『テニスボーイの憂鬱』読了

 読んだのは単行本。下記文庫本表紙は単行本表紙を左右に割ってます。

テニスボーイの憂鬱 上 (集英社文庫)

テニスボーイの憂鬱 上 (集英社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1987/10/20
  • メディア: 文庫
 
テニスボーイの憂鬱 下 (集英社文庫)

テニスボーイの憂鬱 下 (集英社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1987/10/20
  • メディア: 文庫
 

 初出はブルータス1982年2月1日号~1984年7月15日号 イラストレーションー高橋常政 ブック・デザインー稲葉宏爾・今氏亮二 

テニスボーイの憂鬱 (村上龍電子本製作所)

テニスボーイの憂鬱 (村上龍電子本製作所)

  • 作者:村上 龍
  • 出版社/メーカー: G2010
  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: Kindle
 

 神奈川近代文学館の展示で、現代の作家として島田雅彦(川崎)らとともにリュームラカミが鎮座していて、神奈川を舞台にした作品として、『コインロッカー・ベイビーズ』とともにこの作品が挙げられていたので読みました。コインロッカー・ベイビーズも、横浜という印象がなくて、ブラックジャックで、不良女子高生がBGの捨て子を育てる話のほうがコインロッカー赤ちゃん置き去り事件を題材としたものがたりとしては記憶に残っています。というかこの話でBGという単語を知った。

話を戻すと、読み始めてすぐ、主人公曰くの物語の舞台が「横浜のチベット」であることを知り、私は横浜のチベットがどこか知りませんが、神奈川近代文学館の展示で、佐藤春夫の『田園の憂鬱』もまた横浜の辺境、桐蔭学園があるあたりの鉄(と書いて「くろがね」と読む)を舞台にした小説であると知りましたので、『テニスボーイの憂鬱』は、ユーウツを冠したわけでもあるし、『田園の憂鬱』がなんとなくクリスタル大丈夫マイフレンドな話なのだろうと想像して読み進みました。

横浜市とは (ヨコハマシとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

ニコ百は実に五つの区がチベットで、使えない。

https://ja.uncyclopedia.info/wiki/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E5%B8%82

アンサクロペディアは、戸塚とあざみ野という、相反する二ヶ所がともにチベットになっていて、これも使えない。

横浜の「チベット」はどこ? - [はまれぽ.com] 横浜 川崎 湘南 神奈川県の地域情報サイト

はまれぽは、気温測定でチベットを決めるという本末転倒な企画なので、これも使えない。

まあ、市ヶ尾から河岸段丘に沿った地域で、'80年代に既に宅地開発された地域のことなんだろうな、と。

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表紙。1982年なのにスーパーサイヤ人もしくは遊戯王にしか見えません。ヘアバンドで髪が立ってるわけなので、モッズは違うか、パンクとかそういうものでないことは重々承知してるんですが、それにしても遊戯王。パンクがテニスルックするわけないし、スプレーで髪立ててるわけでないことは重々承知してるんですが、しかし。

主人公は横浜郊外の土地成金の二世で、テニス依存としかいいようのない生活を送っているアラサーです。本書は二部構成(のような)ビルドゥングス・ロマンで、成金というだけだった主人公が、経営するレストランのU局のCMに代役で来たデルモ(のちに年令詐称が分かる。ネタバレ)を口説き落として、シャンパンの味を覚え、妻子ある男性と付き合う自分の将来を鑑みてデルモが逃げた後(ここまで第一部)、いや逃げる前かな、二十代前半のまだネンネのもっとシャンをサイパンでゲットして、ドンペリ人生になり、妻子も彼女も逃がさない的になるが、外出しの避妊なんかダメだお、というわけで中絶とあいなり第二部了(ネタバレ)たぶん今も生きてて、何かに捕まってなければ、還暦を迎えて、もうすぐ古希であろうという小説です。

そのひと回り下でベンツ乗ってる独身の横浜市民知ってますが、私が知ってるくらいだから現在進行形の上流階級ではなく、尾羽打ち枯らして(失礼)、しかしまだベンツの矜持は捨てない、という人で、テニスではなく釣りとギターと熱帯魚なのかな。独身で子どもはいないわけですから、そのように分散されてる。女に関しては、似たようなもん。煽り運転の人もそんな感じな気がします。テニスは、体のパーツのどこか故障しちゃうかもしれないから、まあ、そういう時のために、ゴルフとか、釣りがあるのかもしれないです。特に釣りはひとりで出来るし。でも本書に出るテニスは、壁打ちだけする人とか、太ったオカマの中年とか、奥さんと一緒に来るが奥さんは編物とかばっかしてる退職者とかいて、かなり奇矯です。ブームとしてのテニスが始まる承前だったのか。

運動神経だけの人や、素直な人はテニス向きでない理由が、縷々本書に書かれています。ウィリアムズ姉妹からの流れとか、想像し得たのか。でも本書でもマッケンローは天才だからフォーム真似すると自滅するとか、映画にもなった例の女性の同性愛とかは出ます。

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第一章から第三章までの章扉。コピー機が貴重だった時代に、いち早くそれを使っただけの仕事(松本零士同様)と言ってしまうと、語弊がありますか。どこにレイアウト、配置するかはセンスでしょ。センスありまんがな。みたいな。

