「バハールの涙」(原題:"Les Filles du Soleil")(英語タイトル:"Girls of the Sun")劇場鑑賞

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母vsIS 女に殺されると天国へ行けない バハールの涙 IS(アイエス)に拉致された息子を助け出すため最前線で戦うことを余儀なくされたクルド人女性バハールの生き様を描いた感動作。

先日人と話していましたら、例の首切り動画始め、火炎放射器を捕虜に浴びせてその後とか、バズーカ至近距離で頭吹っ飛ばすとか、みんな実によくISのひどい動画見てるものだと恐れ入りました。私はその時の会話で初めて存在知ったものばかりです。首斬り動画がきっかけでユーチューブがここまで世界に広まったんだとか。

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 シネスイッチ銀座で一度は観ようとしましたが、チケットショップで前売り買う以外安く見る方法がなかったので、福利厚生でチケット買って新宿ピカデリーで観ようとしたら時間が合わないので、後日、新百合のアルテリオ鑑賞で持ち越した映画。

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秀作

アルテリオの映画紹介を見ると、妙に上からというか、「秀作」と書いていて、ディストピア映画特集するほどな万願寺万福寺の住人たちにとっては、現地動画のほうがもっとゴイスーじゃん、くらいのことなのかもしれないと勘ぐってみたり。で、今日新百合で1,000円メンズデーに見まして、なぜ「秀作」と呼ぶのか、自分なりに考えました。

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ピカデリーとシネスイッチの紹介ページ

ピカデリーとシネスイッチはさすがにそんな、ディスってるのかと勘繰られるような紹介はしてません。もともとこの映画はNHKラジオで日曜朝ゆってたので観ようと思った映画ですし、ヤフー映画でも如何なる勢力が後押ししてるのか☆4以上ですので、新百合の体制に安易に迎合しない映画人気質には驚きました。先日国際交流のある企画でフリの参加者に話しかけられ、TBSは左翼だから最近も抗議に行ったとか、安室奈美恵は左翼だからけしからん沖縄を中国に売り渡そうとするなどもっての外だとか、あと古館一郎とタモリ北野武ビートたけし)は左翼だとか、いろいろ話しかけてこられた時のことを思い出します。参加者の中国人のところに行くのかと思いきや、日本人の中でそういう話をするだけ。相手する日本人も大変だと思いますが、その時は私が相手したので大変もクソもないです。

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冒頭、招き猫の会社が出てきたのですが、たぶんフランスの会社で、邦人嚙んでないんだろうなという。映画の中でもクルド語の会話の中で無謀な突撃策を非難する際に「カミカゼ」という単語がはっきり聞き取れました。マイケル・ベイパールハーバー作ってくれてありがとう。

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しかしなぜここまで上映館をしぼって上映されているのか。この広い都内で、ほとんど銀座のシネスイッチと新宿のピカデリーだけ。それが神奈川に来て、アルテリオと、そしてなんでもかけまっせ~のジャック&ベティ(まだ)こどもの死体があるから(人形みたいに見えますが、こどもの死体も人形みたいに見えます。見た人(わたし)の感想)でしょうか、それとも分娩シーンがあるからでしょうか。ここはひとつのヤマ場で、出産してしまったら身動き取れず逃亡出来なくなるから、破水しながら必死で逃げる場面。なのですが、私はまったく関係ないことを考えてしまい、あおむけに寝るんでなく、しゃがんでいきんで生むのですが、大昔のフランス映画「人類創生」で、類人猿(どうぶつ)と人類の差分として、後背位から正常位のセックスへの歴史的転換があるとして、無修正で正常位でセックルする場面があり、ヘアヌードすら解禁されていない当時の日本で、この場面は当然ボカシで上映されたはずです、ということを考えていました。流石フランス人、コムズカしーなーと。出産のディテールにこだわるあたり。

そう、この映画は、フランスベルギージョージアスイスの合作映画ですが、冒頭の状況説明の字幕もエンドロールも基本フランス語です。記者はフランス人で、バハールもフランス留学帰りの元弁護士なのでフランス語ぺらぺらです。もともと取材通訳のアテンドしようとしてた女性クルド人は英語使いなので、記者も彼女と喋る時はファッキンイングリッシュで、ここだけセリフがよく聞こえて、目の前がぱっと明るくなる気がします。フランス語とクルド語とアラビア語はどれも分かりま千円。

