『呑めば、都: 居酒屋の東京』読了

呑めば、都―居酒屋の東京

呑めば、都―居酒屋の東京

片岡義男が書評してた*1ので、借りました。
ところどころ敗北を抱きしめて*2チックなふいんき*3があります。
立ち飲み街の多くの発祥が焼け跡で、アメリカ人の著者が歴史考証すると、
どうしても同じ空気をまとわざるを得ないのでしょうか。
ファン・ヒューリックやリービ英雄以外にも、
日本と同じ程度に惨勝した側の空気に精通した洋老さんはいるはずなので、
惨勝を抱きしめてチックな台北農民舎飲み歩記なんかも読んでみたいんですけど、
まだそういう本をみつけていません。ないかなあ。

今、アマゾンの商品検索で、北村薫の同名小説(漢字が「飲」めば、になってるだけ)があり、
北村薫のほうが刊行が早いのを知りました。
著者とちくま何やってんだ、ダジャレは早く言ったもん勝ちやろうが。なめとんかドアホウ。
本書を巻末近くまで読み進むと、吉田類が唐突に登場し、なんかうれしくなった後だけに、
同名タイトルに関しての仁義切りを巻頭か巻末でひとこといれてほしかったなと、残念です。

以下いくつか印象的な箇所を抜粋。

頁19
だから、私は初めての町を訪れるときの「準備」とは、情報に目をつぶり、計画を立てず、つまり頭を空っぽにして出かけることのみである。そして電車を降りたら、できるだけ無邪気な子供のごとく、今度は目をぱっちり開き、耳を澄まし、そして鼻をくんくんさせながら歩き回り、その町と住民、また酒場とその客たちに対し、すなおな気持ちで向かうように心がける。
 だいたい、私の居酒屋探訪はそのようなデタラメ作戦から始まるが、ひとつでも印象に残る〈出会い〉に結びつけば、その日は大成功だと考える。町の歴史や地理などを調べ、居酒屋ガイドを参考にするのは、次に訪れる際、またはその後日でもよい。初体験では、“less is more”という格言を肝に銘じている。

頁119
 川本三郎著『東京の空の下、今日も町歩き』には、赤羽一番街や「まるます家」などに触れているエッセイがあるが、「いい居酒屋のそばには、なぜか古本屋がある。決してご大層な店ではないが、古本屋があるのはうれしい」と書いている。

頁127
しかし、朝酒を楽しんでいるのは、まじめに仕事を終えたばかりの人たちに限らないだろう――アルコール依存症の客を除いても、ご隠居さんで早朝のゲートボールなどでひと汗流してから「軽く一杯」の人もいれば、平日でも仕事が休みなら、朝から思い切りダラシナク過ごしたい人もいるだろう。

アル中は酒の飲み方を知らない、というか喪失したので、
ファンタジーとしての楽しい酒を求めつつまるで楽しめずに、
脂汗をかきながら嫌な酒を飲んでいるのが常で、
その成分には多分に朝酒や昼酒の背徳が関わっていると思うので、
もう少しこっぴどく描いてもよかったと思います。連続飲酒よくないよ〜
こっぴどくというのは、下記のような記述。

頁212
これを読んで、なるほどと思った。近年における吉祥寺の変容ぶりをうまく捉えているだけでなく、私自身が抱いていた異和感の原点が的確に集約されていた。つまり「渋谷的」な側面への偏重、強いて言えば「創る文化」から「消費する文化」へと重心が移ったように感じられているわけである(近年の渋谷や吉祥寺好きの読者には失礼だが)

頁215
まず、チェーン店居酒屋「わたみん家」と「ミスタードーナツ」が西荻を引き払ったことを知ったら、いきなり祝杯を挙げたくなった(そもそも、いつでも祝杯の口実を探しているが……)。チェーン店は一旦進出したらなかなか消えないのに、見事にやっつけてやった西荻住民を誇らしく思った次第である。

チェーン店の、周りの景観とのマッチング、配慮を欠いた集客のためのデコや照明等への
苦言は別のところにきっちり書いてあります。

他にも、「C'est la vie!」と書いてシカタナイとルビを振ったり(頁268)、
下町をdowntownと訳すとウォール街などの大企業密集地を連想されるので“working class district”と訳す(頁320)、
などの箇所も印象に残りました。

溝の口や立川を取り上げているのも面白かった。
立川にはドヤ、というか木賃宿は一軒しかなかったと聞いたことがあります。
映画『君よ憤怒の河を渡れ』にも立川出てきたな〜
イーストサイドは小田急線住民には縁がないので分からない。
国立マダムについては、山口百恵さんが三浦友和と結婚して住んだ町ってのが大きい
と思いますけど、たぶん意図的に本書はスルーしてますね、そこ。
さて、返却して外出。時間おしちゃったな。

【後報】
依存症のとば口としての、朝酒に代表される連続飲酒については上記。
で、もうひとつの影、暴力等の問題飲酒については、
スジの悪い客タチの悪い客の例としてひとつ出てきますが、
店の女将を持ち上げるためのネタとして出ているだけです。
アメリカじゃ行政の支援とかないからみんな酒代ほしさに犯罪おかして
刑務所行っちゃうらしいし、
日本の刑務所では、アル中は受刑者のなかで低くみられるとか。
そういうこと踏まえて、
酒がまずくなるからそういう客の記述はしたくなかったんでしょう。
(同日)

*1:週刊朝日2013/4/12増大号、表紙:堀北真希

*2:

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人

*3:なぜか漢字で書けない