「タレンタイム〜優しい歌」(原題:TALENTIME)劇場鑑賞


公式 http://www.moviola.jp/talentime/
いや、これはよかったです。素晴らしかった。久々に感動しました。

ヘジャブについて日本では急速に関心が深まっているからって、
福岡映画祭で上映しただけの映画が、しかも直後監督急死の事態で、
その後八年の歳月を経て、映画祭以外ではシンガポールブルネイ以外、
国外上映してないのに、劇場公開決まったとか、奇跡ですよ。

観終わった後、百合ヶ丘の銭湯行った帰りにも、
ヒジャブの小学生が下校するのにすれちがいました。

公式>マレーシアについて http://www.moviola.jp/talentime/malaysia.html
補足すると、独立時北ボルネオ入れないと、主に広東系の華人移民は、
錫鉱山なんかの労働のためにきたわけですが、ようさんいるので、
マレー半島だけだと、土着のマレー系と、華人移民の、
人口が拮抗してしまうので、それで北ボルネオをマレーシアに入れて、
かろうじてマレー系多数の態をなしてから独立したと聞きました。
それだってあれです、華人多数の星城はべっとシンガポールとして独立した、
わけですし。こんな国ほかにないですよ。拮抗多民族国家が、
こぞって分離しつつある21世紀、最後の複数民族人口拮抗国家じゃないですか。
チェコスロヴァキアだって、エチオピアエリトリアだって、ユーゴだって、
ロシアとウクライナだって別れたわけですから、あとはケベックカタルーニャと、
ベルギーとスイスと、マレーシアだけなんじゃないでしょうか。
その意味で、最後ちょっときてしまって、泣きました。
(主人公は大英帝国植民地統治のスキルとして、
 両者のあいだに組み込まれた、タミル系インド人男子と、
 ブリティッシュとマレー系のハイブリッドユーラシアン女子)

マレー華人は、一時期かなり共産化されて、文革期は毛沢東の遊撃戦やって、
かなりダメージくらったと聞いたことがあります。対岸ほどではないですが。
対岸というと、郁達夫がスマトラメダンで結婚した華人思い出しますが、
それは別の話。

対岸のインドネシア華人は、車のうしろに、"I💛ISLAM"のステッカー貼って、
走ってるとか。危機管理で。この映画でも、有閑マダム同士の会話で、
主人公ハイブリッド家庭に対し、華人のアマ雇うなんて、
ハラル作れんのみたいなツッコミがあって、確かに私も、メイドの作る、
焼売などのディムサムを箸で食す場面を見て、だいじょうぶか、
豚じゃねーのかよ、と思ったので、この阿媽さんのメイリンが実は改宗済で、
主人公に対し或る日ヒジャブをつけた姿で現われ、厳格に恋と民族を問う、
という展開に痺れました。この映画、そういうの多いですよ。マヘシュは、
勝気な女家族に男ひとりなので寡黙なのかと思ったら、聴覚障害だったり…

冒頭のスーパー、タミル語に見えるのですが、神とか言ってるし、
なんだろうというのは残りました。軋轢は消えない。
私の好きな映画は、けっこうな確率で神さまみたいな存在が出てくるのですが、
この映画も、車椅子の使徒というか天使というか、が出て来て、
イスラム教も天使はいたはず)ハフィズが、最初は彼が見えないのが、
やがて見える、という演出が、こころにくすぎました。
織田裕二みたいな顔して、秀才という設定。モスクで跪拝してるとき、
手前の絨毯で雀がちゅんちゅん飛び跳ねてるのですが、
これ、やろうとして出来る演出なんだろうかと思いました。
神がかってると思った。雀が飛び跳ねているモスクの礼拝の間。静かな祈り。
(脳に腫瘍が出来て終末医療中の母への祈り、そして歌謡コンテスト)

タン先生とカーホウは広東語で話すのですが、バカは"蠢才"ですかね。
違うかな。で、眼鏡のたどうせ…みたいな子、北京語話すんですよ。
ニーツータオマ?とか言って。ここもなんか、刺さって来ました。
國語とか言ってたから、大陸ではないのかな。へーと思いました。

タミル系は、けっこう派手にさわぐ、というか楽しむ、というか、
なので、刺されるという展開が、日本で見ると唐突ですが、
ペナンで結婚式見たことあるので、う〜んありかも、と思ってます。
タミル人の女の人は、本当にきれいです。漆黒で、彫りが深い。

1958年生まれの監督の母方の祖母は日本人だったとかで、
祖母ならからゆきさんかなあ、祖父ならヘイタイさんかなあ、
と思ってしまう私がいますが、逝去前構想練ってた祖母を描いた作品が、
誰かの手でクランクイン&アップされれば、おのずと明らかになるであろうと。

Talentime Wikipedia
https://ms.wikipedia.org/wiki/Talentime

前にも書いたと思いますが、私はマレーシアの漫画家の Lat が大好きで、
といっても、唯一邦訳されてるカンポンのガキ大将というより、
"Lots more Lat" というマンガをたまたま読んで、福田首相とマハティール、
みたいな時代のマンガなのですが、この映画の世界と、
まったく変わっていなくて、だからこの映画にものすごく、
すんなり入れました。携帯とかスマホがない世界なのも、
ひとつには入りこめた理由かな。PCもブラウン管デスクトップ。

Lat Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Lat

ラットの"Town boy" をいつか入手して読もうと思いつつ、
いまだに読んでないのですが、やっぱりネットで入手するべきか。
マレー系のラットと、中国系の親友との出会いと別れが描かれてる…
らしいです。ラット自身の弁によると、とってもめずらしいことだそうで。

この映画が描いた世界も、そういう世界です。
マレーシアという、各民族の力が拮抗した社会だから描けた、
夢物語。多数と少数ではない世界。本当に、ひさびさに痺れました。以上