「ナシゴレン・ウエスタン」という言葉にひかれて、シネマリンに、メンズデー料金の日に観に行きました。確かに斬新度はすごいです。理解不能の一歩手前をえんえん進む映画でした。地の足のついたストーリーを、ていねいに説明を飛ばすことなく、分かりやすいカットだけでつないでゆく映画なのですが、それでこうなるというのは、もう「腕」としか言いようがないです。
とりあえず復讐の映画ではないです。以前、タイ製のウエスタン見たことありますし(タイ人の酪農農家への研修思い出した)、邦画でもときどきそんなの作りますが、馬に乗ってて、強盗団がいる以外ウエスタンかなあという。マルリナに出てくる武器は銃でなく蛮刀?ですし、首に対する信仰や乗り合いバス等から見ても、インドネシア島嶼部の中でも辺境、お隣は𦾔ポルトガル領チモールというスンバ島(ムスリムは少数派の移住者で、多数派はキリスト教徒と土着アニミズム)を舞台にした、ジャカルタ人の偏見映画と言ったら語弊があるか、ファンタジー映画です。
下の東京フィルメックスの予告動画がそのまま各映画祭や海外のトレーラーと思います。最初から海外を意識してたのか、タイトルや、四つのチャプターは、ぜんぶ英語なんですよね。強盗団"The Robbery"、旅"The Journey"、自首"The Confession"、四つ目は、出産だか誕生だか忘れました"The Birth" 主演女優もティモシーさん。
パンフを見ると、インドネシアでも変わった気候風土というか、枯れた島なのですが、ウィキペディアによると、単に過度の放牧と野焼きで、原野が減少してそうなったということです。そこは食い違いなのか、インドネシアよりかそうでないかで視点が異なるのか。
たぶん撮影はドローン駆使してます。実に1カット1カットが美しい。かなり入念なカメリハしてるようで、更に撮り直しも熾烈だったかしれません。マルリナが馬でぱっかぽっこなだらかな上り坂をのぼって下ってこっちに向かってくるカット、マルリナの頭が切れそうで切れない。常時2cmくらい上に余白の空の青が残っている。これでは、フィルメックスで賞獲りのも分かりますし、ロッテントマトでいいね連打だと思います。ロッテントマトがどういうサイトか知りませんが。インドネシアも人口一億強いる国なので、工作員くらいばんばん動員出来そうですが、この映画でそれをしても意味がないと思います。
監督の写真は公式に載ってますが、ブルカというかヒジャブしてません。クリスチャンなのかな。こないだ見た、タイの象を舞台にした実はシンガポール人監督の映画も、ジョニーKがどうとかいう台湾映画も、女性監督でしたが、なべてフェロモンとかとは別の武器で勝負してる写真を載せています。この映画の監督は、映画「ピッチ・パーフェクト」シリーズに出てくる、韓国人が演じた宇宙人と同じ系列の強みのあるかんばせです。強そうだ。マルリナの企画は、自分がジョカン(ラサの寺ではなく助監督の略)だかアシやってた時に敬愛する監督におろされた企画だそうで、まあ断われないですかね。
出産やら妊娠時のセックスやら、逆子やらはては俺の子かまで、日本でベテランの男性監督が門脇麦みたいな女性アルバイトに「止められるか俺たちを」みたいな感じでこんな企画押し付けたら、訴訟されるかもしれません。パンフでは、台所の風景を、農村社会の女性の居場所、みたいに言ったりしてます。が、あんまりそれは感じませんでした。で、インドネシアの強い日差しが、繊維を編んだアンペラみたいな壁から漏れてくるのを意識的に撮ってると思いました。ここも監督の腕。室内の場面は、実に、隙間の光が美しいです。それと、必ず余計なものが写りこむようなカットで撮っている。風葬の?ミイラですが。ミイラを演じた人はずっと動かないでいるので苦痛だったとか。この一事を以ても、監督の統率能力が分かる。
そう、島がムスリム文化が薄いので、それを踏まえてか、ヒジャブもブルカもアザーンもありません。警察に行く時、教会に行って告白するか、みたいなやりとりはあります。名前も、マルリナはマルリナですが、強盗団が、マルクスだったりフランツだったりニコだったり、洋風です。でもマルリナの子ども(もういない)は、トパンという地元の名前。村の年下の友だち妊婦はノヴィ。その宿六はウンブ。いずれもたぶん島の名前。『ナマコの眼』にも出てくる話ですが、植民地の区切りで、オランダ、ポルトガル、イギリス領オーストラリアに分断されているオーストロネシアは、つながっているんだなあという感じ。アボリジニという名前で、マカッサルと隔てられているように一見見えるけど、洗礼名でない名前だと似たような感じとか、そういうことで。役者も、そういう顔立ちの人を選んでるかもしれません。
私はインドネシア語知らないので、あいさつで「スラマッなんとか」と言ってるくらいしかピンと来ませんでしたが、前園似の強盗団の若いのが、首領の首返してもらって、「テリマカシ」と言ってるように聞こえました。字幕が「ありがとう」ではないので、はっとした。
とにかく1カット1カットが秀逸で、それがぜんぶつながって、1カットも無駄がないです。斬新というのはそこで、野沢直子やキンザザみたいな斬新(斬新かどうか知りませんが)とはレイヤーが異なる。これはすごいなー。こないだ見たクルド人女性戦闘組織の映画も、映像はきれいでしたが、あちらは既成の美しい画像で、はっとするような驚きはなかった。こちらは、どこから何を学んだら、こういう絵をつなげて映画を撮ろうと思うのか、出所が知りたいようなカットが多かったです。マンガとか読んだことないかもしれない、というとウソで、騙されてるかもしれませんが… ゲームも然り。
音楽もすごいです。オキナワのさんしんみたいのも耳に残りますが、冒頭のコップ使ったような打楽器でもう、やられた。トラックから流れる音楽もよいし、とにかくいい感じ。あとはストーリーだけか。最後生まれる赤ちゃんが、四文字映画「カメ止め」は手作りの良さを生かして、ツテでゲットしたモノホンのほんとにちっさい嬰児を登場させてましたが、そんなことそうそう出来るわけもないので、この映画は、それなりに映画に出れるくらいの赤ちゃんを、生まれたてに見えるよう毛を剃ってます。ここは笑いました。このように小道具も頑張りましたし、島のストリートビューを丹念に見てると、映画に出てきたバイクやトラックバスも映ります。あとは本当にストーリー。ぜひほんもののナシゴレン・ウエスタンを作ってけさい。
Marlina the Murderer in Four Acts - Wikipedia
Marlina si Pembunuh dalam Empat Babak - Wikipedia
Marlina Si Pembunuh Dalam Empat Babak - Wikipedia Bahasa Melayu, ensiklopedia bebas
以上