『魔法の樽 他十二篇』 (岩波文庫) 読了

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)

The Magic Barrel: Stories (FSG Classics)

The Magic Barrel: Stories (FSG Classics)

カバー = 中野達彦
カバー写真 = ニューヨーク・ブルックリンの街角
      (一九一五年撮影)
      ここにマラマッドの一家が一九二四年に
      雑貨屋を開いた。

(Brian Merlis collection/Brooklynpix.com)
解説は訳者に依る。

この作家さん知らないはずでしたが、スペルを打ち込んだ記憶があり、
日記を検索すると、ジュディス・メリルのSFアンソロジーで、
ユダヤ鳥」"The Jewbird (1963) by Bernard Malamud (short story)
という作品を読んでました。
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20170610/1497096166
作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%89
なにかよく分からない関連で知り、借りた本。

解説に依ると、1958年発表の表題作は、1970年前後に三種類邦訳された由。
 邦高忠二訳 荒地出版社
 繁尾久訳  角川文庫
 加島祥造訳 新潮文庫
短編集のほかの短編は、柴田元幸訳も2009年刊行済との事。
なので、登場人物のカタカナ名などは、訳者の好みで異同がありそう。

まーでもこれだけ邦訳がある中ではあるけれども、
されど岩波文庫赤版にマラマッドが加わってもいいじゃいか、
とは訳者の弁。たぶん私が、ハリイ・ケメルマンを読んでたので、
先行する米国ユダヤ人作家の短編が周囲から飛んできたと思います。
が、カレッジで創作を教えながら執筆する作家の方ですし、
奥さんはカソリックのイタリア系ですし、
ユダヤ人とは自覚的にかくあるべき、と考える層とは、何か違う。
『天使レヴィン』"Angel Levine" の下記描写など、
なんだったか、スモール・ラビが、キリスト教の影響を受けた一派、
と、批判的に話していたポーランドの一派みたいな気も、
しなくもないです。生きるために必死に逃げてきた無国籍者たち。

頁82『天使レヴィン』"Angel Levine"
 このような試練の間、マニシェヴィッツはぐっとこらえていた。まるで災難が知り合いか遠い親戚に起きているかのごとく、すべて自分に降りかかっているなんて信じないとばかりに。これほどの苦難に見舞われるということが、理解できなかったのだ。馬鹿げていて、不公平で、神に対する侮辱だとも思えた。彼は信心深い人間でもあったのだ。マニシェヴィッツは苦難の最中にも、こうしたことを本気で思っていた。自分の負担が堪えられないほどに重くなると、落ちくぼんだ目を閉じて祈った。「ああ神さま、どうして私がこんな目に遭わねばならんのでしょう?」それから、これでは祈りにならないと考えなおし、文句を言うかわりに身を低くして助けを求めた。「ファニィが健康になりますように。そして私の方も、一歩歩くごとに痛みを感じたりしなくなりますように。今、助けてください。明日では遅すぎます」そしてマニシェヴィッツは泣いた。
Throughout his trials Manischewitz had remained somewhat stoic, almost unbelieving that all this had descended upon his head, as if it were happening , let us say, to an acquaintance, or to some distant relative; it was in sheer quantity of woe incomprehensible. It was also ridiculous, unjust, and because he had always been a religious man—an affront to God. This, Manischewitz fanatically believed amid all his suffering. When, however, his burden had grown too crushingly heavy to be borne alone, he eased himself into a chair and with shut hollow eyes prayed: "My dear God, my soul, sweetheart, did I deserve this to happen to me?" But recognizing the worthlessness of this thought, he compelled himself to put complaint aside and prayed humbly for assistance: "Give to Leah back her health, and give to me, for myself, that I should not feel pain in every step I make. Help now, or tomorrow we are dead. This I don’t have to tell you." And Manischewitz, aching all over and grief-stricken, wept.

http://faculty.history.umd.edu/BCooperman/NewCity/AngelLevine.html
http://faculty.history.umd.edu/BCooperman/NewCity/AngelLevinequestions.html
こういうのなんだったか、ハシディズムだったかな、
と検索しましたが、ハシディズムとはまた違うような。

ハシディズム Hasidism コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8F%E3%82%B7%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BA%E3%83%A0-114183

この小説の頁84には、このあいだ生活保護を申請したところだった。
という一文があり、アメリカ人と、米国に生活保護ありやなしやで、
ときどき言い争いをする私は、ホラやっぱりあるじゃん、
と思ったのですが、原文は、"for he had recently applied for relief."
で、それが生活保護なのかどうか分かりませんでした。
あと、この文は過去完了で、Google翻訳は、もしかして現在完了?
と聞いてきています。天下のマラマッドさんに対しなんちゅうことを。

『最後のモヒカン族』"The Last Mohican"は、へーこれこの人が書いたんだ、
と思いましたが、有名なのは、『モヒカン族の最後』"The Last of the Mohicans"
でした。まぎらわしい。総じてイタリアものは、下記も読んでないので、
読まないとダメかなあ、と思うばかりでした。

イタリア・ユダヤ人の風景

イタリア・ユダヤ人の風景

あとはアメリカ東部の都市貧困生活の話。相互扶助が裏切られる話など、
身につまされてしまい、しかし、血縁が機能しない場面で、
キャラがいちように、親戚縁者はヒトラーに殺されて、
自分たちだけ生き残ってアメリカに移住してきた、
だから頼るあてがない、と叫び、
そこだけが他の移民の民族とユダヤ人の違いになってて、
特にユダヤ人の祭礼や食事の禁忌が描かれるわけでもないので、
ユダヤ人に特化した記述というと、矢張りホロコーストの過去、
になってしまうという、そういう小説と思いました。

あと、表題作のヒロインの職業が、私には分かりませんでした。
どういう隠喩でそういうことになってるのか、分からない。
あと、リリー・ハーショーンの喋り方は気に入りました。
ラビはえり好みしてはいけないですよ。シワがなんだ(うそ)以上