〈恐怖少女セレクション〉『ずっとお城で暮らしてる』(学研ホラーノベルズ)読了

装丁=堀立明
フォト提供=Ⓒオリオンプレス
編集制作…東雅夫
幻想文学研究室)

映画にでもなったのかと思いましたが、この表紙は、特にそういうスチールでもないようです。動画検索すると、あちらの市井の白人黒人女性が、思い ゞ にメリキャットのせりふを披露する自撮り"trailer"が観れます。ぶら下がりのコメントがどれもけっこう辛辣ですが…

ハードカバーです。

ずっとお城で暮らしてる (学研ホラーノベルズ―恐怖少女レクション)

ずっとお城で暮らしてる (学研ホラーノベルズ―恐怖少女レクション)

創元推理と学研と、どちらも図書館にありましたので、
どちらを読もうかぱらぱら頁をめくって、蓬髪の主人公にふさわしい、
とっつきにくい文体のほうを選びました。こびがない。
(正確に言うと、共依存の相手に対してだけは、
 コントロールするためにあいきょうたっぷりに話しますが)

カバー折文句(アマゾンの商品説明はここから)
お茶でもいかがとコニーのさそい、
毒入りなのねとメリキャット……

不気味な唄声が暗示する惨事の影
閉ざされた館に高まりゆく愛と死と狂気
モダン・ゴシックの女王の最高傑作、本邦初訳。

歌の全文は頁30など。でもまあこの略文がいちばんだと思います。
下のほうに歌の原文載せましたが、七五調かつ細部を省略した訳詩が、
素晴らしいです。これだと、肯定も否定もしていない。
日本人が原書のゼロワンをあいまいに変えてしまった。
流石俳句と短歌のくに。学研訳は、主人公の一人称からして、
「わたし」と「あたし」が意味もなく混在しています。
絶対原文の一人称、二種類ないと思う。

創元推理のほうの解説で、解説者桜庭一樹が、学研版は永く品切れで、
編集がこの小説を知らないので、時代の変遷を噛みしめていると、
若いのがそっと桜庭一樹にこの歌を耳打ちして、ミス研でみんなで歌ってました、
と告白する場面があります。そいつの吐く息がクサかった、つーオチでなく、
どんな節回しで歌うのか知りたくて検索しましたが、出ませんでした。
ミス研業界の門外不出の秘伝かしれません。

学研の解説は稲生平太郎。メリキャットは屋根裏に幽閉された存在でなく、
所有地と城内にて自力更生する支配的存在、との明察を披露しています。

横山茂雄 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E5%B1%B1%E8%8C%82%E9%9B%84

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

We Have Always Lived in the Castle (Penguin Modern Classics)

We Have Always Lived in the Castle (Penguin Modern Classics)

We Have Always Lived in the Castle Wiikipedia 現在完了形…
https://en.wikipedia.org/wiki/We_Have_Always_Lived_in_the_Castle
Pascal Covici Wikipedia ←冒頭献辞を捧げられている編集者
https://en.wikipedia.org/wiki/Pascal_Covici

“Merricat, said Connie, would you like a cup of tea?
Oh no, said Merricat, you’ll poison me.
Merricat, said Connie, would you like to go to sleep?
Down in the boneyard ten feet deep!”

https://www.goodreads.com/work/quotes/847007-we-have-always-lived-in-the-castle

以下後報
【後報】
これまでに読んだ彼女の作品
2017-09-14『たたり』 (創元推理文庫) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20170914/1505334961
2017-05-05宮部みゆき編『贈る物語 Terror』読了
⇒『くじ』所収
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20170505/1494002031
2017-04-25ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト 下』
創元推理文庫)読了 ⇒『ある晴れた日に』所収
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20170425/1493130848
2017-09-26『〈スラップスティック式育児法〉野蛮人との生活』
(ハヤカワ文庫)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20170926/1506436222

最後の本を読んで、英語版ウィキペディアで、伝記があって、
パートナーが実はいばりんぼで浮気もされて、作者が若くして死んだのは、
タバコの量とクスリもあったんだな、ということが作者自身の筆では、
こういうふうにしか書けなかったのか、公称年齢と実年齢もアレ、と分かり、
やるせない思いに駆られました。そのとき、この本いつか読もうと決めた。

シャーリイ・ジャクスン 英語版 Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Shirley_Jackson

毒殺されるのは親もですが、血縁のない伯母とか、あと兄。
シャーリィが、父親を崇拝して似てきた息子を、どう見ていたのか。
そして娘をどう見ていたのか。犯人なんて三行で分かりますが、
なぜ無罪になるのかは、狂ってるので分かりません。ちゃんと書けない。
登場人物は全員、被告のほうの無罪理由理解してるように書いてあるのに、
読者はおいてけぼりです。まるで分かりません。おそろしい小説です。
中島らもの遺作『酒気帯び車椅子』*1も、
校正前の連載そのままの、つじつまがあわないそのまんまだそうですが、
らものは気になりませんでした。こわくないから。シャーリィはこわいです。
作者が説明をつけず提示してくるそのきっぷのよさが、こわい。

「くじ」は、村びとの態度が、実は私はそれほどこわくないくて、
それは、ハブられる奴が悪人だからです。で、やられて終わるので、
因果応報で納得。こっちは、悪人側から、村びとを、みんな腐って死ねばいい、
というタッチで書いていて、村びとが総決起して群集心理で追いつめるのですが、
お城は不死鳥のように甦って、彼女たちは生きのびるのです。
なので現在完了形。おそろしいなー。『たたり』は、成人してるのに、
親族のアパートの子供用二段ベッドの上の段に居候の貧乏女性の、
そのこころのゆがみが、田舎の広大な幽霊屋敷で現実化してしまいます。
でも幽霊屋敷は彼女の資産じゃない。こっちは、最初から、
お城も領地も現金も菜園も持っている。毎週すべての部屋を掃除して、
フェンスの敷居は毎日見回りして、自分たちでは出来ない大工仕事は、
村びとに頼んでその結果がいやがらせでケンカになって、でも暮らしてる。
シャーリィの書くキャラはここまで肥大して、そしてひょっとしたら、
つげオチ。

また機会があれば彼女の本読みます。以上
(2018/3/13)