛郷精神、と言うと、『砂の女


で、左が前篇頁103、密会、右が後篇頁97、女帝エカテリーナ二世がコサックに謁見する場面、
のイラストですが、これにまず驚いた。
辮髪じゃないですか。ロシア人なのに。で、ロシア人&辮髪で検索すると、
一発で回答が出た。すごいですね、人類第四の発明、「検索」は。

オセレーデツィ Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%84%E3%82%A3

本書訳語では、「哥薩克」とされてますが、カザフ人でなく、コサック。
日本は戦前も横書きは左から右で、右から左に読むように見える文は、
実は一行一文字のタテ書き文だ、と以前学びましたが、それも実感しました。

あとはもう上のコサックみたいな、フーンと思った単語をメモるだけです。
四方田が台湾ブンガクでゴーゴリのこの農村ブンガクを引き合いに出したのは、
中国ブンガクというとバカの一つ覚えみたいに「魔術的リアリズム」ばっかなので、
それで、それ以前の、規範とかくびきのある時代のを挙げたかった、
のではないかと思いました。以下後報
【後報】
<上巻>
頁23 馬鹿握 ドゥーリヤ 拇指の頭を食指と中指の間から出して握つた拳、これを相手の面前へ突き出すことによって侮蔑嘲弄を表はす。シーシュカともいふ。
ウクライナ語"Дуля"
 https://uk.wikipedia.org/wiki/%D0%94%D1%83%D0%BB%D1%8F
 ロシア語"Кукиш"
 https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D1%83%D0%BA%D0%B8%D1%88
 日本語
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%B3
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/46/%D0%93%D1%83%D0%BB%D0%B0%D0%BA_%D0%9A%D1%83%D0%BC%D0%B5%D0%B4%D0%B8%D1%8F.jpg
頁24 彼得堡 ペテルブルグ
頁25 坦・砥の如し
⇒意味が分からなかったので検索すると、榎本武揚がサイベリアで詠んだ漢詩に、
 一条官道坦如砥一条の官道 坦なること砥の如し
 と云う文句があるそうなので、戦前ロシア文学を読むような手合いには、
 この文句が人口に膾炙していたのかと。

現代語訳 榎本武揚 シベリア日記 (平凡社ライブラリー)

現代語訳 榎本武揚 シベリア日記 (平凡社ライブラリー)

榎本武揚 シベリア日記  (講談社学術文庫 1877)

榎本武揚 シベリア日記 (講談社学術文庫 1877)

頁25 崩穴 がけ
頁25 甜瓜 まくはうり
頁25 茨の實を入れた梨の濁麥酒クワス
⇒イバラの実とはどんな味かと検索しましたが、便秘の薬で、
 作用が激しいから服薬には気をつける、と出ました。
頁26 恐惶謹言
頁48 留 ルーブリ
頁48 去勢牛 きんぬき
頁50 變改 へんがへ
頁50 彌次りとばして
頁52 大露西亞人 モスカーリ
⇒この本に於ける大ロシア、小ロシアが、現在のロシア、白ロシアウクライナ
 ウクライナの中も東西で、ロシア寄りと西欧寄りに別れる状況の奈辺に位置するか、
 読んでて分からなかったです。
頁60 北叟笑み
頁98 基督繁會と人類全體の仇敵である加特力
コトバンクhttps://kotobank.jp/word/%E5%8A%A0%E7%89%B9%E5%8A%9B-464976
 「加特力」とも書く。
<下巻>
頁33 靴下を穿いた洒落者 譯註往時、一派の露西亞人は靴下と稱すべきものを用ゐず、ぼろ切れを足に巻きつけて長靴を穿くのが普通であつたから、靴下を穿くほどの人間といえば、法外な洒落者といふことになる。また當時でも猶太人のみは靴下に短靴といふ輕装をしてゐたから、茲にもその意が含められてゐると見てよい。
⇒「茲(ここ)」
頁34 梵妻 おだいこく
コトバンクhttps://kotobank.jp/word/%E6%A2%B5%E5%A6%BB-632140
僧侶の妻。
頁35 鰥 やもめ
頁35 籬垣 ませがき 頁74 籬
Weblio辞書http://www.weblio.jp/content/%E7%B1%AC%E5%9E%A3

頁68
「どうか勘弁して下さい、ワクーラさん!」と、哀れつぽい聲で呻くやうに惡魔が言つた。「どんなことでも、あなたの御用を勤めます。ただ懺悔をするために魂だけは放して下さい。その怖ろしい十字を私に向つて切らないで下さい!」
「へん、なんといふ聲で、この忌々しい獨逸人めは吠えやあがるんだ! 今こそおれは、どうしたらいいかが分つたぞ。さあ、これから直ぐにおれを背中へ乘せてつれて行け! 分つたか? 鳥のやうに飛んで行くんだ!」

頁208にも付箋をしたのですが、今読み返して、どこの何をチェックしたのか、さっぱりです。

図書館で岩波文庫借りましたが、青空文庫になっていた。
でも図版のことがあるから、岩波文庫でよいと思います。以上

青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000207/card47123.html
(2016/2/8)