ほかの方のブログで拝見して、読もうと思った推理小説。
Magpie Murders: the Sunday Times bestseller crime thriller with a fiendish twist
- 作者: Anthony Horowitz
- 出版社/メーカー: Orion (an Imprint of The Orion Publishing Group Ltd )
- 発売日: 2017/06/13
- メディア: ペーパーバック
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カバーイラスト=Will Staehle カバーデザイン=Will Staehle/中村聡
上巻は、本書で殺害されるゆうめいな推理小説家、アラン・コンウェイというしとの遺作というていさいですので、愛煙家の女性編集者がだらしないかっこうでベッドで(棒 その遺作を読み始めると、中扉が現われ、作者紹介と彼の創造した名探偵シリーズの既刊が並び、各誌絶賛の文句と、BBCにてテレビドラマ化決定!の煽りがあります。本書の邦訳は創元推理文庫ですので、中扉の意匠は、創元推理文庫を模したものになっています。鍵が剣になってる。ケルビム。これがハヤカワのポケミスやハーパーコリンズ・ジャパンの本を模したていさいだったら、東京創元社のふところって深いんだなと感心する人一割、気づかない人九割と思います。その装丁も中村聡さんでしょうか。
上巻は特にありません。下巻は、遺作の謎解き場面だけが紛失した原稿と小説家の死によって起こるドタバタ、女性編集者がオトコについていくのを取るか(ギリシャのリゾートホテルの共同経営者かなんかになる)仕事をとるか(出版社の最高責任者になる)悩むわんという話です。死んだ小説家は本当は推理小説家でなくジュンブンがやりたかったそうで、敬愛する作家はサルマン・ラシュディだったそうなので、回教を冒涜して死刑のファトワが出されてそれで死んだというオチでもいいかと思いましたが、その推理はハズれます。
頁226
「きみのような人間はどうやらわかっていないようだが、きみが誰かに殺される確率は、宝くじに当たる確率より低いのだ。昨年の殺人事件発生率を、きみは知っているかね? 被害者となったのは五百九十八人だ——わが国の人口六千万人の中からな! そうそう、きみがおもしろがりそうな話も教えてあげよう。わが国のいくつかの地域では、その年に起きた犯罪の件数より、解決した件数のほうが多い。どうしてだと思うかね? 殺人の発生率が急激に低下した結果、何年も前の未解決事件を再捜査する余裕ができたということだ。
(中略)ああいうことをしでかす犯人は、綿密な計画など立てはしない。めざす相手の眠る家にこっそり忍びこんで、屋上からそいつを突き落とし、誤読してもらえることを期待して手紙を出すとか、きみの話していたようなことは現実には起きんのだよ。アガサ・クリスティの小説とちがって、かつらをかぶったり、着飾ったりもしていない。わたしが見てきた現実の殺人事件はみな、犯人が狂気に、怒りに、酔いに衝き動かされて起きるにすぎんのだ。(中略)殺人の動機は、たった三つしか存在しない。セックス、怒り、金、それだけだ。道でたまたま会った誰かを殺す。ナイフを突きたて、相手から金を奪う。誰かと口論になり、壜の底を砕いて殴ったら喉がぱっくり裂けた。あるいは、むらっときた女を殺した。わたしが見てきたかぎり、殺人犯はみな愚鈍なくそったればかりさ。頭の切れる人間など、ひとりもいない。お上品な人間も(略)ただの愚鈍なくそったれだ。そんな連中を、われわれはどうやってつかまえると思うね? 気の利いた質問をぶつけたり、アリバイの嘘を暴いたりはしない。まず、監視カメラの画像を探す。犯人が自分のDNAを現場にばらまいていることもしょっちゅうだ。犯人が自白することもある。こうした真実を、いつか本にして出してもいいが、きっと誰も読みたがらんだろうな。
死んだ小説家は、友人知人を自作にそれとなく織り交ぜる人で(日本でもそういうポルノ小説家がいたようないないような)(車谷長吉はそれとなくでなく直球で登場させるから違う)この黒人警視をモデルにしたチャブという警部補を登場させるのですが、チャブというのは19世紀の錠前屋の名前だそうです。チャプスイのチャブかと思ったのに。
港湾用語で 休憩の事を『ちゃぶ』って言いますが語源がわかる... - Yahoo!知恵袋
閩南語で"吃饭"をじゃっぷんじゃっぷん言う、そのじゃっぷんが卓袱台にまでなってるとは、目からうろこです。
読んだのは上巻が四刷、下巻が八刷でした。普通上下巻は上巻のほうがハケるものですが、ネタばれ見て、上巻は飛ばして読んだ方が早いと知った人が飛ばして読んでるんでしょうか。
主人公が編集者なので、聞き込みをひとりひとりするのも大変で、なんで編集者が、小説家の死因が殺人だったかもしれない(公式には事故死)調査を警察に任せず自分でしてるのさ、なんの権利があってプライバシーの侵害してるのさという、その壁を最後まで破れません。探偵ごっこなんてやめて重版出来とか言ってなさいよという。上記の警視は黒人なのですが、ジェマイマというボスの秘書の女の子が、これ最初私はF.ザッパの「電気仕掛けのジェマイマおばさん」から黒人だと思い込んでたのですが、その後彼女は金髪という形容が描かれ、金髪の黒人か金髪の白人か金髪のオリエントか分からなくなりました。
下記は出版社がドサ回りする際に行く書店フェアの地名一覧で出てくる街で、どこの中国人かベトナム人だろうと思いましたが、ウェールズの古書店街とのことで、漢語由来の地名ではなさそうでした。
主人公の彼氏はギリシャ人とイギリス人のダブルで、ワムのジョージ・マイケルもギリシャ系でしたが、小説のギリシャ系は有名小説家にナオンをとられます。その後主人公と知り合う。で、有名小説家はスケのすすめで推理小説を書いて当たり、妻と子どもを捨てて若い男娼をパートナーにします。その小説家の、あたった小説の名探偵はギリシャ人とドイツ人のダブルです。ここまで煙幕張るなら、ジョージ・マイケルも出せばよかったのに。何が言いたいかというと、主人公は彼氏の前でぜったいにあのこゆいコーヒーを「トルココーヒー」と言ってはいけないのだそうで。それがうまく長く付き合ってゆくコツだとか。粘るアイスも「トルコアイス」と言ってはいけないのでしょうか。
この小説では「ウーゾ」で、あの白く濁る透明な強い蒸留酒が出ますが、私は「ウゾー」で覚えています。
小説家は縦読みやアナグラムの名手だったそうで、イギリスに2ちゃんがあったら、その才能と承認欲求はすべてその無駄なインターネットサイトに吸い取られて、名声と富を得ることはなかったでしょう。そんなしちめんどくさい縦読みの数々を翻訳した山田蘭という翻訳者の方を解説の川出正樹という人はもっとホメてあげてもよかったと思います。
解説に「フーダニット」という言葉が登場し、フディーズの仲間かと思いましたが、検索すると、f音ではなくh音みたいでした。hulu
小説家は登場人物の名前もぜんぶ地下鉄の駅名にしたり河の名前にしたり鳥の名前にしたりして隠します。その中で主人公が読者に、これ、なにしばりだ、わかりる?と書いてくるのが、ジョン・ウォーターマン/パーカー・ボウルズ広告社/キャロライン・フィッシャー/カーラ・ヴィスコンティ/オットー・シュナイダー教授/エリザベス・フィーバーの、以下ネタバレ万年筆しばりなのですが、そんなの知るかでした。以上