バハール役の人はイラン人だそうなので、どの程度本格的なはっちょんのフランス語クルド語なのかは分かりません。「ラジオ・コバニ」を見ていたので、クルド語はアルファベット表記と知識を得ていて、この映画のスマホLINE通話の場面も、納得出来ましたです。でもそれだとバハールが夫と息子の名前をアラビア文字で刺青してるのと矛盾してしまいますが…笑って許してなのか。

この映画、いろんなフラッグが出てきて、ヤズディは太陽信仰なので、日本の旭日旗にも似たパターンの旗が数種出るのだと理解しましたが、山と組み合わせたやつ、どう見てもチベット国旗に似てるパターンのは全然検索で見つけることが出来ませんでした。黒一色の旗はアイエスの旗らしくて、数日前栗原康という人の本読んでたら、黒はアナーキストの色とあり、ファシスト党の色でもあるので、さらにダーイシュの色でもあったのかと。逃亡した先の自由三色旗はクルドの旗と理解しました。イラクの旗も似てますけど、クルドかなと。

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歌は、パンフを見て分かりましたが、実際に歌われている歌ではなく、映画の創作だそうで、しかし、監督がインタビューで、フランスには集団でメッセージ性のある歌を歌う習慣がないと言ってますが、数世紀前にはいたじゃないですか、ラ・マルセイエーズという歌を歌いながら進軍してた人たちが。ぎろたんせんせー。

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戦争映画というと、戦争の犬たちだったか、地獄に堕ちた勇者どもでしたか、WWⅡのドイツ国民兵が入浴中のソ連女性兵に出っくわす映画で、奉仕させようとして性器嚙み切られる場面があったので、女性兵士の映画もそりゃあるですと思います。イスラエルの女性兵士映画が関連動画で出ました。そしてまた、戦争映画というと、プライベートベンジャミンライアンでもブラピのフューリーでもそうですが、個性的な小隊めんめんを強調してエンタメ演出炸裂がある映画がまずありますが、この映画はそういうのしない派です。ブラックホークダウンもフルメタルジャケットダンケルクもコミカルではなかったと思いますが、この映画も然り。

言うなら、絵コンテ一枚一枚がそのままイラストとして通用するような感じで、それを映像化してみせてくれるので、あーきれいだなー、イラクもシリアも行ったことないけど、トルコ東部とかイラン西部とかもこんな景色だったなー、夜は犬が吠えてるよなー、星がきれいなんだけどそれは見せないなー戦争だもんなーというような展開が静かに続いてゆく映画です。それ以上になると、邦人には理解不可能な、一日で七千人が連れ去られるとかありえないし、お金だけでなく人もロンダリングされて、奴隷となると転売転売で、エンドユーザーのところでは、合法ではないかもしれないが、なんとなく社会のそういう一部でしょみたいな感じになってしまって、脱出とかどうやっての世界になるとか、ところが奴隷もテレビが見れて、そこで著名な女性が℡番号を言うので、奥歯に隠したSIMカード使って、盗んだスマホにそれ入れて連絡取って、そうすると、どこの地方にも、金次第で動くやつがいるので、そういうはねっかえりが集まった寄付金の送金で動いて監禁先からの脱出をスケてくれるという… ぜんぶあたまでは理解出来るんだが理解したくないという。

記者とバハールの会話が核心と思いました。真実を伝えることには意味があると思うバハールと、フェイクもあるでしょうし、真実なんてらららららららーら♪と答える隻眼記者。人々が信じたいのは人生の夢や希望なのよ、悲劇からは必死に目をそむけるの。冒頭記者が窓の外を見ると平和なトルコで、こどもが何の心配もなくキンダーガーデンで遊んでる。私はこの冒頭でけっこうしびれました。そして、それでもとバハールは背中を押してくれます。

バハールのこどもは右のもみあげの前にアザがあるので、こどもが解放されるたび、その子の右のほおを見てしまいながら見ました。その意味で作り手の術中にはまったと思います。女に殺されるアイエスの兵士もふたりしかいないし。で、女性兵士のほうも、ガマンしきれず飛び出して撃たれるのがひとり、坑道で、誰かが先頭に立たねばいけないので先頭にたって地雷にやられるのがひとりです。それの報復というか、ムカついたので捕虜のアイエスを後頭部撃って射殺。女に殺される二人目です。

アルテリオが「秀作」とうたった理由を自分なりに考えると、これらです。でもたまにはこういうの見たいですし、見てよかったと思う。観終わってトイレから出てパンフ買おうかどうしようかめくってたら、来週の17時上映と間違えたおばあさんが来ていて、係の人に説明受けてました。来週見たらいいですよ。ひどいことばかりですが、きれいな映画です。以上