『恋するソマリア』(集英社文庫)読了

書店スタンプラリーで買った本。 

恋するソマリア (集英社文庫)

恋するソマリア (集英社文庫)

 

 以下後報 【後報】

 カバーデザイン/金子哲郎 写真は筆者。単行本は2015年1月同社刊。初出は小説すばる2014年6月~10月号。「おわりに」「文庫あとがき」あり。解説は枝元なほみという下記の人。ビッグイシューに料理コーナーなんてあるんですね。私が買ったことないのがこれでバレた。

枝元なほみ - Wikipedia

www.kyounoryouri.jp

著者の前書(下記)を読まないと、やっぱ話が早くないです。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

本書もカート三昧。というか、カートって、ウィキペディアだと「チャット」って書いてあるんですが(スワヒリ語かな)なんで作者は一貫して「カート」って書いてるんだろう。ナイロビにも邦人の友だち(女性)が住んでるそうなので、「チャット」という表記を紹介してもよさそうにも思います。で、日本ではどうか知りませんが、欧州ではオランダ以外法で禁止済だそうで、ソマリ人はじめカート文化のある人々(難民なのか移民なのか)は、オランダから密輸されるカートで暮らしてるとか。連載時点ではイギリスもおkでしたが、単行本化の時点で禁止された由。でも作者は、それを日本とソマリアを結ぶビジネスにしようとはしてないんでしょうね。麻薬取締官をホントにマンガみたく「マトリ」と呼ぶのか私は知りませんが、内偵くらいはされてる気もする。お大事に。

中古車ディーラーと結託して、ドバイ経由しないといけなかったソマリア近辺の中古車ビジネスを、直で陸揚げしようと頑張る部分が少しあります。もし作者がソマリアと日本を結ぶビジネスでいろいろ小商いをしたいのなら、私のほしい商品は木ブラシです。歯磨き出来る木の枝なんて、保健所はどうかしりませんが、絶対試してみたい。それが可能な価格なら。

頁12、ソマリ人は東アジア人のことをインダ・ヤル、小さい目と呼ぶそうで、そうやってことばから入る所が、作者のいいところだと思います。あるいは早大探検部の伝統スキームなのか。チベットに行こうと思うとチベット語。最初に作者がソマリ語を学んだ日本国籍のソマリ人は相模大野に住んでいたとあり、逢ってたらオモロいなと思いました。その後ロンドンに移住したとか。

頁29に出てくる会社を検索したら、調布の会社で、笑ったのですが、そうやってすぐ上から目線で笑うから私は貧乏なんだなと確信しました。

corporate.beforward.jp

africabusiness.beforward.jp

 その会社の社長の書いた本が公式にありました。

 私は頁278の木ブラシを使ってみたいです。日本だと気候があいませんでしょうか。

頁79に出てくる「バッダ・アス」は下記かな。再生回数だけで判断してます。本書で「アブディナシル」と紹介されてる歌手の下の名前(父親の名前?)が分からないし、なんで語頭にシーがついてるのかも分かりませんですけど。

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これだけ聴いてると、アフリカンやアラブの音楽のスゴいのとまるで無縁やん、こんなんで黒人音楽名乗ってええのん? ホンマ、ただの歌謡曲やわと思ってしまうのですが、そういう「バスケとラップがへたな黒人のレーゾンデートル」みたいなブラックジョークはダメです。作者はソマリ料理を学ぼうと苦戦して、最終的にあるソマリ人姉妹のもとで修業して、ヒジャブなしの姿どころか、二人が踊りまくる姿を動画撮影させられたりします(が、光量不足で映ってなかった)が、そのダンスは本格アフリカンで、そこでやっと作者は、ソマリ人はアラブ寄りだと思ってたが、やっぱサハラ以南のアフリカだなあと思ったとあります。そういう音楽を紹介してほしいなと少し思います。

文庫の解説者はそういう男子厨房に入るの作者の執念をホメてますが、まーこれは姉の夫の理解があったからであって、アフガンでは同じことは出来ないと思います。回教社会をなめてはいけないと。やっぱ女子の世界は女子の取材者がいいと思いますので、作者の嫁でもいいのですが、南陀楼綾繁の嫁が適役ではないかと思ったら、本書刊行のだいぶ前に離婚していた。しかもエンタメノンフ文芸部として作者と共に活動してるそうで。いっしょにソマリランドとかノルウェーに行けばいいのに。それはそれで高野嫁がどうこうするか。下は本書の帯。

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 しおりはなくなってたみたいで、もらえませんでした。

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なんでこんな昭和エロみたいな絵で止めてるのか分からないつべの集英社アカウント。さすがシリトーの小説を多数、品切れ再販未定の塩漬けにするだけのことはある。

頁170、四人組を英語でシャンハイ・ギャングと呼ぶとは知りませんでした。まー私は義和拳教徒をボクサーと呼ぶとも、浅田次郎の陳皮の井戸を読むまで知らなかったわけですが。本書を読んでも、作者が興味ないことは書いてませんから、ソマリアのすべてが分かるというわけにはいかないです。

