『極夜行前』読了

 これもほかの人のブログで見て、読もうと思った本。

極夜行前

極夜行前

 

 白夜の反対の季節、太陽が一日じゅう出ることのない季節に、うろうろサバイバリたいという冒険家の欲望が『極夜行』という本で表現されていて、この本はその準備段階、承前をまとめた本です。こっちのほうが出版あとのはずですが、連載としてはこちらから順番に、そのつど進捗を雑誌に発表してったのかな。初出はオール讀物2013年から断続的に2016年まで。

極夜行前 (文春e-book)

極夜行前 (文春e-book)

 

 この人は高野秀行の探検部後輩(政経!)ということでもあるので、高野秀行の本でもときどき出てくるはずです。それで覚えていた。処女作にして出世作のヤルツァンポーは、買ったけど積ん読だったと思います。私のようなミーちゃんハーちゃんのチベット好きレベルでは逆立ちしても出来ないような(逆立ち出来ませんが)羨ましい旅に身を焦がれる思いがするから。

しかしチベットはどこまで行っても「政治」がつきまとうので、探検も制約がアレなので、やっぱり極地になるのかなあという。三部構成で、最初がカナダ極地うろうろ旅。その緯度だとちょい低めで、日は出ないが日の名残りのようなものが一定時間あって、実はまあまあ明るいので、次はグリーンランドで犬連れ橇引き旅。下記の本の著者が68歳で出てきたり、植村直己のパドルを作った現地の人が出てきたりします。いや、それは第三部か。

エスキモーになった日本人 (文芸春秋): 1989|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

第三部は、本番に備えて夏の季節に、食糧なんかをあっちこっちに埋めたり隠したりするカヤックの旅。同行の若者はアルバイトしながらこういう山行というかなんというかに機会があれば参加する人。こういう本を読んでいると、「探検」というキーワードは共通なれど、人の人生はさまざまで、その描写に感慨深いです。作者が普段なにしてる人なのか知りませんが(プロの探検家≠ライターでしょうし)アルバイトの若者もいますし、現地でエスキモーになった老人もいる。大学に残ってアカデミズムの世界に入ったり、国土地理院に入ったりして、南極越冬隊にも参加する道を選ぶ人。高野秀行のように、一時期UMAがどうとかウモッカがどうとかという、イロモノキワモノに近い方向に振れて四海に腕組みさせながら、西南シルクロードやアヘン王国のルポも書く人。作者はGPSに頼らず天文観測で居場所を割り出して移動する方法を模索するのですが、その実践を応援する、国内で唯一六分儀という器具を製造するメーカーの、担当者が法政大探検部OBで、それもまた生き方。

六分儀 - Wikipedia

六分儀・金の六分儀 | タマヤ計測システム株式会社

夏の旅は、デポというそうですが、本番の物資をとちゅうとちゅうに埋めてゆく旅なのですが、名前を書いたものは盗ってはいけないが、名前のないものは共有物扱いで勝手に食っていいとか、しかし探検もGPSと衛星電話と航空機による物資投下の時代なので、このルールも有名無実化というか、けっこう食ったり食われたりしてます。いちおう事前に持ち主にメールだかface2faceだかで、あそこに行くけど食ってもいいかと仁義切ったりもしてるようですが、地元の人も来るし、熊も来るし、カオス。

kotobank.jp

作者は、GPSと衛星電話の旅をして、なんかちがうと感じ、両方抜きで旅しようとしてて、その準備段階が本書なのですが、計画と並行してやることをやって、結婚と妻の出産が入ります。で、衛星電話は迷った末緊急用に持って行くのですが、これが、自分のいまわのことば(縁起でもないですが)を伝えるためか、妻子のエマージェンシーを伝えるためか、どっちか片方しか理由書いてなかった気がします。どっちだったかは忘れました。

第二部の犬旅、作者は犬飼ったことないのに、犬と極地を旅する絵はインスタ映えするので旅しますが、なかなか身につまされます。犬は飼い主に似るとか、押さえつけないと主従関係成立しないとか、殴った後俺が悪かった愛してると泣きに入って抱きしめ、これって典型的なDV野郎だよなと冷めたもう一人の自分が自分を見つめていたり。

アザラシとセイウチと海鳥と気持ち悪い走り方をするホッキョクウサギがたくさん出てきて(あとジャコウジカとかシロクマ)、北極なのでペンギンは出ません。アザラシとセイウチが両方とも漢字表記で、最初にもルビあったか分かりませんが、実に頁315までルビをみつけられず、「海象」と「海豹」のどっちがどっちか、ヤマカンだけで読み進めました。合っててよかった。海象は時おりなんかの拍子で人を襲うそうで、その恐怖場面はちょいちょい出ます。

当地の気候は、雨でも雪でも曇りでもなく、「アイスクリスタル」というそうで、湿度が高いので水蒸気が凍結して白い霧となって漂ってるそうで、しかしその単語でそういう気候の概説や画像は出ませんでした。極地以外ではポピュラーでない気候だそうです。

保存食の「ペミカン」は大事だそうで、脂肪不足だと疲れもとれず、寝不足になり、体温もすぐ低下してしまうんだとか。本書では猟で生肉ゲットして、体調不良から回復してます。

ペミカン - Wikipedia

本書の次が本番で、本番は読むつもりなかったのですが、作者はライターでもあるわけなので、最後のさいごで、ハン・ソロがカーボンフリーズされてベーダー卿がルークに「息子よ」と呼びかけて終わってしまうという、非常にこれで続きがないとインカ帝国なオチになってますので、読むかなあと思いました。ライターおそるべし。探検家も然り。三浦雄一郎は出ません。以上