作者はドラッグにアレですが、主人公は健全な土地成金なので、ドラッグにはいかないです。女にはいきますけど。ギャンブルもしませんね。そのかわりがテニス。横浜郊外素晴らしい(棒 

主人公の竹馬の友が、インドとアフガン帰りなのですが、勿論ソ連侵攻前のアフガン。松浪某さんの中公文庫の褐色の大地の時代にアフガンに行ったです。この人がなんかリュウ・ムラカミの小説あるある的役割をするかと思ったら、しなかった。この人の店の開店何周年記念かのパーティーで出されたシャンパンを、主人公が安物と看破する場面はせつないです。それが庶民じゃんかよという。バブル前夜のなまあたたかい夜風。主人公の父親は農家で商業作物を作りつつ、狩猟が趣味です。昔は狩猟が趣味の人が多かった。今は誤射が怖いので減ったと思う。山に入る人間がとても多いから。あと猟犬飼ったりとかの維持費が出ないか。

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第四章から第六章までの章扉。ガンド・ロワの第4章で主人公はデルモを失うのですが、わたし的には、ここはWムラカミのもう片方、ハルキ・ムラカミの『ダンス・ダンス・ダンス』の手タレのように、なんらかのかたちで彼女は物語に生き続けてほしかったです。わりとバッサリでした。でもトパーズやインザミソスープよりはマシか。携帯もメールもない時代で、ヨメと息子(幼児)のいる自分の家に電話かけさせないルールを徹底させているので、時おり主人公が公衆電話から彼女の家電にかける以外、会話は始まらないし物語も進展しない。既読スルーもない。袴田くんも登場しない。

dic.pixiv.net

第6章扉はテニスの神様登場。ブルータス読者、ひでえなあ。こんな若い子(でもロボットみたい。だから成金の主人公で満足してしまうのか)でこの展開で神様なのか。

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そんな小説ということで、あとまたごちゃごちゃ書きます。とりいそぎ以上。

【後報】

ハマ郊外の大規模都市開発で出現した土地成金二世なので、頁310、

そういう子供は、絶対に働こうとしない。まともに働こうとする方がおかしいのだ。

 となるそうで、井上ひさしの小説ですと、だいたいそういう土地成金は千葉で、神奈川に対して遠慮があるのですが、流石リュームラカミ、歯に衣着せず、神奈川の総本山、横浜土地成金を流麗に活写します。主人公は先々代まで、小作ではないけれど、赤土で苦労した家の出で、父親はいまだに商品作物を作ってるわけですが、本人はステーキハウスを経営し、これがあたってます。横浜のステーキハウスでチェーンというと、なんだろう。モデルはないと思いますが、私の好きなバッファロー🐃キング♔、ハングリータイガー(これはハンバーグか)はすぐ思い浮かびます。タワラは用田と日大藤沢のほうなので、ハマではないですが、港南台とかあっちも横浜のチベットだそうなので、その近くということで考えるとそうか。さわやかはしぞーか。

バッファローキング 鶴ヶ峰店 - 鶴ケ峰/ステーキ [食べログ]

ハングリータイガー 若葉台店 - すずかけ台/ハンバーグ [食べログ]

ステーキハウス タワラ 善行店 - 善行/ステーキ [食べログ]

さわやか 御殿場インター店 - 御殿場/ファミレス [食べログ]

しかし彼はステーキハウスを開店する際に、元ヤクザで性器に真珠が埋まっていて、趣味は文通雑誌で夫婦交換(スワッピング)の相手を探すことだという独身中年男だが、非常に肉料理に関しては目利きを雇うことに成功し、社員教育なんか、元外務省の役人で現在画商の男に三日間講義してもらったりしています。その講義のさいに教科書として使われた『フランス式プロトコール晩餐編』(頁96)なる小冊子を読みたかったので検索しましたが、リュームラカミの創作なのか、出ませんでした。

頁124、高層ホテルのバーでピアニストが弾く「引き潮」は下記でしょうか。

www.youtube.com

その次にジャズバーでデルモがリクエストして、デルモとのあひびきのテーマソングになる「蜜の味」がよく分かりませんでした。こんな曲でムードが作れるのか。

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こっちかな。

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これかな。

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頁138、「朝日のようにさわやかに」は分かると思いました。

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頁136、「羽を焼かれた灰色鳩」という映画も不明。

頁161、本書は日系ブラジル人が大量に日本に来る前に、現地じょうほうとして、フェイジョアーダはウマいとか、そういうことを書いてますが、三島由紀夫はブラジルで毎日若い男買ってたと頁161にあり、これ、作者の文壇じょうほうじゃねーのと思いました。土地成金の会話としては唐突。

頁178、本書は「カーブル」でなく「カブール」です。あと、環八沿いの精神病院の眺望はいいらしいです。

頁279、蝙蝠料理はサイパンの郷土料理だそうです。そうですよね、南の島じゃ食べますよね、ふつうに。なので、それで新型コロナとか、普通におかしい。

218、別れが信じられない男がきつく抱きしめるのですが、女は両腕をダラリと垂らしたまま、というこのページの描写がよかったです。へたに抵抗しないが、それ以上強く締められたら、痛いと抗議する。だいたいこういう時男は泣いてる。

今七十になんなんとするテニスボーイはどうなってるんでしょうか。その年になる前に何かにつかまって、死んでるのか、マゴヒマゴに囲まれて健在なのか、はたまた。以上

(2020/2/23)