頁271

 ザクリヤが大きな目をさらに見開いて、「タカノ、俺は割礼してない娘とやりたい。一人紹介しろ!」と突然激しい下ネタを飛ばすと、ハムディが自分の履いていた木のサンダルを脱ぎ、ザクリヤを容赦なくぶっ叩く。

(中略)

 ちなみに、ハムディがいつもサンダルで男子連中をぶっ叩くのは彼女が荒っぽいからだけではない。ムスリムの女子は男子に直接触れてはいけないから、叩くのにも武器が必要なのだ。

これ以外にも前の何処かに一ヶ所、女子割礼をにおわせる記述はあったのですが、ここでハッキリ、ソマリもその文化圏だと分かります。でも作者の興味はそこにないし、だからおもむかない。表紙の女性がたぶんハムディで、いくら異教徒の日本の本とはいえ、ここまで顔出しさせるなんてすげーなー、危なくないのかよ、と思いながら、彼女の氏族がソマリでいちばん戦闘的だとか、ジャーナリストより、政治家になって有名になりたいと願ってるとか、顔出しおkもありかな、という記述は続いていくのですが、それでも、500ドルは別として、安全圏といえるところに話が進むまで、ある程度ハラハラするのは事実です。そこが本書のキモで、だから、『恋するソマリア』なのかもしれない。

頁279

 アル・シャバーブアフガニスタンタリバン同様、過激な生活規範を住民に押しつけている。音楽を聴いてはいけない、映画を観てはいけない、酒やタバコは絶対禁止、男はズボンの裾を短くしなければいけない……。これらに違反すれば、みんなの見ている前で舌をナイフで切り取られたり、喉を搔き切られて殺されてしまう。

 誰かに命令されることを何よりも嫌うソマリ人がなぜアル・シャバーブの言うことを聞いているのか。支持する人が多いのか。

 それは田舎では別に「過激」でもなんでもないからだ。電気がないのだから、音楽や映画などあるわけがない。酒やタバコなどといった贅沢な商品など買える人はそうそういないだろう。ズボンの裾どころかズボンを穿いている人がいない。男子は女子同様、みんな腰巻きである。

 以前、取材で訪れたアフガニスタンの村でも同じだった。だから、私は前からタリバンやアル・シャバーブのようなイスラムの厳格な過激派勢力を「マオイズム」ではないかと思っていた。農村主義である。都市の人間は堕落し、田舎に正しいものが残っているという考え方だ。

 都市の堕落とは酒やタバコや不純異性交遊、音楽や映画・スポーツといった享楽であり、とどのつまり西欧文明である。だからこそ、彼らは西欧社会やキリスト教徒を嫌う。

 マオイズムとは都市と田舎の格差を埋める経済的な闘争なのだ。地方が都市のようになろうとするのではなく、都市を田舎の側に引き戻そうとする運動である。ソマリアで今現在起きていることもそうであろう。そして、アフガニスタンで思ったことを、再び思ってしまう。

 ――こちらの生活のほうが正しいのではないか……。

(中略)

 これは別に新しい考えでもなんでもない。(略)ではアル・シャバーブを支持するのかと訊かれたら、それはノーと答えるしかない。今現在も、私は油断するとその農村主義者たちに拉致されたり殺されたりしかねないのだ。(略)

 中村哲医師の講演を聞きに行った時、このお年でこの人は、タリバンをどう捉えるかで揺らいでいる気がしました。この文章はその一助になりませんでしょうか。その気持ちで写しました。

作者と政治家とジャーナリスト一行の地方取材は、アミソムという、エミネムの親戚みたいなウガンダ軍主体の国連アフリカ連合派遣治安維持軍によって守られてるのですが、ソマリ人たちは、客はホストに何してもいい慣習のとおり、ウガンダ軍をさんざん侮辱して愚弄するので、ウガンダ軍将校もキレて、政府軍と組まずにアル・シャバーブと組んで政府軍を攻撃してやろうか、そうしたらソマリアはすぐ平和になるぞ、と言います。それは作者によると、そのとおりらしいです。ウガンダ軍は精強、そしてそれがゆえに国際社会で非難を浴びている。それをかわすため、メリットのないソマリアのような地帯にも来ている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c7/ShababFlag.svg/300px-ShababFlag.svg.png

アル・シャバブ (ソマリア) - Wikipedia

AMISOM - African Union Mission In Somalia | Peacekeeping Mission | Somalia

African Union Mission to Somalia (2007–present) - Wikipedia

文庫あとがきでは、その後、世界的な密航大ブームの供給源の大きなパートを占めるようになってしまったソマリ世界はこれからどうなるのか、と結んでいます。まだまだ面白いことがありそうだ、と書いてますが、面白いじゃねえよ、と言い返されそうな感じで、海外ソマリ人社会から何かが立ち上るのか、祖国で荒廃に歯止めがかかるのか、そういったことが執筆のテーマにもかかわって来そうな、そんな気がします。さて、どうなるのか。そして表紙の女性のその後や如何に。以上

(2019/9/16)