『「世界」とはいやなものである 〜極東発、世紀をまたぐ視点』読了

「世界」とはいやなものである~極東発、世紀をまたぐ視点

「世界」とはいやなものである~極東発、世紀をまたぐ視点

これを読めば関川夏央の回天というか回心が分かるだろうと意気込んで読んだのですが、この人はいつの時点でも「過渡期」「さびしさ」でものごとを括ってしまうのだろうかと、げんなりはしませんが、肩透かしを食らった気がしました。

四部構成です。
第一部が21世紀日本とその他の事象。
ハーリーシャンズとか出ます。懐かしい。
非常勤講師として薄給で臨んだ某国立大学のぱんきょう講義「大正文学の歴史的位置」で、21世紀の大学生は、授業をさぼらないしみんな私語とかなく真面目に聞いている(スマホ以前の光景)はずなのに、たった八百字のレポートで、どの学生も判を押したように講義でひとことも触れなかった芥川龍之介の実母発狂と本人自殺ばかり書いてきて、教師としての無力を実感した、というくだり(頁41)が特に面白かったです。あれだろ、みんなレポート代筆屋から買ってるだろ、と思わないでもないのですが、パクリチェックくらいはなんぼなんでも関川夏央もしてたでしょうし、ホンマの学生レポートがみんな芥川龍之介のソレばっかでFAということにしておこうと思いました。芥川以外に、志賀直哉、武者小路ッ実篤、大正時代の時代相をテーマとして選べるのですが、芥川以外選ばれない不思議。

第二部は、天安門事件前後の中国及びその周辺旅行記。それを江沢民時代末期2003年の出版時点で読まされるほうも難儀ですが、現代、GDP世界二位でトランプUSAと全面貿易戦争してるくまのプーさん時代に読むのはもっと難儀でした。南巡講話のころの広州のホワイトスワンホテルとか北朝鮮国境の金三角とか、懐かしいと言えば懐かしいですが、作者の未来予測の当たらなさ具合にえんえん付き合う苦痛と恥ずかしさもまたひとしおです。
頁107で、フカヒレとハルサメの区別がつかないと書いてますが、姿煮でないフカヒレは、なべてグルテンにフカヒレエキスをしみこませただけのものですので、関川夏央は正しいわけです。
頁135で、台湾、"NIES"諸国の未来について触れた作者は、日本には技術があるが、"NIES"は労働集約型しかないので、ダメだろうみたいに書いてますが、まさか日本が亀山モデルも半導体白物家電もなんもかんもダメになって、台湾がOEMで日本のすべてを請け負って日本を併呑してしまう未来はまったく予測出来なかったのだな、と、寂寥の想いがここでもぴゅー。
頁146のクチのベトコンのトンネルは、ロンプラに写ってた女性がベトナム人でなく日本人観光客だった、という故事をまた思い出しました。
頁163、ナホトカで登場する高杉一郎『極光のかげに』は読んでみます。関川夏央は、この本のギリシャ正教ヒューマニズムの世界観を持つおだやかでおおらかなロシア人群像の描写に打たれたとか。

極光のかげに―シベリア俘虜記 (岩波文庫)

極光のかげに―シベリア俘虜記 (岩波文庫)

第三部はサウスコリア。移民が日本を変える可能性を秘めているとか、そういう、回天以前の思想がるる語られていて、どこで彼は挫折したのかと思います。
日韓ウォルドカプウの決勝を現地(よここく)で三谷幸喜の隣で見たそうですが、三谷とはロクに会話はなく、作者のサッカーの知識はセルジオ越後に負うところが多かったそうです。
ユンハクジュンの思い出を語っています。そういえば、四方田犬彦の本でもユンハクジュン出てくるなと思い、関川夏央四方田犬彦は、ぜんぜnクロスしないな、どっちもコリアとか東アジアとかやってるのに、不仲説とかあるんだろうか、業界通でないので知らないや、と思います。オンドル夜話は、パルゲンイという単語を私に教えてくれた、よい本です。
戸田郁子さんの本は読んでみますが、1995年時点でハルピン在住だったという、その部分が書かれた本は見つからないので、残念です。あるのかな、韓日夫婦のウスリー川キタイスカヤ通り日記。
ふだん着のソウル案内

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ソウル・サランへ―日韓結婚物語

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韓国両班(ヤンバン)騒動記―“血統主義”が巻き起こす悲喜劇

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第四部はプッケ。

第十八富士山丸事件 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E5%85%AB%E5%AF%8C%E5%A3%AB%E5%B1%B1%E4%B8%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6

飢餓状態の同胞を見て、それまでの夢想状態のトンイルトンイルが一気に影をひそめる悪い意味のプラグマティズムなどが、徐々に関川夏央を萎えさせたのだ、と思います。ヘンな電話がかかってくるとか、そういうのは書いてないので、作者に対しあったかどうか不明。作者の、北朝鮮崩壊予想は、外れ続けて現在に至りますが、外れる現実それ自体が人道に悖っているとも言えます。存続させ続けるメリットの醜悪さ加減。
レバノン人の拉致被害者は自力脱出したり自国政府の強硬な圧力で解放されてるんだとか。ベネズエラ人の不当拘留者も然り。日本にも出来ないはずはないと作者は言いたいのだろうと。

用紙
ヴァンヌーボVG・ホワイト(カバー)
里紙・やなぎ(表紙・別丁扉)
里紙・うす鼠(見返し)
里紙・雪(帯)

カバーイラストレーション………門馬則雄
編集協力………高森静香 ブックデザイン………日下潤一後藤あゆみ
カバーデジタル印字………飯塚隆士(表紙・別丁扉・帯・目次・本文扉も)
本文電算組版………株式会社NOAH

はじめに、と、あとがきがあり、東アジアの地図が数点あります。NHK出版の小湊雅彦さんがアチコチの雑誌、カルチャー誌やら朝日新聞やら諸君!やらに散らばってた本書の小文を一冊にまとめたんだとか。いやー、星野博美とかなら'90年代の中国雑感も懐かしく読めるのですが、関川夏央だとこんなにおしょすいべさ。以上